#96 ライバル(1)
「足を止めない! 声出して!」
「はい!」
「コートに入ったら自分の役割を考えろ! 思考を止めるな!」
「はい!」
合宿から帰ってきた翌日から,全開の天王寺先輩と白山先輩の声が体育館に響いている。
もうインターハイ予選まで時間がない。
メンバーも決まり,ここからの練習はもっとハードになっていくだろう。
「これを見たら,もっとやる気になっちゃうかもね」
そんな2人を見ながら俺は1枚の紙に目を落とす。
先ほど水瀬先生に渡されたそれは,地区予選のトーナメント表。
昨年の大会でも県で上位に食い込んでいたこの学校は,堂々の第1シードに名を連ねている。
「まぁ,問題はその上なんだけどね…」
昨年の県予選を1位で突破したチームやその他の大きな大会で結果を残してきたチームにはそもそも地区予選が無く,推薦枠という形でいきなり県予選からになる。
そしてこの地区でも,推薦枠に入っている学校が1校。
この前俺と風花に喧嘩を売ってきたあの桜高校だ。
あの時戦った男子の方はそこそこの実力だった気がするが,女子は昨年のインターハイでベスト8まで進んだらしく,かなり強いらしい。
「でも…」
それでも,目の前にいるチームがそう簡単に負けるものか。
未だ誰も見た事のない,完全復活した天王寺先輩率いるこのチームは,贔屓目無しに見てもかなりの力を持っているのだから。
「集合!」
そんな事を考えている間に休憩時間になる。
俺はすぐにドリンクを飲んで一息つく天王寺先輩の元へ。
「先輩,今水瀬先生から頂いてきました」
「ん? あぁ,地区大会の…」
トーナメント表に目を落とした天王寺先輩の言葉が詰まる。
何だろう,俺には分からなかったが1回戦で当たりそうな学校が強い所だったのだろうか。
「……分かったわ。わざわざありがとう」
「あ,はい…」
何か思う所があったのだろうか,天王寺先輩は難しい顔をしながら俺にトーナメント表を返し,ふらふらとどこかへ行ってしまった。
「今年も,いよいよだな。私にも見せてくれ」
呆然と天王寺先輩を見送っていた俺の元に,今度は白山先輩がやってきた。
白山先輩なら何か分かるだろうか。
俺は白山先輩にもトーナメント表を見せる。
「どれどれ……お,今年は第1シードか。となると1回戦は…」
ふむふむと表を見る白山先輩だが,特に変わった様子はない。
「あの,1回戦で当たるかもしれない相手ってそんなに強いんですか?」
「え? うむ……いや,この2校ならどちらが上がってきてもそう問題ではないだろう」
俺の言葉に,少し考えてから白山先輩はキッパリとそう言った。
白山先輩がこういう相手なら,天王寺先輩が必要以上に警戒する事もないはず。
でも,そうなると不可解なのは先ほどの天王寺先輩の態度だ。
彼女は何を見て,何を思ったんだろうか。
「…まだ,何かあるのか?」
「あ,いえ……」
納得の出来ていない俺の表情を見た白山先輩が質問を返してくる。
俺は少しだけ迷って,結局単刀直入に聞いてみる事にした。
白山先輩なら,何か知っているかもしれない。
「あの,さっきこの表を見た天王寺先輩の様子が少しおかしい気がして。白山先輩は,これを見て何か分かりますか?」
「光が…?」
俺の言葉を受け,顎に手を当ててもう一度表を確認してくれる先輩。
すると,ある場所で先輩の視線が止まった。
「…きっと,これだ」
「どれです?」
言いながら先輩が指差すのは推薦枠に書かれている桜高校だ。
これが何か? と不思議そうな顔で先輩を見ると,先輩はこう続けた。
「この学校のキャプテンはな,私たちと同じ中学だった。ポジションはポイントガード…
……3年間,ずっと光とスタメンを争っていたライバルだ」




