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性能しか見ていない鍛冶師、左遷先でなぜかバズる~性能特化で赤字子会社を立て直す~  作者: Masaki


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23/62

第23話 ブランド開発室

配信当日。


開始15分前。

第一製作課の作業場には、いつもの四人に加えて詩も集まっていた。


「映像は問題ありません。音声も入ってます」


詩がタブレットを操作しながら確認する。

作業台の前には桃が座り、その隣に茜と葵が並んでいた。


俺の席だけ、少し離れている。


「一条さん、もう少しこっちに来てください」


桃が空いている椅子を叩いた。


「そこでも映るだろ」

「映りますけど、離れすぎです。今回はみんなで話す配信なんですから」

「俺は質問に答えるだけだろ」

「その質問が一条さんに集中すると思います」


面倒だな。

仕方なく椅子を動かすと、葵がこちらを見る。


「いちじょー、配信嫌い?」

「俺の仕事ではないな」

「私は好き」

「知ってる」


葵は配信中でも普段とほとんど変わらない。

緊張というものがないのかもしれない。


「今日の流れをもう一度確認しますね」


詩が資料を開く。


「最初に、皆さんが最初の一本として欲しい武器を聞きます。今回は今販売していない武器が対象です。その結果を見ながら、次に作る武器を決めていきます。」

「性能は聞かないんですよね?」


茜が確認すると、詩は頷いた。


「はい。一条さんに言われたとおり、今回は武器の種類だけです。その代わり、別で今後見たい企画をコメントで募集します」


俺はまだ納得していない。


「採用するとは言うなよ」

「分かってます。あくまで参考です」

「期待させる言い方もするな」

「分かってますって」


詩は返事をしたが、少し怪しい。


「桃も気をつけろ」

「私ですか?」

「お前が一番乗りそうだからだ」

「ちゃんと進行しますよ。面白そうな企画が来ても、絶対にやりますとは言いません」

「たぶんやります、も駄目だ」

「厳しいですね」


やる気がないのに期待させる方が悪い。


桃が時計を見る。


「あと8分ですね」


そのとき、作業場の扉が開いた。


「よかった。まだ始まってないね」


入ってきたのは社長だった。

その後ろには、営業部の山田部長と人事総務部の林田部長もいる。

三人揃って第一製作課に来ることなど、これまで一度もなかった。


「社長?」


茜が立ち上がる。

社長は配信用のカメラを見てから、こちらへ視線を戻した。


「実は、人事に関する発表があってね」

「今からですか?」


桃が時計を見る。

配信開始まで7分。


「ああ。間に合ってよかったよ」


よかったと思っているのは社長だけだろう。

林田部長が封筒を抱えている。

どう見ても軽い話ではない。


「配信が終わってからでは駄目なんですか?」


詩が尋ねると、山田部長が首を横に振った。


「今回の配信で発表することが決まっててね。視聴者にも見てもらった方が、会社として本気で取り組んでいることが伝わると思っているよ」

「公表する理由があるんですね」

「もちろんだよ。それに今回の公表で、登録者数が増え売上も上がればと思っているよ」


山田部長は隠す気もないらしい。


「短剣と片手剣が売れて、公式チャンネルも注目され始めている。ここで次の動きを発表すれば、話題になる」


普通に発表するより配信で見せた方が宣伝になる。

考え方は分かる。

俺たちが事前に聞かされていないことを除けば。


「それで、人事の内容は?」



俺が尋ねると、社長は笑った。


「気になるのは分かるが、もう少し待ちたまえ」

「今聞いた方が準備できますけど」


桃が困ったように言う。


「いや、君たちも配信が始まってから聞いた方が、新鮮な反応が見せられるだろう?」

「サプライズってことですか?」


詩が苦笑する。


「そういうことだ」


社長は満足そうに頷いた。

不安しかない。


「あと十秒です」


詩がカウントを始める。


「みんな、お願いします」


桃が姿勢を正す。

俺も諦めてカメラへ向き直った。


「三、二、一」


桃が指でカウントをする。

赤いランプが点灯した。

配信開始だ。


「皆さん、こんにちは!」


桃がいつもの笑顔で手を振る。


「桜坂魔装製作所公式チャンネルへようこそ!」


コメントが一気に流れ始めた。


『待ってた!』

『一条いる!』

『葵ちゃんきた!』

『今日は何するの?』

『またダンジョン?』


前回より明らかに勢いがある。


「本日も、一条さん、茜さん、葵ちゃんに来てもらっています」

「よろしくお願いします」


茜が頭を下げる。


「よろしくー」


葵はいつもどおり軽く手を振った。

俺は小さく会釈だけする。


『一条、やる気なくて草』

『通常運転』

『これが一条』


言いたい放題だな。


「さて、今日は皆さんにアンケートをお願いしたいと思います」


桃が画面を切り替える。


『最初の一本に欲しい武器は?』


両手剣。

槍。

斧。

盾などの防具。


四つの選択肢が表示された。


「これから武器を始めるなら、最初に使ってみたい武器を選んでください!」

「自分の欲しい、もしくはおすすめの武器を教えてください。リンクにアンケート機能があるので、たくさんの投票をお願いしますね」


詩が補足する。


『両手剣かな』

『槍!』

『斧しか勝たん』

『いや最初は盾でしょ』

『盾は武器じゃないだろ』



「いろんな意見がありますねー。まだ投票していない方は、ぜひ自分の意見をアンケートに投票してくださいね」


そこで桃が止まった。


「あっ、重大発表があるのを忘れてました!」


危ない。

社長がおいてけぼりだ。


コメント欄の流れが変わる。


『新商品!?』

『青い片手剣発売?』

『何だ何だ』

『重大発表』


桃がカメラの外を見る。


「社長、お願いします」


社長がカメラの前に立った。


「皆さん、初めまして」


コメント欄がさらに速くなる。


『社長!?』

『本物?』

『社長きたw』

『初めて見た』


「本日は配信をご覧いただき、ありがとうございます」


社長は一礼した。


「今日は皆さんに、一つご報告があります」


隣では林田部長が封筒を持って立っている。

本当に嫌な予感しかしない。


「桜坂魔装製作所では、本日付で新たな部署を設立しました」


コメント欄がざわつく。


『新部署?』

『マジ?』

『何する部署?』


「部署名は、ブランド開発室です」


社長は続けた。


「新商品の企画、設計、試作品の製作。そして、商品の魅力を皆さんへ伝える活動までを担当する部署になります」


『配信部署!?』

『毎日配信するの?』

『会社変わったな』


社長が頷く。


「そのブランド開発室へ、本日付で四名が異動となります」


林田部長が封筒を開く。


「一条翠」


嫌な予感が当たりそうだ。


「ブランド開発室室長を命じます」


一瞬、作業場が静かになった。


「……初耳なんだが」


コメント欄が爆発した。


『室長!?』

『昇進!!』

『おめでとう!』

『社長www』


社長は満足そうに笑っている。


「新鮮な反応が見られただろう?」


そういう問題じゃない。


「続いて、三枝茜」

「はい」

「ブランド開発室主任を命じます」

「……え?」


茜が固まった。


「わ、私ですか?」

「そうです」


林田部長が頷く。

社長が言葉を続けた。


「第一製作課で現場をまとめてきた実績を評価した。ブランド開発室でも、一条室長を支えてもらいたい」


茜はまだ辞令を見つめている。


「私が主任……」

「おめでとうございます!」


桃が嬉しそうに拍手した。


「茜主任ですね!」

「おー」


葵もぱちぱちと拍手する。


「戸惑いはわかるが…。とにかくおめでとう」


俺もそう言うと、茜は困ったように笑った。


「一条さんまで……まだ実感がありません」


林田部長は続ける。


「桜庭桃、早瀬葵」

「はい!」

「ブランド開発室への配属を命じます」

「よろしくお願いします!」


桃は元気よく返事をする。


「いちじょーと同じ」


葵も短く頷いた。

社長はカメラへ向き直った。


「以上が本日のご報告です」

「ブランド開発室は、桜坂の新しいブランドを作る部署として活動していきます」

「今後とも応援をよろしくお願いします」


コメント欄は祝福で埋まっていた。


『おめでとう!』

『茜主任!』

『室長!』

『ブランド開発室期待!』

『配信続けて!』


社長が一歩下がる。

桃が笑顔で俺を見る。


「それでは改めまして」

「ブランド開発室室長、一条さん」

「一言お願いします」


早速か。


「……室長は配信中だけにしてくれ」


コメント欄が一斉に流れた。


『室長www』

『もう定着した』

『逃げるな室長』


どうやら、今日から俺は室長らしい。



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