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聖魔の惨殺姫  作者: マシュマロ悪魔族
第二章 神々の黄昏
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番外編 聖女の記憶

 アリシアはとある村の一人娘として生まれた。

 そして10歳のときに教会より聖女として認められて教会の総本山にあずけられ、そこで同い年の勇者レオンハルト・ドミニオンと出会った。

 怯える少女に少年は言った。


「はじめまして、僕はレオンハルト・ドミニオン。

 レオンでいいよ!

 僕と同い年なんだってね。

 ここは大人ばかりだったからうれしいなぁ。

 ねぇ、一緒に遊ぼうよ!」


 無邪気な彼に自然と笑みをこぼすアリシア。

 こうして二人は教会でそれぞれ勇者・聖女としての修行をし、ときに笑い、ときにはげまし合いながら生活し、彼女たちが15歳になり成人を迎えたとき、とうとう教会から使命が言い渡された。

 魔王討伐。

 世界門を渡り魔王を討伐する、それは神種にして光の神たるバルドルを崇めし光の教団の長年の夢であった。

 そして人間界の世界門を開くための世界門の鍵にはかけらを集めるだけでなく勇者の魔力が必要不可欠である。

 こうして聖女アリシアは勇者レオンハルトとともに人間界の「鍵のかけら」を集める旅に出ることになった。


  旅のなかで二人は次々と仲間を増やしていった。

 魔法の父と呼ばれる大魔導師シン。

 閃光の異名を持つ、剣でのレオンライバル、剣士ガラハット。

 そして……


「よう、はじめまして、オレが今日からヒマつぶ……魔王討伐をこころざし、お前たちと旅を共にするドラグニオスだ!!」


 冒険者を名乗る謎の男、ドラグニオス。

 その強さは世界でもトップクラスの実力者の集まりであるこの勇者パーティのなかでも飛びぬけており、勇者であるレオンすら圧倒するほどだった。

 しかしその実力とは裏腹に彼は少年のように自由奔放、魔王討伐など、どうでもよいことのような態度を示す彼。

 そんな彼に、幼い頃から聖女として育てられたアリシアは、言い争いながらも次第に惹かれていった。


 しかしその平穏も終わりを迎えてしまう。

 ドラグニオスの正体が判明したのだ。

 彼は自分たちが倒すべき魔王その人だったのだ。


「よくもだましたな、魔王め!」


 レオンは怒りとともに剣を振るう。

 ドラグニオスはそれをかわしつつ、「別に騙したわけじゃねーよ」と答える。


「だまれ! 魔王、お前が抱く人間界征服の野望は僕が打ち砕いてみせる!」

「人間界征服だぁ?

 ちょっと待てよ、オレはそんなこと考えたことねーぞ!」


 光の教団で育ったレオンにとって魔王とは絶対の悪。 

 それにアリシア……鈍感なところがあるレオンでも気づいていた、アリシアとドラグニオスの関係について……

 それを目撃するたびにレオンは心の中に今まで感じたこともないどす黒い感情が芽生えるのを感じていた。

 しかしそれも魔王の策略だとしたら……いや、そうに違いない、アリシアは騙されているのだ!

 より一層すさまじい攻撃を続けるレオン。

 そんな彼を仲間たちは止めようとする。


「やめてぇ、レオン!」

「やめるのじゃレオン!

 ドラグニオスの話をよく聞くのじゃ!」

「そうだ、レオン。

 そいつはそんなこと考えるやつじゃない」


 なんということだ、アリシアだけでなく仲間たちまで、魔王に洗脳されているとは。

 レオンは怒りのままに必殺の剣を放つ。


「くらえ、聖剣技『聖炎絶衝斬』!!」


=============================================


 魔王と勇者の対決は魔王の勝利に終わった。

 アリシアは魔王ととに魔界に渡り、剣士ガラハットは憎しみに囚われたレオンに愛想を尽き、どこかへと消えてしまった。

 レオンを応援してくれていた人々も同様に一人また一人と消えていき、とうとうレオンとシンだけが残された。

 それから五年後……


「のう、レオンよ、本当に魔界へ行くのか?」

「当然だろう、アリシアが僕を待っている。

 彼女は魔王にさらわれたんだ!

 ようやく鍵のかけらが集まったんだ、これで行かないわけがないだろう!」


 シンは深いため息をついて、レオンに言い聞かせる。


「レオンよ、アリシアは自分の意志で魔王の元へ行ったじゃ。」

「ちがう、彼女は魔王にさらわれた、さらわれたんだよ!」


 シンの言葉に耳をかさないレオン。


「そうか、ならば仕方ない。

 お前が二人の幸せを壊すと言うのなら、わしは師匠として止めねばならん」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 こうして一人魔界へ渡った勇者レオンハルト。

 しかし彼がそこで目撃したのは、幼い少女とともに幸せそうにほほえむアリシアの姿だった。

 レオンはいてもたってもいられず、彼女に話しかける。


「アリシア、無事だったんだね。」

「レオン!?

 どうしてここに!?」


 アリシアの質問にレオンが答える。


「キミを助けに来たんだよ、さあ、人間界に帰ろう」


 レオンはアリシアに手を差し伸べる。

 しかし彼女はその手を取ることなく「ごめんなさい」とあやまってくる。

 きょとんとしながらレオンはアリシアの言葉を聞く。


「レオン、わたしは人間界には戻りません。

 わたしは彼ととに魔界へ残ります。

 レオン、あのひとはあなたの考えるような人じゃないわ」


 そういうとアリシアは自分の足元に引っ付いている少女に目を向け、


「そうだったわ、紹介するわ、この子はわたしの娘。

 名前は……」

「うわああああ!!」


 娘を紹介しようとしたアリシアにレオンは悲鳴をあげる。


「嘘だ、嘘だ、嘘だぁ!!

 あり得ない、アリシアが魔王と暮らす?

 アリシアと魔王の子供?

 僕と一緒に人間界にかえらないだってぇ?

 そんなのあり得るわけがないだろぉ!!」


 レオンは叫ぶ心の底から。

 そして、ある結論に到達する。


「そうか、そうか、そうだよ!

 偽物だ、このアリシアは偽物だよぉ!!

 きっと本当のアリシアはまだ魔王に囚われているんだ」


 アリシアは唖然とした表情でレオンの叫びを聞く。


「レオン、待って、彼は――」

「偽物が、アリシアをかたるなぁぁぁ!!」


 レオンの剣がアリシアを貫く。

 少女がその光景に叫びをあげた。

 薄れゆく意識のなか、アリシアが最後に見たものは――


「魔王、魔王、魔王!!

 壊してやるよ、全部、全部、全部だぁ!!」


 レオンが凶刃を持って放心する娘に近ずく。

 ダメ――せめてあの子だけでも……

 アリシアの意識はそこで途絶えた。 

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