《4日目》用事
「なん……だと……」
僕と優輝が教室に入った瞬間、誰かがかすれた声でそう言った。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「あの二人が……チャイムの二十分前に教室にいる!?」
ここまで驚かれるほどいつもギリギリに登校してたんだな、と僕が今までの登校時間を冷静に見直しているうちにクラスの奴らが騒ぎ出す。
「どうゆうこと?」
「なにがあった!?」
「天変地異の前触れか」
「なん……だ「それ俺がもう言った」……あっ……そう」
好き放題言われたがめんどくさかったので適当にあしらっていた。それからしばらくしてドアが開く音がした。入ってきたのは恵美だった。
「……ウソでしょ?」
するりと手からカバンを落とした恵美は口に手をあてて涙ぐんでいた。いくらなんでも衝撃を受けすぎだろ、と思ったが今考えると僕らが仲直りしてたことに対することも合わさったのかもしれない。
……いや、そう言えばそのあと近くにいた僕にしか分からないぐらい小さな声で恵美はこう言ったんだった。
「まさか二人に先をこされるなんて……」
もしかすると悔し涙だったのかもしれないな。なんだか色々申し訳ない。
「そこまで驚かれるとこっちも悲しくなってくるんだが」
「だって普段も入学式も終業式も始業式も体育会も文化祭も球技大会も校外学習も、とにかくほとんど全部ギリギリに来た二人が今ここにいるのよ……きっと今年で世界が終わるわ」
「そこまで!?」
まさか世界の命運が僕らの登校時間にかかっていたとは思いもよらなかった。
「そういや優輝は鈴奈と一緒に来なかったんだな」
「鈴奈に言われたんだ。明日は早く行けって」
「なるほどな」
この時僕はやっとギリギリの登校から解放されると心から信じていた。いや、信じたかっただけかもしれないな。
「朝っぱらからテンション高いなお前ら」
眠たそうにしながら先生が教室に入ってきた。
「チャイムが鳴る前から来るとか職員室に居場所がないんだろうか」
「きっと神様の視線が怖いだけだろ」
「聞こえてるぞ」
誰かがボソッと言っていた会話は聞かれていたらしい。否定はしなかったから事実かもしれない。
「にしても妙に騒がしいな、どうしたんだ?」
「そうだ! 聞いてくれよ先生。実はあの二人がチャイムの二十分前に来てたんだ!」
「え、えええ!」
失礼だな。果てし無く。
「私の熱意がようやく、ようやく伝わったか……!」
「いや、それはないです。先生から教わったのはメイド服の偉大さぐらいですよ。いや〜あの時は……」
僕は遊園地のことを思い出しながらその先を言おうとした。しかし後ろからの殺気がそれを許さなかった。
「その先を言ってみなさい…あんたたちのアノ写真を全校生徒にばら撒くわ」
「すみません」
僕は素直にあやまった。いや、すごい怖かったし。
「俺なんも言ってない!」
僕のミスで危うく黒歴史を晒す羽目になりそうになった優輝。泣きそうだったな。しかし恵美はニッコリと影のかかった笑顔で言った。
「一蓮托生」
これで優輝と僕はある意味では運命共同体になったわけだ。
「理不尽だ……」
さすがの優輝もげんなりとしていた。
そんなこんなでみんなでワイワイ騒いでいた。ふと窓を見ると窓から鈴奈が顔を出していた。心配そうな顔をしていたから僕らの喧嘩のことを気にしていたんだろう。どうやら鈴奈に気づいたのは僕だけのようだった。
不意に鈴奈と目があって仲直りしたかを視線で問いかけてきたので笑っておいた。そうすると満足そうな顔をして自分のクラスに帰っていった。
そしてホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴っても僕らは騒ぎ続けていた。
「ふふふ……この写真がある限り私には逆らえまい!!」
「くそ、このままじゃ……」
そこでホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。僕の話の流れからしてそろそろ誰が登場するか分かってきたんじゃなかろうか。
そう、神の降臨だ。
「人の弱みを握って我が物顔とは、感心しないな」
なんでウチのクラスは一時間目がいつも数学なんだ。意味がわからない。おっと、言ってなかったかもしれないが神様は数学の教師だ。
「こ、今回は私なにもしてないですからね⁉︎」
「いや……そんなに警戒しなくても良くないですか?」
いつもはヤラカシテル自覚があるらしい。そうこうしているうちに神が恵美の持つ写真が没収されてしまった。
「いや、この写真には深〜いわけが……」
「コレは酷いな……さて、授業を始めるぞ」
一言、とてつもなく心に突き刺さる一撃を言ったあと恵美に写真を返して授業を始めようとした。恐る恐ると言った感じで恵美が神様へ質問した。
「写真……没収しないんですか……?」
「まぁいいだろ。いつもは振り回されてるんだし、今回はお前が振り回してやれ」
「ありがとうございます」
僕はこの時の恵美の最大級の邪悪な笑みを忘れることはないだろう。
「神は我らを見放すと言うのか……ッ!?」
神の放った一撃が勇者の心を砕いたことにより姫の心の封印が解かた。そして姫は暴君へと姿を変える事となった。これが後に語り継がれる『世界終焉の序章』である。
……どうしてこうなった。
「姫が暴君になってしまったら魔王はどうすればいいの!?」
「とりあえず魔王城へ帰ってはどうですか?」
そしていつものようにその日の授業が終わった。
「少し用事があるから三人は先に帰ってて」
「ん? どうしたんだ」
「少し先生に話があるんだ」
「わかった、それじゃまたな」
いつもの三人と教室の前で別れた後僕は職員室へ向かった。もちろん行き先は担任の先生だ。
「どうした? 忘れ物でもしたか」
少し緊張しながら僕は言った。
「相談があるんです」
「……」
僕の相談とは他でもない、《ifルート》と《元の世界》のどちらに残るかだ。僕はそのことを決めるためにいろんな人の意見を聞こうと思った。それまでのように自分一人で悩みを抱えるのではなく、いろんな人に意見を聞いてその上で答えを決めようと思ったからだ。
しばらく無言で僕の目をジッと見た先生はヨシッ! と声を出して立ち上がった。
「ここじゃ落ち着いて話もできないだろ? 場所を変えようか」




