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3

 闇夜を背にしたアズレイトのその笑みは、絶品にカッコよかった。だが、言われた内容は、大変不本意なものだった。


 サーシャは、露骨にぷくぅと頬を膨らませる。

 次いで、肩に掛けられたマントをひっつかむとアズレイトに突き返す。


「もう寝ます。おやすみなさい」

「ではお部屋までお送りします」

「結構です!迷子になんかなりません!!」


 変人扱いされた上に今度は子供扱いされたサーシャは、リスがどんぐりを頬に詰め込んだ時よりも、もっともっと頬っぺたをパンパンにする。


 そして優雅な所作で手を差し出すアズレイトを無視して、足音荒く部屋に戻り始めた。


「……ったく、見た目で判断しないでよ」

「見た目でなんか判断しておりませんよ」

「へ?─── ぅわぁっ!」


 ついさっき捨て置いたはずの男が、いつの間にか横で並んで歩いていることに気付いたサーシャは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「サーシャさま、恐れながら夜も更けておりますので、もう少々声を落としてあげてください」

「……はい」


 窘める内容は、至極まっとうなものではある。だが窘める相手がそうなった原因であるから、サーシャは少々腑に落ちない。


 でも、素直に頷くことにする。だって、アズレイトの言っていることは間違っていないから。とはいえ不本意だと目で訴えるくらいは許してもらえるだろう。


 そんな視線をがっつり受けたアズレイトは、くいっと器用に片方の眉を上げた。


「サーシャさま、わたくしの目には貴方様が少々不満げなご様子に映っておりますが」

「ええ、その通りです」

「では詳しくお聞かせいただけますでしょうか?」

「……人に聞く前に、一度はご自分で考えてみてください」


 わざわざ言葉にして伝えるのが面倒だったサーシャは、そんな突き放すようなことを言う。


 けれどアズレイトは、ムッとすることなく「確かに」と頷き足を止めると、顎に手を置き思考の樹海に入ってしまった。


 ─── 置いて行って良いかな?


 自分の部屋の扉は、もう視界に入っている。5歩も進めば到着だ。


 それにアズレイトが答えに気付いたところで、これ以上会話を発展させる気はない。


 という理由からサーシャが、そぉっと歩き始めた途端、


「サーシャさま、わかりました」

「あ、そうですか」


 間の悪いタイミングで口を開いたアズレイトに、サーシャは雑な返事をして再び歩き始める。でも、なぜかアズレイトもくっついてくる。


「あのぉ……どうして一緒に来るんですか?」


 扉を開けた途端、がっつり入る気満々のオーラを出すアズレイトに、サーシャは恐る恐る問いかけた。


 そうすればアズレイトは、くらりと眩暈を覚えそうな眩しい笑みと、これまたぐらりと眩暈をしそうな馬鹿馬鹿しいことを口にした。


「お部屋までのエスコートがお気に召さなかったようですね。でもご安心ください、わたくしは貴方様が眠りに落ちるまでのエスコートをさせてただくつもりでした。しかしながら言葉足らずだったのは事実です。ご不快な思いをさせてしまい───」

「おやすみなさい」


 ─── カチャン。


 もうどこからツッコミを入れて良いのかわからないアズレイトの発言に、サーシャは感情を殺して一人部屋の中に入ると急いで鍵を閉めた。





 ***





 廊下に一人残されたアズレイトは、ぐしゃぐしゃと後頭部をかく。


「くそ、これも駄目だったか」


 別の相手なら、こういう夜の誘い方をすれば、これまで10割の確率で朝まで一緒にいることができた。


 なのに意中の女性は、てんで自分に靡いてくれない。毎日毎日、黒星の連続だ。


 もっと一緒にいたい。もっと触れたい。触れて欲しいし、求めて欲しい。


 つれない態度を取られるたびに、アズレイトの欲求は日に日に強くなっていく。


 けれどそんな焦れた思いも、切ない気持ちも、生まれて初めての経験で─── アズレイトはままらなぬ想いを抱えて眠れぬ夜を過ごすのも悪くない、と感じ始めていた。

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