第27話 天城麗華
A.M.I――天城魔装工業株式会社 本社会議室。
「岩田君、もう一度説明してくれないか」
会長を含めた執行役員たちの視線が、一斉に岩田へ向いた。
「は、はい」
岩田は背筋を伸ばした。
「一条が本社にいた頃、設計した商品は性能こそ高かったのですが、一般性がなく、量産にも向かないものが多くありました。そのため、商品としては売れないと判断され、不採用が続いていました」
「それで、成績不振として桜坂へ出向させたと」
「はい」
会長は腕を組んだ。
「なるほど。あれほどの才能を、我々は評価できなかったわけか」
「……申し訳ありません」
岩田が頭を下げる。
「君を責めているわけではない」
会長はすぐにそう言った。
「当時の商品として評価すれば、その判断も間違いではなかったのだろう」
「ありがとうございます」
「だが、天才は凡才には評価できないというのも、本当らしいな」
岩田は何も言えなかった。
「それで、一条君を本社へ戻すことはできるのか?」
「は、はい。いえ……難しいと思います」
「理由は?」
「現在、一条は桜坂魔装製作所の室長として認知されています。配信も桜坂の公式チャンネルで行っていますので、ここで本社へ戻せば、成果が出たから連れ戻したと思われる可能性があります」
「ふむ」
会長は小さく頷いた。
「関連会社にいるだけ、まだましか」
その言葉に、岩田はわずかに肩の力を抜いた。
「それで、例の盾はどうなっている?」
会長が視線を移すと、別の席に座っていた社員が資料を確認した。
「はい。あの盾については、研究を行うという名目で、こちらへ貸し出してもらえるよう交渉しています。来週には届く予定です」
「作り方は分かっているのか?」
「配信で一条室長が説明しています」
「なんと言っていた?」
社員は一度、資料に目を落とした。
「『全力で魔力を流す。才能があればできるだろう』と」
「……」
会議室が静かになった。
会長が額に手を当てる。
「天才には、凡才のことが分からんか」
その時、会議室の扉が開いた。
「失礼します」
全員の視線が入口へ向く。
入ってきたのは、A.M.Iがスポンサーを務める探索者、天城麗華だった。
会長の孫であり、社長の娘でもある。
探索者としての実力だけでなく、整った容姿と人柄の良さからメディアに取り上げられることも多く、一般にも広く知られている。
「おじい様、お父様。お話があるのですが、よろしいですか?」
「麗華。今は会議中だ」
社長がすぐに止める。
「あとにしなさい」
「ですが、今すぐお話ししたいのです」
「麗華」
「まあ、いいではないか」
会長が二人の間に入った。
「それで、話とは何だ?」
「ありがとうございます」
麗華は会議室の中へ入ると、真剣な表情で社長を見た。
「私とのスポンサー契約を破棄してほしいのです」
「なっ!」
社長が椅子から立ち上がりかけた。
「急に何を言っているんだ!」
「落ち着きなさい」
会長は変わらない調子で続ける。
「麗華。理由を聞こう」
「はい」
麗華は一度頷いた。
「桜坂魔装製作所に、私のスポンサーになってほしいのです」
「桜坂に?」
「はい!」
先ほどまでの落ち着いた表情が崩れ、麗華の目が輝いた。
「一条様が作る武器で、私は探索したいのです!」
「……一条様?」
岩田が思わず聞き返した。
「はい。一条様です」
麗華は迷いなく答えた。
「昨日の配信で青い盾を見ました。衝撃でした。あのような盾がこの世に存在していたなんて」
「それで?」
「過去の配信で、短剣を見ました。片手剣も見ました。そして、一条様の探索者としての力も見ました」
麗華は両手を胸の前で握る。
「すべて見終わった時、分かりました」
会議室にいた全員が、次の言葉を待った。
「一条様は、神です!」
「……」
社長がゆっくりと椅子に座り直した。
「麗華。少し落ち着きなさい」
「落ち着いています!」
麗華は興奮した様子で自分の父親にまくし立てる。
「私は探索者です!より優れた武器を求めるのは当然ではありませんか?」
「だからといって、スポンサー契約を破棄する必要はないだろう」
「あります!」
麗華は即答した。
「A.M.Iの広告塔でありながら、桜坂の武器を使えば問題になります」
「それはそうだが……」
「ですから、桜坂にスポンサーになっていただきます」
「順番がおかしい」
「おかしくありません」
会長が口元を緩めた。
「一条君の武器が、それほど気に入ったのか?」
「はい!」
「どの武器が欲しい?」
「全部です!」
「全部?」
「短剣も、片手剣も、盾も欲しいです。これから作る武器も、すべて使ってみたいです!」
会長はとうとう声を上げて笑った。
「ははは。ここまでとはな」
「笑い事ではありません、おじい様」
「本人はいたって真剣だぞ」
「だから困っているんです」
社長が頭を抱える。
麗華はそんな父親を気にする様子もなく、岩田へ顔を向けた。
「岩田さん」
「は、はい」
「一条様にお会いするには、どうすればよろしいでしょうか?」
「……まずは、桜坂へ連絡を取る必要があります」
「では、今すぐお願いします」
「今すぐですか?」
「はい!」
岩田は助けを求めるように社長を見た。
社長は目を閉じていた。
会長だけが、楽しそうに笑っていた。




