《5日目》鈴奈兄
「とりあえず部屋片付けるからちょっと待っててね」
僕らは鈴奈が部屋を片付けるまでリビングで待つことになった。殺気を振りまく鈴奈兄と共に。
「もしもの時は骨拾ってあげるわよ」
「俺死ぬの!?」
恵美と優輝が話してると鈴奈兄が殺気を隠せてない笑顔で言った。
「いやー鈴奈が友達を連れて来るなんて珍しいからビックリしちゃったな。ところで彼氏ってどっち?」
『直球すぎだろ……』
あの人殺意を隠す気がなかったな、うん。恵美なんか小動物みたいに怯えてた。
しかし滲み出る殺意とは裏腹に鈴奈が友達を家に呼ぶのは始めてだと言わなかった辺り妹思いなんだな感じた。とりあえずトバッチリを食らうのはイヤだったのでさっさと優輝を紹介することにした。
「この優輝君が鈴奈さんの彼氏です」
「はじめまして優輝です」
「ほっほー、君があの優輝君か〜」
あの、と言うぐらいなのだから鈴奈から話は聞いているのだろう。しかし一体どうやったら初対面の相手にここまでの殺意をぶつけられるのだろうか。
「君は人を見るセンスがある。それはウチの可愛い妹を彼女として選んだのだから間違いないだろう」
「あ、ありがとうございます」
「がしかし!!」
カッ! と目を見開いて鈴奈兄は優輝に向かって指を差した。漫画だったらドン! って感じの展開だ。
「君が俺の妹にふさわしい漢か、見極めさしてもらうぞ!」
『相当なシスコンだな』
これは推測ではない、確定だ。初対面の相手にここまで踏み込んだことを言えるとは、娘の彼氏が挨拶して来た時のお父さんより迫力あるな。まぁ実際見たことは無いけど。
「……ハイ!」
優輝も気迫に負けないように大きな声で返事する。
「……よし、俺が色々質問して行くから全部直感で答えろ! 考えるんじゃ無い。感じるんだ」
「ハイ!」
「なんて無駄に熱い質疑応答なの…」
そんなわけで優輝に質問していくことになった。緊張の解けた恵美はいつも通り呆れている。
「鈴奈のどこに惚れた!?」
「雰囲気です!」
「鈴奈のことをどう言う風に見てる!?」
「優しくて天然だと感じました!」
「キスはしたか!?」
「!」
恵美が一瞬ビクッとした。鈴奈兄は恵美が優輝のことが好きだったことを知らないから仕方が無いがなんともデリカシーに欠ける質問ではある。恵美に対しても優輝に対しても鈴奈に対しても。僕は特に関係ない。
「まだです!」
「今まで他の女性と付き合ったことがあるか!?」
「ありません!」
「世界の誰よりも鈴奈を愛してるか!?」
「ハイ!」
「馬鹿野郎! 俺よりは愛してないだろ!!」
『えー……』
理不尽極まりない。どう答えたってアウトな気がする。
「さて、色々質問して来たが最後の質問だ」
鈴奈兄はそう言うと雰囲気をこれまでの比ではないぐらい鋭くした。関係のない僕でさえ鈴奈兄から発せられる空気に飲み込まれそうになった。研ぎ澄まされた刃のような目で鈴奈兄は優輝に言った。
「君は妹の言葉を……《世界》を信じているか?」
返事は一瞬だった。
「はい」
優輝の言葉には真っ直ぐ一本の芯の通っていた。
「そっか……」
鈴奈兄は小さくそう呟くとさっきまで出してた殺気を収め、優しく笑った。
「部屋の片付け終わったよ」
急いで片付けたのか少し息を切らしながら鈴奈がリビングに入ってきた。
「お疲れ、鈴奈。俺は今から出かけるから留守番頼むな」
「ん、どこいくの?」
「内緒。それより優輝君、俺の留守中に鈴奈に何かあったら……分かってるね?」
鈴奈兄から消え失せてた殺気が再燃した。気のせいか、鈴奈兄の背後に真っ赤な鬼が見えた気がした。全くもってどうして僕の周りには怒ると怖い人がこんなに多いんだ。いや、まあ怒ると怖いのは当たり前なのかもしれないが。
「しょ、承知いたしました……」
「そこまで丁寧にならなくても」
恵美が冷静につっこむ。もう鈴奈兄の殺気に慣れたようだった。さすが鬼の波導をお互い宿しているだけはあるな。
「それじゃ行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」
こうして嵐のように暴れた鈴奈兄は嵐のように過ぎ去って行った。
鈴奈兄の圧倒的威圧感から解放された僕ら三人は各々の考えていることを口にした。
「なんて言うか……うん、二つ名は嵐と暴れるの暴で《嵐暴》って感じかな……」
「間違いなく特性は《プレッシャー》だな……」
「きっとタイプは《ほのお》ね……」
僕らの感想を聞いた鈴奈は言った。
「なにそれこわい」
主人公が主人公してない気がするけど気にしません。




