第6話 短剣の紹介です!
ダンジョンの中を進みながら、桃が浮遊カメラに向かって話している。
さすが配信者だ。
流れてくるコメントを拾いながら、途切れずに話を続けている。
普段の桃より、少しだけ声も明るい。
「今さらだが、勤め先が知られてもいいのか?」
「本当に今さらですね」
桃が笑った。
「別に問題ないですよ。逆に社員なのを黙って商品を紹介したら、あとでバレた時にいろいろ言われそうじゃないですか」
「それもそうだな」
会社の許可も取っている。
隠して宣伝する方が、よほど問題になりそうだ。
「主任が桜坂に来て、もう一か月なんですよね」
「ああ。もうそんなに経つのか」
「急に決まったので、私たちもびっくりしたんですよ。前日まで何も聞いてなかったですし」
「俺も数日前に聞かされた」
「AMIの商品開発部にいた人が、いきなり桜坂の第一製作課主任ですからね」
「左遷?」
葵が聞いてくる。
実際そうだが、言い方があるだろ。
「あー、声入ってるよー」
「私も世界デビュー?」
「私もですか?」
「二人とも、喋るのはいいですけど、名前は出さないでくださいね」
葵につられて茜まで話してくる。
「登録者三百人で世界デビューはないだろ」
「世界中から見られる可能性はありますから」
「三百人だぞ」
登録者三百人はすごいがさすがに世界レベルではない。
「人数の問題じゃありません」
「世界、狭い」
「もう普通に参加してますよね」
桃は苦笑している。
二人はこのまま声だけで参加するらしい。
その時、前方の茂みが揺れた。
「いました!」
「《魔弾》」
桃の声とほぼ同時に、魔法が飛んだ。
ゴブリンの頭を撃ち抜く。
「あ……」
「……何してるんですかー!?」
「すまん。つい」
「今日は短剣の紹介ですよ!魔法で倒したら意味ないじゃないですか!」
「いちじょー、ダメダメ」
葵からもダメ出しが飛んでくる。
「でも、魔法はすごかったですよ。一瞬でしたね」
茜からフォローも飛んでくる。
「今日はそこを褒める配信じゃないです!」
桃が頭を抱えた。
「敵が出ると、考える前に身体が反応してしまうな」
「今日は考えてください。短剣の紹介なんですから、攻撃魔法は禁止です!」
「分かった。身体強化だけだな」
「本当にお願いしますよ」
桃は倒れたゴブリンと俺を交互に見る。
「というか、一条さん、探索者じゃないですよね?魔法を撃つの、速すぎません?」
「登録はしている。鍛冶師として必要な素材を取りに潜るくらいだ」
「それだけで、あんなに速く撃てるんですか?」
そう言われても、敵を早く倒せるならその方がいい。
素材採取に時間をかける意味はない。
「次、来たぞ」
奥から、もう一匹ゴブリンが現れた。
今度は短剣を抜く。
「攻撃魔法は禁止ですよ!」
「分かっている」
身体強化。
一気に距離を詰め、ゴブリンの背後へ回る。
そのまま首を斬った。
頭が落ち、身体が地面に倒れる。
そしてそのまま煙になって消えた。
「このように新しい短剣は、性能が五割増しだからゴブリン程度なら簡単に斬れる」
「いやいや、速すぎて何したか分かりませんよ!」
「首が落ちたのは見ただろ?」
「結果だけです!斬るところを見せてください!」
「難しい注文だな。だいたい、結果だけ分かればいいだろ」
「それなら配信している意味がないです!」
今ので、短剣の性能は十分伝わったと思うんだが。
解せぬ。
「今度は攻撃する前に、合図してくださいよ」
「どこの世界に、攻撃するタイミングを教える探索者がいるんだ。敵にばれるだろ」
「大丈夫です。モンスターは言葉が分からないので」
決めつけはよくない。
「次、いましたよ。あースライムですね。やめておきますか?」
「ん?なぜだ。スライムくらい問題ない」
今度は分かりやすいように、正面から近づく。
スライムが酸を飛ばしてきた。
横へ避け、そのまま短剣を振るう。
刃がコアを切断した。
スライムは形を崩し、その場から消えた。
「……スライムは、物理攻撃が効きにくいって聞いてたんですけど」
「いちじょー、すごい!」
「スライムは物理が効きにくいんじゃない。コアに当てれば倒せる。切れ味の上がったこの短剣なら、一撃だ」
今度は、きちんと短剣の性能も説明した。
これなら問題ないだろう。
「本当に一撃でしたね。短剣の切れ味もですけど、コアを正確に狙える一条さんもすごいです」
茜が感心したように言う。
「そのコアに当てるのが難しいんです!主任って、一流パーティーにいたりしたんですか?」
「いや、パーティーは組んだことがない。素材集めしかしていないから、ソロで十分だ」
「いちじょー、友達いなさそう」
パーティーと友達は関係ないだろ。
その後も、俺たちは何度か戦闘を行った。
ゴブリンを斬れば速すぎると言われ、スライムのコアを斬れば普通はできないと言われる。
戦うたびに、桃からダメ出しが飛んできた。
短剣の性能を見せているだけなのに、なぜ怒られるのか。
「それじゃあ、今日の配信はここまでです!最後まで見てくれてありがとうございましたー!」
桃が浮遊カメラに手を振り、配信を終了した。
「お疲れ様でした。一条さんも、桃ちゃんも良かったですよ」
「本当ですか。茜さん。一条さんが規格外すぎて大変でしたよ」
「いちじょー、強い。探索者でもやってける」
「俺は鍛冶師で十分だ。桃、何人くらい見てたんだ?」
「ちょっと待ってくださいね。えーっと、最終的に百人くらい見てますね。いつもの配信よりかなり多いですよ」
「なら成功だな」
「コメントも盛り上がってました。短剣の切れ味も話題になってましたよ」
それなら、やった意味はあったらしい。
「ただ、主任のことを気にしてる人の方が多かったですけど」
「なぜだ」
「魔法を撃つのが速すぎるとか、動きがおかしいとか、本当に鍛冶師なのかとか」
「普通に戦っただけだろ」
「その普通がおかしいんです」
桃が端末を見ながら笑う。
「これで短剣が売れるといいんですけど」
「さすがに一回の配信では無理だろ。百人ぐらいしか見てないんだし」
「今日の配信を編集して、短剣のPR動画にします。これでさらに見てくれる人増えますよ」
「ボーナスでる?」
「葵ちゃん、そこは期待しないで待ちましょう」
「期待」
まずは一本でも売れてからだな。




