第25話 盾ができました
配信の翌日。
第一製作課に入ると、桃が机の資料を見ながら頭を抱えていた。
「おはよう。どうかしたのか?」
「あ、一条さん、おはようございます」
桃は手元の資料を持ち上げる。
「昨日の配信で、盾を作ることに決まったじゃないですか」
「そうだな」
「問題というか……盾って全員が持つわけじゃないですよね?」
「まあ、4、5人のパーティーなら1人、多くても2人だな」
「ですよね。初心者向けだから高くもできませんし、武器より売れる数も少ないです」
後ろから葵がぽつりとつぶやく。
「ボーナスが減る」
「そうなんです!」
桃は大きく頷いた。
「茜さんも心配ですよね?」
「私は……」
茜は困ったように笑う。
「売上は気になりますけど、朝一番からボーナスの話をされると、ちょっと反応に困るかな」
ボーナスが好きすぎる
「何かと思えば。冷静に考えてみろ。両手剣や斧も全員が持つ武器じゃない。盾だけ特別売れないわけじゃないだろ」
「…………」
3人とも固まった。
「……そ、それじゃあ!早速設計しましょう!形はどうします?」
話を逸らしたな。
葵が桃を見る。
「桃、耳真っ赤」
「ちょっ!葵も勘違いしてたじゃん!」
「してない」
「嘘つき!」
「桃に合わせただけ」
「ひどい!」
茜は苦笑しながら肩をすくめた。
「2人とも、まずは設計しましょうか」
桃は咳払いを一つすると、白紙を広げた。
「さて、気を取り直して。まずは形ですね。初心者向けなら持盾ですよね?」
「そうだな」
「候補は丸盾、カイトシールド、ヒーターシールドですかね」
「カイトシールドはさすがに大きいな。初心者向けならヒーターシールドでいいだろう」
「分かりました!」
桃は図面を書き始める。
「じゃあ次は魔力回路だね。一条さん、盾でも魔力回路は合成できるんですよね?」
「ああ。魔力の流れをしっかり作れば問題ない」
「じゃあ、物理耐性と魔法耐性を両方入れられますね」
「軽量化」
葵が短く言った。
「軽量化ですか?」
「初心者、体力ない」
「あー、確かに重要ですね。でも、どっちかを諦めるほどではない気もします」
茜も図面を見ながら頷く。
「低層でも魔法を使うモンスターはいますしね。物理耐性と軽量化か、魔法耐性と軽量化か……迷いますね」
3人は図面を囲んだまま考え込んだ。
「3つ入れれば?」
「…………」
3人が一斉に俺を見る。
「3つですか?」
「盾は剣より面積が広い。回路を配置する余裕があるな」
「でも、干渉しませんか?」
「配置を考えれば問題ない。剣だと場所が足りないが、盾なら十分入る。例えば…こんな感じか」
簡単に図面に回路を書いていく。
桃は図面を見返した。
「……本当だ」
茜も身を乗り出す。
「全部入りますね」
「全部入り」
葵が小さく頷く。
「初心者向けなら、こんなもんだな」
3人は図面を見つめたまま、何度も頷いていた。
初心者向けの盾作りは順調に進んだ。
今回は型と見本を作れば終わりだ。
量産まで俺たちがやる必要はない。
その点は助かる。
問題があるとすれば、三人の技量が上がりにくいことぐらいか。
設計に関しては前より考えられるようになっているが、作る回数が少なければ、細かい感覚までは身につかない。
「完成しました!」
桃が出来上がった盾を持ち上げる。
「持っていい?」
「どうぞ」
葵が受け取ると、盾を構えた。
「軽い」
「軽量化を入れましたからね。初心者でも扱いやすいはずです」
茜も横から盾をのぞき込む。
問題なさそうだな。
桃は描き終えた図面を見つめながら、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば気になったんですけど……」
「どうした?」
「一条さんが作ったらどうなるんです?」
「同じ盾ができるだろ。できる早さは違うが」
「いや、そうじゃなくて」
桃は苦笑した。
「片手剣のとき、青い剣を作ったじゃないですか。同じように大量に魔力を込めて作ったら、盾も青くなるんですか?」
「見たことない」
葵が首を傾げる。
「そうですね」
茜も頷いた。
「私も見たことがありません。そもそも、できないんじゃないですか?」
「でも、同じ魔装金属じゃないですか」
桃は盾の型を見る。
「込める魔力量が多くなると、盾も青くならないんですか?」
いい疑問だ。
「結果から言えば、青くなる」
「えっ!」
三人が一斉に声を上げた。
「ただ、剣とは違う。盾は厚みも大きさもある。この量の金属を青くなるまで魔力を込めるのは、難易度がまるで違う」
「なるほど……」
茜は納得したように頷く。
「だから今まで見たことがなかったんですね」
「いちじょーでも無理?」
疲れるからやりたくはないんだが。
「目がやられる。部屋から出て待ってろ」
「本当ですか?」
「ほら、早くしないと始めるぞ」
「にげろー」
葵がそう言って部屋を出る。
「ちょっ、待って葵ちゃん!」
桃も慌てて後を追った。
「そこまでなんですね……」
茜も苦笑しながら部屋を出ていく。
三人が出ていったのを確認し、作業場の扉を閉める。
盾の型へ魔装金属を流し込み、魔力を送り始めた。
少しずつ、金属が青白く輝き始める。
やはり量が多い。
剣より時間も魔力も使う。
作業場は次第に強い光に包まれ、隙間から漏れた光が廊下まで照らしていた。
約三十分後。
魔力を止め、ゆっくり息を吐く。
「入っていいぞ」
扉を開けると、三人が恐る恐る中をのぞいた。
作業台の上には、淡い青色に輝くヒーターシールドが置かれていた。
「……きれい」
桃が思わず声を漏らす。
茜も目を丸くしている。
「本当に青くなるんですね……」
葵は盾を見つめたまま、小さくつぶやく。
「初めて見た」
「これ、配信で見せたら大騒ぎになりますよ!」
桃が興奮気味に盾を見つめる。
「いや、見せない」
「えぇ!?」
「商品じゃない。量産できない物を宣伝しても意味がないだろ」
「……確かに」
茜も納得したように頷いた。
作業台の上では、青い盾が静かに光を放っている。
綺麗ではある。
だが、商品にならないなら意味はない。
……二度目は当分いい。




