第89話 返信できないメッセージ
ノアールたちが社長室へ呼び出されました。
海斗のことで怒られるのではないかと不安になるノアール。
その連絡を受けたルミエールも、落ち着かない時間を過ごします。
ノアールから連絡が来たのは、昼前だった。
ルミエールは自分の部屋で、次の予定を確認していた。
スマホが震える。
画面には、ノアールの名前が表示されていた。
『社長室に呼ばれた』
その一文を見て、ルミエールはハッとした。
続けて、もう一通届く。
『海斗のことで怒られるかもしれない』
短い文面から、ノアールの緊張が伝わってきた。
ルミエールは画面を見つめる。
海斗は、凛の彼氏だ。
レンとの噂とは違う。
だからこそ、ノアールは社長室に呼ばれた理由を悪い方へ考えてしまったのだろう。
事務所から何か言われる可能性は、十分にあった。
ルミエールはすぐに返信した。
『心配ですね。でも、何かあったら一人で抱え込まないでください』
少し考えてから、もう一文を足す。
『終わったら、連絡してください』
送信してから、ルミエールはスマホを机の上に置いた。
けれど、すぐにまた手に取ってしまう。
ノアールは今、社長室へ向かっているのだろうか。
ブランシュとショコラも一緒なのだろうか。
怒られるのか。
仕事の話なのか。
何も分からないまま待つ時間は、思ったより長かった。
ルミエールは窓の外を見た。
空は明るい。
けれど、心は落ち着かなかった。
しばらくして、スマホが震えた。
ノアールからだった。
『海斗のことじゃなかった』
ルミエールは息を止める。
すぐに、次のメッセージが届いた。
『何も言われなくてよかった』
その短い言葉に、ノアールの安堵がにじんでいた。
ルミエールも、胸の奥から小さく息を吐いた。
『よかったです』
そう打ってから、少しだけ迷う。
軽く済ませる言葉ではない。
でも、今はノアールを安心させたい。
ルミエールは続けて打った。
『怒られる話ではなくて、本当に良かったです。今日は少し安心できますね』
送信すると、ノアールからすぐに返事が来た。
『うん』
その一文字だけだった。
けれど、昨日より少しだけ落ち着いているように見えた。
ルミエールはスマホを胸元に近づけた。
よかった。
ノアールが、少しでも安心できたなら。
そう思った時、またスマホが震えた。
今度はブランシュからだった。
『ルミエールさん、少し話しておきたいことがあります』
ルミエールは画面を見つめる。
ブランシュさんから。
何かあったのだろうか。
そう思った時、続けてメッセージが届いた。
『さっき、ノアールとショコラと私の三人で社長室に呼ばれました』
ルミエールは読み進める。
『まず仕事の話です。キャットスターのツアーで、LUMISORAが前座に立つことになりました』
「……LUMISORAが」
思わず声がこぼれた。
キャットスターのツアー。
その前座。
全国に名前を覚えてもらう大きな機会。
ノアール。
ソレイユ。
そして、自分。
LUMISORAにとって、大きな一歩になる話だった。
続けてメッセージが届く。
『ノアールにとっても、ソレイユさんにとっても、ルミエールさんにとっても、大事な機会になると思います。よろしくね』
ルミエールは胸の奥が熱くなるのを感じた。
不安なことはまだ多い。
ノアールも安定しているとは言えない。
ソレイユのこともある。
それでも、LUMISORAが前へ進もうとしている。
ルミエールはゆっくりと返信した。
『はい。よろしくお願いします。大切なステージですね。しっかり準備します』
送信して、少しだけ息をつく。
それだけなら、素直に喜べる話だった。
けれど、ブランシュのメッセージはまだ続いた。
『それと、もう一つ話がありました』
ルミエールの指が止まる。
『私に、お見合いの話が来ました』
一瞬、部屋の音が遠くなった。
お見合い。
その言葉を、ルミエールは何度も目で追った。
さらに、ブランシュからメッセージが届く。
『スポンサーのスターリングさんの息子さんだそうです』
スターリング。
その名前を見た瞬間、ルミエールの心臓が強く鳴った。
スターリングさんの息子。
未来の父。
画面の文字が、急に重く見えた。
『会うかどうかは私が決めていいと言われました。でも、お見合いなんて急に言われても困ってしまいますね』
ブランシュの文面は、いつも通り落ち着いている。
けれど、少し困っているのが分かった。
ルミエールはスマホを握ったまま、動けなかった。
ブランシュさんは、まだ知らない。
そのお見合い相手が、未来でブランシュさんの夫になるかもしれない人だということを。
そして、私の父になる人だということを。
もし、ここでブランシュが断ったら。
もし、二人が出会わなかったら。
未来はどうなるのだろう。
私は、どうなるのだろう。
ルミエールは、返信欄を開いた。
指が動く。
『会ってください』
そこまで打って、止まった。
強すぎる。
これでは、ブランシュの選択を動かしてしまう。
ルミエールは文字を消した。
次に、別の言葉を打つ。
『断らないでください』
すぐに消した。
これも違う。
自分の存在を守りたいだけの言葉に見える。
ブランシュさんの人生は、ブランシュさんのものだ。
未来を知っているからといって、ルミエールが決めていいものではない。
でも、何も言わないこともできなかった。
ルミエールは画面を見つめた。
会ってほしい。
でも、誘導したくない。
断ってほしくない。
でも、自由に選んでほしい。
その二つの気持ちが、胸の中でぶつかっていた。
しばらくして、ルミエールはゆっくりと文字を打った。
『会うだけ会ってみても良いのではないでしょうか』
そこで一度、手を止める。
続けて打つ。
『会わないと、どんな方か分からないですし』
何度も読み返した。
強く勧めてはいない。
断るなとも言っていない。
ブランシュが自分で選べる余地を残している。
それでも、この一文が未来を動かすかもしれない。
ルミエールは送信ボタンの上で指を止めた。
未来を変えるのか。
未来を守るのか。
それさえ、今のルミエールには分からなかった。
やがて、小さく息を吸う。
そして、送信した。
しばらくして、ブランシュから返事が来た。
『そうですね。会わないと分からないですよね』
続けて、もう一通。
『会うだけ会ってみます』
ルミエールは画面を見つめたまま、動けなかった。
会うだけ会ってみます。
その言葉だけで、未来が一歩近づいた気がした。
スターリングさんの息子。
未来の父。
ブランシュさんがその人と出会う。
もし、すべてが未来の通りに進むなら。
二人はやがて結婚する。
そして私は、未来へ帰らなければならない。
ルミエールは、スマホを胸に当てた。
いよいよ、未来に帰るカウントダウンが始まった。
それまでに、ノアールは安定してくれるだろうか。
レンや海斗や凛との関係も、まだ心配だ。
ソレイユは、どうするのだろう。
未来へ帰るのか。
この時代に残るのか。
ソレイユ自身も、まだ答えを出していない。
LUMISORAは、キャットスターのツアーで前座に立つ。
大きなチャンスが来た。
けれど、その先に、過去の世界の人たちとの別れが近づいてきた。
未来へ帰る前に、片づけなければならないことがある。
ノアールのこと。
ソレイユのこと。
そして、LUMISORAのこと。
ルミエールは、静かに目を伏せた。
未来は、少しずつ近づいている。
読んでくださりありがとうございます。
今回は、本編第88話「社長室に呼ばれる」の裏側として、ルミエールがノアールとブランシュから連絡を受けるお話でした。
本編はこちら
黒猫ノアールのステラ☆シンフォニー
【Cat Ear Idols: Starlight Symphony ☽】
第88話 社長室に呼ばれる
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