SS【サイドストーリー】 さすらいの忍び ー竜殺し-
実は3人称で書くのは初なので、戸惑いがありますが挑戦してみたいと思います。全て3人称にはなりません。サイドストーリーは今後も別キャラでも書いていきたいと思ってます。
お楽しみ頂けたら幸いです。
「はぁっはぁっはぁっ!」
男はひたすら町中を走っている。
「はぁっ!はぁっ!なんなんだ!なんなんだこれは!」
まるで現実感がない。
始まりは突然だった。
男の務める会社は秋葉原駅からほど近い商業ビルだった。
いつものように出勤の為、駅を降り会社に向かっていく。
薄紫色の霧なんて珍しいなと一人ごちながら。
ただし、いつもと違うことが今日は起こった。
いや、違うどころではない。全く予想すらしていないことが起きていた。
ドラゴン
あまりにも有名なその生物は様々な書物や伝承で語り継がれているが、それはあくまでも空想の生物であって、現実には存在しない生物のはずだ。
そう、はずだった。
その空想の生物は目の前にいて人々を貪っている。
悪い夢なら覚めて欲しい、と男は思うもその巨体から発せられる威圧感が夢ではないと如実に伝えている。
「グォォォォォォォォォッッッッ!!」
「ひぃッ!」
ドラゴンの咆哮で窓ガラスがビリビリと揺れている。
辺りの人間は恐怖に縛り付けられ動けなかった。
だが、男は幸いに足が震えつつも動くことができた。
「に、逃げないと・・ッ!」
男は走り出した!
どこに向かうかなど考えていない。ただ本能の指示に従いこの場を後にしようとした。しかしそれは結果的に悪手であった。
動物というのは元来逃げる物に興味を示す。
ライオンやトラなどの猛獣や犬などもそうだ。そしてドラゴンにもそれが当てはまってしまった。
間が悪いことに男以外の人間は恐怖に震え、全く動けず座り込んでいる者もいる。そんな中、一人だけ走り去る人間を見つけたら?動物の本能で興味を引いてしまうだろう。
「グガァァァッ!」
「く、来るなぁ!」
そう、必然的に男に注意が向けられドラゴンは男に向けて走り出した!
「はぁっはぁっはぁっ!」
「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!」
走る。ひたすらに走る。
だが、ドラゴンの追跡は止まず巨体を揺らしながらその歩幅を持ってどんどん距離を詰めてくる!
「グガァァァァッ!!」
「や、やめてくれぇッ!」
そして、ついにドラゴンがすぐ後ろまでついてくる。
あぁ、きっと自分はもう食べられてしまうんだろうと男は諦観の気持ちが膨れ上がり、そして心が折れてしまった。
「あ、あぁ・・」
同時に止まる足。
「グガァッ!」
「もう・・ダメだ・・」
地面に膝をついてしまう男。あたかも許しを乞うように。
だが、この巨大な生物は男の許しなど関係ないとばかりにその巨大な咢を開ける。ムワァッとした生暖かい空気が男の頬をなでる。
この数舜の内には男はただの肉塊になり果てるだろうことは想像に難くなかった。が、その機会は回避された。
「グォォォォッ」
ドコンッ!!
来るべき命の火が消える瞬間に男は耐えらず目を閉じる。
「・・・・ッ」
だが、その瞬間はいつまで待っても来なかった。
いつまでも来ない激痛にいぶかしみ目を開けると一人の黒ずくめの人物がその場に立っていた。ドラゴンは近くの建物に頭から突っ込んでいる。
「もう大丈夫でござる。立てるでござるか?」
「・・あ、はい。」
黒ずくめの人物は女性だった。
よく見るとまだ10代だろうあどけない顔立ちをしている。
自分よりはるかに下であろうその少女の声に対し、
素直に従ってしまう自分がいた。
黒ずくめの少女は真っすぐドラゴンから目を離さず、背中越しに話しかけてくる。腰まで伸びた黒い艶やかな髪は黒水晶のように朝の陽ざしを浴びて煌いている。
黒い服装は時代劇で見たことがある。
恐らく忍び装束というやつだろう。
男が立ち上がると顔だけこちらに向けて、
「危ないから下がっているでござるよ。」
と、なんでもないように言い放つ。
「わ、分かりました。あ、あなたはいったい・・?」
「んー。レイヤーって言うのは味気ないでござるなぁ。・・うん。拙者はただの忍びでござるよ。」
「し、忍び!?」
自分の聞き間違いだろうか。
この少女は確かに忍びと言ったが、あの伊賀とか甲賀とかの忍者であろうか?
ドラゴンもありえないが、目の前の忍者も大概である。
男は再度、質問をぶつけようとした。
「あ、あの・・」
「グォォォォッ!!!」
「ッ!!質問は終わりでござる!下がっているでござるよ!」
それはドラゴンの咆哮により遮られた。
ドラゴンは建物を破壊させながら頭を起こし、屈辱を与えたであろう少女を睨んでいる。
離れた場所まで避難した男はこのまま逃げてしまおうかとも思ったが、この目の前の光景を見逃してはいけないような気がして留まることにした。
忍びの少女は立ち上がるドラゴンを前に自然に頬が吊り上がっていくのを感じる。怖いのではない。楽しみで仕方ないのだ。
「魔法を覚えたと思ったら最初の相手がドラゴンとは・・。難易度が高いでござるなぁ。」
少女は今朝魔法を覚えたばかりであったが、持ち前の想像力と趣味の忍者道具を掻き集めて街に出てみた。
そしたらどうだ。最初の相手がドラゴンである。
世の中のルールが変わったのは実感できるが、こうまで楽しめるとは。
「・・最高でござる。」
ニヤッと笑い、自身のコレクションでもある忍者刀を構える。
この少女、確かにレイヤーだが、忍者道具に魅せられて本物の品を多数所持していた。忍者刀もその一つだ。
忍者刀とは侍が通常使う刀と違い、普通の打刀と脇差の中間の長さ、長脇差と分類されるサイズのものが大半である。日本刀独自の反りは少なく、いわゆる「直刀」に分類される刀身形状である。
「いくでござる!」
「グォォォォォッ!」
その直刀を携えながらドラゴンに向かって自分から走っていく!
ドラゴンはその大きな爪を少女に向かって振り下ろす!
ドゴンッッッ!!
衝撃に地面が揺れる!
男は少女が潰されてしまったのではないかと気が気ではないがそれは杞憂であった。
「・・遅いでござる。」
「グォッ!?」
間一髪少女はドラゴンの爪先を逃れ懐に潜りこんだ!その勢いのままに鈍く光る忍者刀で切り付けた!
「!?・・硬いでござるな。」
忍者刀は確かにドラゴンを捉えたが、その強固な鱗を引き裂くまでには至らなかった!
「グルォッ!」
「おっと、でござる!」
今度はお返しにこちらの番だと言わんばからりにドラゴンが懐へ向かい腕を振るう!少女は危なげなく退避をしたがその光景は男を驚愕させた。
「・・空を・・跳んで・・いる?」
そう、少女はバックステップで何もない空中をあたかも階段でもあるように2段3段と跳ねている。
「あまりにも硬いようでござるから、搦め手を使わせてもらうことにするでござる。」
少女は空を跳び退避しながら、懐に手を入れ苦無を取り出す。
それをドラゴンに向かって投げつけた!
ドラゴンは敵の攻撃が無力であることを決めつけて避けようともしない。
そんな傲慢な態度は大きな傷を負うことに繋がってしまった。
「グガギャァァッァッ!」
「いくら鱗は硬くても目までとはいかないでござるよな?」
少女はまず敵の視力を潰すことにしたようだ。
見えなければ手の施しようはいくらでもあるだろう!
「そら、もう一発!」
空中に飛び跳ね続ける少女はもう1本苦無を取り出し、ドラゴンに向けて投げつけようとした、がそれよりもドラゴンの対応が早かった!
「ガァァァァァァァァッ!」
「ぐッ!?」
苦無を投げつけようとした瞬間、ドラゴンは残った目で少女を見上げ、その咢から火球を勢い良く吐き出した!
火球は少女を吹き飛ばし、周囲の建物ごと勢いよく燃やしていく!
「あぁっ!忍者の人が!」
男は慌てた。
自分が助けてもらったのにその人を死なせてしまった、と。
「グォォォォォォォッッ!」
ドラゴンは勝利の雄たけびを上げている。
自分の勝ちだ!自分は最強の竜種であると誇らしげにそして高らかに声を上げた!
そんな中、男とドラゴンは聞こえないはずの声を聞いた。
「・・・今のは効いたでござる。まさか炎を吐くとは。火竜といったところでござるな。・・拙者も力を手に入れてうぬぼれていたということでござるか。以後気をつけるでござる。」
悠然と、足取り確かに少女はこちらに向かって歩みを続けている。
黒装束は所々焦げているがその腰まで伸びた艶やかな黒髪は健在で少女の動きと共に左右に揺れている。
少女の体は薄く発光しており、その光は優しい白色の光であった。
「グォッ!?」
ドラゴンはなぜ?と言いたげに言葉少なに叫ぶ。彼の常識が確かであれば燃えていないわけがないのだ。自身の必殺の一撃を受けて無事であるはずがないと目が訴えている。そんな言葉の違うはずのドラゴンの抗議を受けて少女は答える。
「・・拙者の属性は無属性。どの属性にも染まらない力でござった。だが、存外便利な力でござってな?こうして他属性よりも強固な身体強化を使え、魔力球を足場にすることもできるでござる。応用としてこんなこともできるでござるよ?」
少女の声と共に手に持った忍者刀にも光が包んでいく。光は忍者刀を覆い、強く発光しだした。
「・・身体強化の応用で武器強化。まぁ俗に言うエンチャントでござるな。これならお主を斬ることもできると思うでござるがいかがかな?」
「グォオオオオッ!」
少女の問いにドラゴンは自身の持つ最大の武器、火球で答えた。
こいつは危ない!こいつはここで殺さないといけない!自身の生存本能が訴えかけてくる。大丈夫だ!さっきはたまたまだ!自分の火球で殺せない生物はいないのだから!
ドラゴンは自分のできる最大級の火球を少女に向かい放った。
少女は避けもせずにその場に立ち尽くしている。
危ない!逃げて!と叫ぼうとした男は絶句した。
なんと少女は自身を飲み込む程の大火球を真っ二つに切り裂いた!
「ふっ!」
切り裂いた2つの火球が少女の両隣で爆発する中、少女は魔力球を使い空を飛び跳ねる!2つ、3つと進行方向に魔力球を使いあたかも踊るように飛び続け、とうとうドラゴンの真上ににたどり着いた。
「お主はなかなか強かったでござる。が、いかんせん驕りがすぎるでござったな。拙者も力を手にしたばかりでござったので、遠方から火球を撃ち込まれ続ければ敗れていたでござるよ。いい勉強になったでござる。」
「グルッ!?」
「ではさらばでござる。」
空中から反転し、忍者刀を一閃。
ドラゴンは首から盛大に血を流し、地面に倒れ込む。
自身の血溜まりの中で考えた。
こいつは出会ってはいけない敵であったのだ・・と。
だが、その反省は永久に生かされることがなくなった。
「・・ふぅ。お主は強かったでござるよ。」
少女はドラゴンを見下ろし、一人ごちる。
「だ、大丈夫ですか?すごい!こんな大きな生物を倒せるなんて!」
少女ははにかんだ笑顔を見せながら手をひらひらさせた。
「いやいや。たまたまでござるよ。拙者も力を手にしたばかりの身。まだまだ修行中の身でござる!」
少女は謙遜するが男にとってはまさにスーパーマンだ。
そんな彼女を尊敬どころか神の如く遠い存在に感じる。
「お、お名前を教えて頂けませんかっ!」
「拙者はさつき。ただの通りすがりの忍者でござるよ。」
「さ、さつき様ですね!」
「様はいらないでござる。どう見ても小娘にしか見えない拙者に敬語もいらないでござるよ。」
少女は敬称も敬語もいらないというのだ。だが男にとってはそうはいかない。自分の命を助けてもらい、神の如き力と美貌を持つ少女を敬わずにはいられなかった。
「いや、でも・・」
「それよりいつ新手が来るか分からない状況でござる。ここから少し離れたところに避難所があるでござるからそこまで行くでござるよ。それにお主はこの騒動について知らないようでござるから避難所までに説明してあげるでござる。・・先程のドラゴンや、魔法のことも、でござるよ。」
男はこうして騒動初日を乗り越え、避難所に無事たどり着いた。
男は今日のことを決して忘れず生涯語り継いだという。
さすらいの忍び伝説の始まりだった。
拙い文章ですが読んでくださって感謝しております。
感想、誤字脱字、ご意見ありましたらなんでも賜ります。
評価をして頂けると励みになります!よろしくお願いします!
初めての3人称でしたがいかがでしょうか?
むしろこの子のほうが主人公ぽいのはご愛敬(笑)
ちなみに出演したドラゴンはフレイムドラゴン。
竜種の中では中くらいの強さの属性竜です。
それを考えると彼女の異様な強さが分かって頂けると思います。
本編に絡むかは今のところ未定です。
次回更新は前回と同じ明日17:00を予定しております。
特に問題がない限り、毎日更新をしていきたいと考えています!
よろしくお願いします。




