#81 最後の紅白戦
「さぁ,今日で合宿も最終日。みんな,最後まで気合入れていくわよ!」
『はい!』
とうとう合宿も最終日。
今日も天王寺先輩の号令から1日が始まる。
「今日はよろしくお願いしますね」
「え? ……あぁ,よろしくお願いしま,す…?」
練習が始まってすぐに呼び止められた俺だが,その人物を見て唖然とする。
今までに見たことのない笑顔を浮かべてこちらに手を振っていたのは,部内で唯一俺より背の高い先輩。
「……え?」
本当に信じられないものを見た時,人間の脳はここまで機能しなくなるのか。
半分だけ口を開け,何とも情けない表情のまま俺の動きが完全に止まる。
そんな俺に小さくため息を1つこぼしながら彼女は口を開く。
「………そんな顔をするな,ほんの冗談だ」
「あ,そう…ですよね……」
「…全く,そんな反応をされたらこちらが悪いみたいではないか」
「す,すみません…」
拗ねたようにそっぽを向く白山先輩に,俺は曖昧に謝ることしか出来なかった。
「気を取り直して,今日はよろしくお願いします」
チームのメンバーが揃った所で改めて挨拶から始める。
改めて見ても,今日のメンバーはかなり凄い。
まずゴール下には抜群の安定力を誇る3年の白山千夏先輩と2年の神崎美空先輩。
フォワード陣は,鋭いドリブルと持ち前のスピードを生かした突破力に優れた3年の高野雷知先輩に,ドライブインを得意としつつミドルシュートも出来る東堂結先輩,小さな体格ながらもそれを苦にせず器用にゴール下で立ち回る大内千恵先輩。
そしてトリックプレイで相手を惑わす2年の陰山美鈴先輩という豪華な布陣だ。
昨日は天王寺先輩に良いようにやられてしまったが,今日はそうはいかない。
これだけのメンバーがいて,そういかせる訳にはいかない。
「では,最初のメンバーなんですが…」
誰を出しても強力なチームだが,全員の顔を見ながらふと思う。
昨日の天王寺先輩は結局最後まで白山先輩を出さずに戦っていた。
今日の試合で,もし全力のメンバーで戦って勝てたとしても,それで良いのだろうか。
天王寺先輩が言うように,もうメンバーに決まっている選手をここであえて出す必要があるのか。
「………」
そんな時,不意に白山先輩と目が合う。
先輩は,どうだやってみろと言う顔をして俺を見ている。
光がやったことをお前はやらないのか,と目が語っている。
その目を見て,俺は覚悟を決めた。
大丈夫,白山先輩がいなくてもこのチームは十分に強いさ。
「…分かりましたよ。メンバーは……」
――そして,最後の紅白戦が幕を開ける。




