第19話 : 勇者の血
気持ちの良い感覚ーー
ポカポカしていて温かいーーー
俺.....どうしたんだっけ.....
確かーー呪闇樹の討伐をしにいってーーそこでーーーレイが.....呪闇樹に.........!!!!!!!
「っっ!レ、レイ!!!!」
ナイルが目を覚ます。温かい日差しが差し込むベッドから。
「ここ.....は?.....呪闇樹は...!!?」
しかしあたりを見回してもそれらしき物はいない。と言うかここはどこかの部屋の様だ。
ふと、自分のお腹辺りを見てみるとレイが椅子に座り上半身だけ被さって寝ていた。
「これは...?呪い...?どうなってる...?」
ナイルは混乱する。そう。ナイルは魔王殲滅コマンド時の記憶がないのだ。故に記憶はレイが殺されかけた所まで。今の状況は意味不明なのだ。
「おー!兄さん起きたかー」
ガチャリとドアが開き、(お腹の)大きなナイルの弟、神時 クルスが入ってくる。血は直接的には繋がってないとは言え、兄を尊敬しているのでちょくちょく心配で見に来ていた。
「クル...クルス!!?.....やっぱりこれは魔樹のスキルか何かで.......」
「何言ってんの。説明するからはやくしたに降りて。.....言っておくけど怒ってるからな。」
「えっ...?えっ...!?ど、どゆこと.....」
ナイルは尚更混乱する。
魔樹にレイが殺されかけてて気が付いたら部屋で寝ててレイは無事で何故か弟がいる。
唐突すぎる情報量に呆然とするしかなった。
これは何かのスキルなのか?まだ夢なのか?
「あ、お、おれ.....」
「兄さんうるさい。それを説明するんだからはやく降りてきて。」
クルスはピシャリと言う
「あと...。そこの狸寝入り女。早くしろ」
「狸寝入り...??」
「ちぇー、バレたか...。」
「レ、レイ!!だ、大丈夫なのか!!?」
「う、うーん.....!大丈夫!」
実際、魔樹よりナイルに殺されそうになったのは自分からは言えそうにない。とレイは思う
それを察したクルスがなお腹を立てる。
「いいから降りてきて。本気で怒ってるんだ。」
ナイルとレイとクルスは1階の、リビングに集まった。
「まず今の状況報告。ここは僕の家だ。兄さんは気絶してて、その上疲労で寝ていた。だから体力を回復するまでここに泊まることにしたんだ。今は泊まってから三日目だよ。」
「気絶.....?」
レイが殺されそうになったからか!?
だとしたらどれだけ自分はクズなのか。どれだけ無能なのか。現実が突きつけられる。
「な、なら...魔樹は...見る感じクルスが倒してくれたのか...?」
「それは違う。魔樹を倒したのは兄さんだ。」
ーーー意味がわからない。
あの状況でどうやって?麻痺ガスが散布されていて満足に動けず、ただ見てるだけの状況からどうやったら魔樹を倒せるのだろうか。
第一、気絶していたのじゃないのか?何故記憶がそこからないのか?意味が.....わからない。
ーーーがしかし一つだけ心当たりはあった。
前回、洞窟での時の現象。
〝魔王殲滅コマンド〟の実行である。
前回はギリギリ自我があり、意識があったので覚えている。しかし、もしかしたら今回は.....
「大体気付いたみたいだな。そう。兄さんはそこの女が死にそうになった時に自分の中を流れている血液に埋め込まれている〝魔王殲滅コマンド〟が発動した。あとは言うまでもなく、普通に魔樹を倒したみたいだよ。」
ナイルはもう気付いている。自我が100%ない魔王殲滅コマンド実行状態で、目の前魔王の仲間の魔物を倒す。そして次に狙うのは.....最も魔王に近いーーーーーー
「レイ.......。」
またーーー殺そうとしたのかーーー。
俺はーーパーティ失格じゃあないのかーー。
「まぁ、そこを俺が止めたって感じかな。」
そこで初めてナイルは全てを聞く。
コマンドに支配され、レイを襲った事も。
2種職が発動し、危うく二人とも殺されそうになった事も。
「あ.....あが.......ぁ.....。」
ナイルは絶句する。そこまで酷いことをしたのだと。そしてまだ勇者の血と職はしっかりと自分に付いているのだと。
「こればかりはもう治さないとダメだよ兄さん。」
クルスが立ち上がる。
「明日からコマンドを自制する訓練をしてもらうよ。家で調べたんだ。方法はある。」
ナイルは無言で頷く。
「まず依頼の報酬を貰ってきて。話はそれからだよ。今日はとりあえず落ち着いてしっかり状況を整理して欲しい。」
クルスは厳しめに、そしてしっかりと言い切る。
ナイルは無言で頷くしかできなかった。
クルスが部屋から出ていき、ナイルとレイは二人きり。
ナイルは酷く混乱しながらもある事だけは考えていた。
〝パーティの解散〟
それはこの話の流れからいくと当然でこれ以上レイに危ない目にあって欲しくない、そして
〝自分が傷つきたくない〟この意識の表れだった。
「その.....レイ.....。」
ナイルが口を開く。言うつもりだ。俺は言うんだ。解散しないと...レイが...俺が...もたいない。これは.....仕方ない.....
ナイルが意を決し、その言葉を口に出そうとした瞬間
パンッ
静まり返ったリビングに響く乾いた音。
ナイルもそれが何の音なのか最初は気付かずそして後々頬に走る痛みで気付く。
ビンタ...された...?
「ナイル。今あなたが何を言おうとしているか大体わかるよ。だから先手をうった。」
先手をうったというか、うったのはビンタなのだけれども。
「ナイルはここで解散してどうするつもりなの?2人して幸せになると思うの?」
俺に殺されなくて...そして俺も殺さなくて済むーーいい判断だとおもっt
「逃げるの?」
グサリ。レイの一言がナイルの心を突き刺す。
「ここでこの現実、この状況から逃げてナイルはこの先どうするの?1人で戦うの?魔王殲滅コマンドに支配されたまま?そのまま行くとどっちにしろ犠牲になるのは誰なの?魔王殲滅コマンドの目的は魔王関連の殲滅。私はーー完全に対象内よ。」
「ここでその血を克服しないとこの先どうやったってあなたの望む未来は訪れない。血に囚われ、魔王関連をあなたが死ぬまで殲滅し続ける。遅かれ早かれ、ここで解散すれば.....私は死ぬ。」
ナイルは気付く。
レイを助けようとして、レイが安心して生きれるように、俺が離れればいい。
そんな事を思っていたが結果はその真逆だった事を。自分の意識がなくなれば魔王殲滅コマンドが実行される。もしなんらかの事が合った時に気を失ってしまったらそこで終わりだ。誰も止めてくれる人はいない。万が一居たとしてコマンドが発動する度に止めるなんて迷惑のかかることをさせるわけにもいかない。
「ナイル。」
レイがそっと手を重ねてくる。
「私達はパーティよ。仲間なの。1人で背負ったり、自分が犠牲になればいいなんて考えはもう許さない。あなたは私を守って欲しい。だから、私もあなたを守る。変な事を考える前にその血、何とかしよ!」
温かく、そして救われるような言葉。
自分は殺されかけたというのに、死にかけたというのにそれでもなお気遣ってくれる優しすぎる優しさ。そんな彼女を苦しめた自分が憎い。そしてその元凶の血が。コマンドが。憎い。しかしもう憎むだけではない。克服するんだ。
逃げない。立ち向かう。この血に。コマンドに。
ナイルは勇者の血に流れる魔王殲滅コマンドと完全に向き合い、克服し、制御することを決意したのだった。




