最強の仲間!?
「ゼノン……!? なんでこんな所にいるんですか!?」
急襲した白ローブたちを一瞬で叩きのめしたゼノンに向かって、鈴音は驚愕の声を上げた。
「な、なんであなたが!? と言うか、私の名前をどこで知ったんですか!?」
「話は後! ここじゃ目立つから、こっちに来て!」
ゼノンはそう言うなり、背を向けて風のように路地を走り出した。
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってください!」
鈴音は戸惑いながらも、背中に追手の足音を聞き、イリーナの手を引いてゼノンの後を必死に追いかける。
「なんであなたが助けてくれるんですか!? あなた、前に私を襲ってきた敵じゃないですか!?」
走りながら叫ぶ鈴音に、ゼノンは前を向いたままケラケラと軽快に笑った。
「あの時はヘインズに頼まれた『お雇い』だったんだから仕方ないでしょ? 同郷の人間を本気で殺すわけないじゃない」
(なんだこいつ……? 前に戦った時と違って、めちゃくちゃ喋るしノリが軽いぞ……?)
『あの時のクールな刺客みたいな雰囲気と、完全に別人みたいですね……』
鈴音と俺が念話で引きまくっていると、並走していたイリーナが不安そうに声をかけてきた。
「あの……鈴音さん、この方は……?」
「あー! この人はですね、前に私たちを殺そうとしてきた敵で――」
「鈴音の『お友達』よ!」
ゼノンが振り返りもせずに割り込んで宣言する。
「はあぁぁぁ!!?? 誰がお友達ですか!!」
そんなコントのようなやり取りを繰り広げていると、前方を走っていたゼノンが何かを感じ取ったようにピタリと足を止めた。
「こっち!」
ゼノンが滑り込んだのは、ごく普通の住宅街の中に建つ、どこにでもある一軒の民家だった。
「えっ? こんな普通の家に入ったら、すぐに挟み撃ちに……」
「いいから入りなさい!」
ゼノンに背中を押されるようにして、俺たちは家の中に飛び込んだ。
――カチャリ。
扉が閉まると、ゼノンは「ふぅ……」と小さく息を吐き、壁に背を預けた。
「ちょっと! 一体何なんですか!?」
鈴音はイリーナを庇うように背後に回し、警戒を露わにする。
「落ち着きなさいって。ここは私が強力な『隠蔽魔法』で隠したセーフハウスよ。そこらの雑魚神官じゃ、逆立ちしても見つけられないわ」
「……たしかに。この建物全体から、かなり高度で強力な結界魔法の気配を感じます」
イリーナが室内を見回しながら、静かに呟いた。
「そういうこと。とりあえずここなら安全よ」
そう言って胸を張るゼノンに対し、鈴音は油断なく両拳をぎゅっと構え直した。
「……冗談抜きで、ちゃんと答えてください。本当の目的は何なんですか?」
「怖いわねぇ……。別に今さらあなたたちと戦うつもりはないわよ」
ゼノンは肩をすくめると、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「――私はね、あのクソジジイ……ガリアーノ・ドレイクを殺しに来たのよ」
「殺す……!?」
鈴音が目を見開く。
(おい鈴音、こいつの言ってることはたぶん本当だ。ここでやり合っても俺たちにメリットはねえ、一旦拳を下ろせ)
『……わかりました』
鈴音は俺の指示に従い、ゆっくりと構えを解いた。
それを見たゼノンは、「ふっ」と満足そうに笑った。
「やっぱり……あなたには『何者か』が憑いているわね。この前戦った時と、意識の感じがまるで別人だもの」
(なっ……!? こいつ、やっぱり俺の存在に気づいてやがるのか!?)
「そ、そんなことないですよー! 私は私です!」
動揺しまくりで、分かりやすく目を泳がせる鈴音。
「ふふっ、可愛いわね。別に探るつもりもないから安心しなさい。……で、本題に戻るけど」
ゼノンは壁から離れ、真面目な表情を作った。
「ガリアーノを殺すっていうのは、言葉通りの意味よ。あいつら教団には、私が『碧い星(地球)』の情報を少しだけ流して利用していたんだけど……まさかあんな強行手段に出るとは思わなかったわ。初代聖女が転生者だってことまで突き止められたのは、私の失算ね」
「ちょっと! ここにはイリーナさんもいるんですよ! そんな話して大丈夫なんですか!?」
鈴音が慌ててイリーナの顔を見る。
だが、イリーナはショックを受けるどころか、静かに首を横に振った。
「大丈夫です、鈴音さん。……なんとなく、分かるんです。初代聖女様がこの世界の人間ではなかったこと……。聖女として代々引き継がれてきた『血』が、そう感じさせているのかもしれません」
「イリーナ様……」
「まあ、詳しい昔話は今はお預けよ。時間がないからね」
ゼノンはパンッと手を叩いた。
「とにかく、私の目的は『ドレイクの暗殺』。あなたたちの目的は『この街からの無事な脱出』。……ね? 利害は完全に一致してるでしょ? なら、一緒に組んだ方が手っ取り早いわ」
『どうしますか詠太さん……? この人、信用できますかね?』
(……うーむ。言ってる理屈は通ってるし、イリーナを護衛しながらゼノンまで敵に回して戦うのは正気の沙汰じゃねえな。乗るしかないだろ)
「……わかりました。ゼノンさんと組みます」
鈴音はそう答えると、不安そうに隣に立つイリーナへ向き直った。
「イリーナさん、本当にこれで大丈夫ですか……?」
「……はい。というより――」
イリーナは少し思い詰めたような表情を浮かべた後、鈴音の手をギュッと両手で包み込んだ。
「鈴音さん……私を、外の世界へ連れ出してください!」
「えっ……? 大丈夫なんですか? ここはイリーナ様の生まれ育った国なのに……」
「……はい! もう、誰が味方で誰が敵かも分かりません。……それに、本当は物心ついた時から、大聖堂の窓から見える外の世界に、ずっとずっと憧れていたんです! だから……私を連れて行ってください!」
イリーナの青い瞳には、今まで見せたことのない強固な意志の光が宿っていた。
「はいはい! 聖女サマの感動的な決意表明も済んだことだし、さっさと作戦を実行しましょうか!」
ゼノンがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、二人を交互に見つめる。
「作戦……ですか?」
「ええ。ドレイクの首を取るための、最高の作戦よ」
ゼノンは腕を組み、極上の悪党のような笑みを浮かべて言い放った。
「――聖女サマと鈴音には、派手な【囮】になってもらうわ」
「「はあぁぁぁぁぁ!!?? 囮ぃぃぃ!?」」
鈴音と俺の声が、再び見事にハモった。
「ちょっと! 助けてくれると思ったら、結局私たちを盾にする気ですか!?」
鈴音がぷんぷんと怒りを露わにする。
「言い方が悪いわねぇ」
ゼノンは悪びれもせず、指を一本立てて説明を始めた。
「今、ドレイクは街中に白ローブを走らせて、必死にあなたたちを探してる。奴の目的は鈴音『力』と、イリーナの『聖女の権威』。なら、あなたたちが大通りで派手に立ち回れば、ドレイクは絶対に自分から姿を現すわ」
(なるほどな……。ドレイクの注意が完全に鈴音たちに向いている隙に、影からゼノンがドレイクの喉元を掻き切る……って寸法か)
「でもゼノン! ドレイクの【聖言】は絶対命令ですよ!? 距離を取られたら一発でまた身体を固定されちゃいます!」
鈴音が深刻な顔で指摘する。
「大丈夫よ。奴の【聖言】は強力だけど、発動には『相手に声を認識させる』必要がある。それに、一度に広範囲へ命令を飛ばす時は、効果が薄れるか発動にラグが生じるわ。……なにより、あなたにはあいつから逃れた力があるでしょ?」
「なにもかも見てたように言うんですね」
「ふふっ。…じゃあ早速、作戦開始よ」




