勇者レオンハルト
シンは先ほどの会話を振り返る。
ロキ……屈強なる巨人族に生まれながら、人並みのサイズで生まれた異端児。
彼の事は知っている。
だがそれは情報収集で集めたものであり、彼とは初対面である。
にもかかわらず、彼から感じるこの既視感。
そもそも彼は今自分に対し「久しぶり」と言ってきたではないか。
だが……いや……まさか……
「あれ、もしかして忘れたのかい、この僕を、
キミの弟子にしてかつての仲間であるこの僕をさぁ」
その言葉でシンは確信する。
やつは……あやつは……
「レオン……レオンハルト・ドミニオンか!」
「そう、僕はレオンさ、
久しぶりだねお師匠様」
勇者レオンハルト・ドミニオン――かつての仲間にして、魔法では師匠と弟子の間柄だった男。
だがしかしやつは……
「馬鹿な、やつはすでに亡くなっておる!」
「そう、僕はかつて魔王によって殺された。
でもね、魂は別さぁ、あの魔王への尽きぬ憎しみは僕が消えるのを許さなかった。
僕からアリシアを奪った魔王のすべてを壊し尽くすまで、僕は消えない、消えてはならないんだよ!」
狂ってる……
もはや話し合いで済む領域を逸脱している。
レオンは狂気の悦を止めると、こちらを見つめ、残念そうに話す。
「一足遅かったようですね、『鍵のかけら』はすでに渡してしまったようだ」
「占術にて凶相がでたのでな……
なるほど、確かに凶じゃわい」
シンは思考する。
あのレオンが魔王を目指すとは考えられない。ということは目的は「世界門の鍵」自体にあると見ていいだろう。
あの鍵を悪用するとなると、この魔界だけではなく、三世界すべてに影響を与えることになるだろう。
……やれやれ。
死神であるシンはレオンがまだ成仏できずにいることに気づいていた。
ゆえに、人間界に渡り、レオンの魂を探そうと思っていたのだが……
まさか七候補の肉体を乗っ取り自分の前に現れようとは。
シンは武器である錫杖を構えて、かつての弟子と対峙する。
「お前がこの世界に災いをもたらすと言うのなら、わしは師匠として止めねばならん!」
「あはは、懐かしいなぁ、あのときも同じことを言ったよね」
そう、かつて自分は弟子を止められなかった。
あのとき自分はレオン自身に自分の愚かさに気づいてほしかった。
しかしその期待は完全に打ち砕かれた。
だからこそ、今度は止めてみせる、刺し違えてでも!
そして、戦いがはじまった。
数百にも及ぶ火球を一瞬で展開するシン。
放たれた火球は流星群のようにレオンに迫る。
しかしレオンは、それを詠唱破棄にて幾重にも結界を展開し防いでみせるのだった。
「やはりこの程度の魔法では倒せんか」
「詠唱破棄……この技もあなたから教わったものですよ」
それから始まる詠唱破棄による最上級魔法の応酬。
シンが「火山砲撃」を放てば、レオンは「大氷結」を放ち。
レオンが「戦神の雷」を放てば、シンは「大地の怒り」で防ぐ。
そのあまりの戦いの激しさに神殿が崩壊を始める。
しかし二人はそんなことはお構いなしに戦闘を続ける。
シンは戦いながら、レオンを分析していく。
先ほどレオンが放った魔法「戦神の雷」は風のマナと炎のマナを必要とする魔法だ。
つまり一人の人物が、水のマナを使う「大氷結」と炎のマナを使う「戦神の雷」とを使用することはできないはずなのだ。
恐れるべきはその勇者に備わる全属性魔法適正か。
かりそめの肉体のためか、レオンはかつてのような超魔力は発揮できないようだが、勇者に備わる全属性魔法適正は使用可能のようだ。
だがそれでも、負けるわけにはいかない。
「炎の守護者スルトよ、その絶対なる灼熱で世界を照らせ。
究極発動『灼熱の世界』」
かつて大魔導師と呼ばれたシンの最大最強魔法。
その圧倒的熱量で、数多の魔神級魔族を葬りし、炎の極み。
その超火力がレオンを飲み込む。
シンはレオンが抵抗もできず飲み込まれるのを見て、ぽつりと「馬鹿弟子が」と漏らす。
しかしその直後、
「危ない、危ない。
こんな切り札を残していたなんて、やっぱり手加減して勝てる相手では無いみたいですね」
驚愕の表情で、レオンを見つめるシン。
炎が切り裂かれ、そこに姿を現すレオン。
その手に握るは炎を纏いし剣、「神剣レーヴァテイン」
ドラグニアが持つ「魔剣ダーインスレイブ」と双璧をなす、歴代最強の勇者レオンハルトのみが扱うことのできた究極の聖剣。
まさか、かりそめの肉体でそれを呼び出すとは……
「それでは、さようならお師匠様、
聖剣技『聖炎絶衝斬』!!」
一瞬で近づいたレオンから繰り出される超絶剣舞。
シンは崩壊しながら考える。
そうか……前魔王の突然の死は……
そして大魔導師と呼ばた一人の男がその生涯に幕を下ろした。
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「あはは、さすがにロキ身体での神剣召喚は堪えますねぇ……
ですが、これで心おきなく明日の本番に臨めます」
レオン――ロキは動き出す。
すべては憎き魔王のすべてを奪うため、愛するアリシアを取り戻すために。




