《3日目》もう友達だろ?
「そっか……そうだったな」
僕は自分の願いを思い出した。なんとなく真っ黒な空を見上げながら僕は呟いた。
「僕が死んで優輝が生きていればいいのに、か。僕らしい願いだな」
『随分と落ち着いているね……』
呟いた後、突然ルーシーに話しかけられた。その声はいつもよりトーンが低かった。声の質からは彼女の真剣さがうかがえる。
『どうかな、内心怖かったりするのかもね』
『そっか……』
自分のことなのに他人事のように話す僕にルーシーは言葉を失ってしまった。そしてしばらく僕は無心で歩いた。
『イヤじゃないの?』
また唐突にルーシーが話しかけてきた。
『なにが?』
『……死ぬのが』
『どうだろうね』
適当に返事をしてからまた無心に歩く。歩いて歩いてとにかく歩く。そしていつの間にか家に着いた。
『僕がここにいるってことは今の僕は死んでないんじゃないか?たぶん、死んだのは《ifルート》の僕かな』
今度は僕が唐突に話した。ルーシーはかなり驚いたようだった。
『……歩いてる間なにも考えてなかったのによく分かったね』
『今思いついた』
ルーシーの様子は驚きと呆れの混じった感じだった。
『君は頭がいいんだね』
『褒めてもなにも出ないよ』
適当なことを言いながら僕は玄関のドアを開け、階段を登って自室のドアを開けた。いつもしてるこの動作さえも他人事のように思えてきた。
確かに僕は少し疑問に思っていた。《ifルート》の自分はどこにいるんだろう、と。
『怒ってる……?』
ルーシーはそんな疑問を投げかけてきた。
『別に。驚きはあったけど許容範囲内だよ。それに優輝をあんな目に合わしたんだ……受けるべき罰だよ』
『なんでそんなに自分のことは軽く見るの?』
ルーシーはまた質問してきた。その質問に僕は少しカチンときてしまった。
『僕を殺した神様モドキがそれを言うのか』
『……そうだね、ごめん』
僕はそこで自分の発言の意味に気づいた。彼女は本気で僕の事を心配しているのに僕は八つ当たりのように当たってしまったのだ。
『……ごめん、意地悪なこと言って』
『いえ、いいのよ。本当のことだしね』
そこでルーシーは実体化してから窓の外の真っ黒な空を見ながら……いやもしかするとそのさらに外の宇宙のさらに外、どこか別の《世界》を見ながら言った。
「昔……ある人が言ってたわ。全ての人を救えない奴に神を名乗る資格はない。せいぜい神に近いどまりって。私はそれから自分のことを神と名乗ることをやめたわ」
「随分とえらそうな奴だね」
ふふっと愛おしそうに笑いながらルーシーは窓の外の黒い空に手を伸ばし、目を細めながら撫でるように手を動かした。
「そうね、彼は本当にえらそうだった。だけど本当にえらそうなのは私の方よ」
そう言うとルーシーは僕の方に振り返り、伸ばした手を僕の頬に当てて言った。
「私もあなたたちと同じ、本当はなんの力も持たないただの人間だもん」
彼女は自らのことを人間と言った。その言葉にどんな意味が、どんな思いがこもっているのか僕には分からなかった。
ルーシーは僕の頬から手を離すと後ろを向いて黙ってしまった。切なげな後ろ姿に向かって僕は言った。
「なぜ僕の願いを叶えたのか、君はいったい何者なのか、今は聞かないでおくよ。と言うよりか前者は僕自身が見つけなくちゃいけない気がするしね」
「そう……」
「だけど後者は……」
僕の言葉にルーシーは反応して振り返って僕の方を見た。
「気が向いたら話してよ、悩みとか晴れるかもだし。それに僕らはもう友達だろ?」
僕は照れ笑いをしながら言った。僕の言葉を聞いたルーシーは表情が抜け落ちるぐらい驚き、驚くほどのスピードで後ろを向いた。
「……初めてだよ。私のことを友達って言ってくれた人」
小刻みに震える小さな背中は神に近い者ではなく、ただの一人の女の子のように見えた。
「そうなんだ。まぁみんな恥ずかしいから言葉にしなかったんじゃないかな」
「そうかな……そうだと嬉しいな」
それからルーシーは黄金の髪を揺らしながら歌を歌った。喜びに彩られたその《歌詞の無い歌》は今でも鮮明に覚えている。自らの喜び全てを乗せたような、そんな歌だった。
彼女が歌い終わったあと、僕はまだ気になることがあったので聞いてみることにした。
「ルーシー、君は本当は《ifルート》の僕を殺してないんだろ? たぶん僕のいない《世界》を創った、って言い方が正しいんじゃないか」
「ん〜、確かにそうだけど……」
ルーシーは言い淀んでいた。おそらくルーシーは僕がいない《世界》を創ったことは僕を殺したのと同じだと言いたかったのだろう。
「ルーシーは僕が《世界》の選択をするための器を創ったんだ。そこに僕がいないのは当然だろ? だからあんまり気にしないでくれ」
「……わかった」
ルーシーはそう言うと少し嬉しそうに笑った。
「年下の友達なんて初めてだから嬉しいな〜」
「……一億も《世界》創ってたらそうそう人に年齢抜かれること無いんじゃないか?」
「レディに対して失礼ね。私はまだジュウ……ゴホンゴホン!とにかく年齢がどうこう言うのはNGよ」
適当なことを言って誤魔化したあと、ルーシーはいつものように元気に言った。
「さ、明日は優輝と仲直りするんでしょ! さっさと寝て体力を蓄えよう!」
僕は勢い良くルーシーにベッドに倒された。
「ちょ……そんな強引にされても眠れないよ」
「そう? それなら強制安眠チョップ!!」
「ッブフゥ!?」
凄まじい勢いで振り下ろされたチョップに額を叩かれた。その勢いで枕がくの字に曲がっているのがわかった。
「……だからと言って……強引に寝させる必要は……ない……」
なぜか痛みは感じなかった。死ぬならこんな感じに楽に死にたいな、なんてバカなことを考えたところで僕の意識は途絶えた。




