#73 小さな一歩
「ありがとうございました!」
最後の挨拶をして、試合が終わる。
結局、善戦はしたものの、俺たちのチームは天王寺先輩のチームには勝てなかった。
個々の力は同等か、下手をしたらこちらの方が勝っていたかもしれない。
でも、負けた。
敗因は、俺が完全に天王寺先輩に抑えられた事だ。
先輩は文香の長距離シュートを常に匂わせながらも、不意をつく多彩なパスワークでこちらの動きを惑わせ、いとも簡単にゴールを奪っていった。
それに引き換え、こちらの攻撃は初め上手く行っていたものの、すぐに先輩に捕まるようになってしまった。
絶妙なプレッシャーのかけ方で俺の動きを制御し、狡猾にパスを捌く。
チームメイトとの完璧ともいえる連携で狙いすましたようなパスカットからのカウンター。
最後までそれを捉える事が出来ず、完敗だった。
「良い試合だったわ」
「…ありがとうございました」
完敗した相手にそう言われてもあまり嬉しくない。
おれはその表情をありありと浮かべて先輩の握手に応えた。
「ずいぶん不満そうな顔ね」
「あれだけボコボコにされましたらそりゃね…」
「あら、私にあそこまで本気を出させたのだから、もっと自信を持っても良いくらいなのに」
「そうは、思えませんがね…」
そう言って俺はコートを出る。
次は先輩のチームと風花のチームの対戦だ。
「お疲れさん。中々良い試合だったな」
コートを出るとすぐに火野先輩が声をかけてくれる。
休憩の時と同じようにコップを2つ持っていたが、休憩の時とな違いさっぱりとした笑顔を浮かべていた。
俺は遠慮なくコップを受け取り苦笑で返す。
「いや、さっきと同じくボロ負けですよ」
「そんな事ないさ。さっきと違ってあたしたちは全力を出せた。それでも負けたなら、仕方ないさ」
「そう、ですか?」
首を傾げる俺に、そうだよ、と先輩は頷く。
「その証拠に、見てみろ。あいつらも負けたけど楽しそうだろ?」
言いながら先輩が指差す先を見ると、確かに先ほどまでとは違い、楽しそうに談笑しているチームメイトの姿があった。
「出せる力全部出して、それでも負けた。そしたら、くよくよしないで次に勝てる方法をみんなで探すんだ。これは公式戦じゃない、ただの練習。今回出来なかった事は次に、それでもダメならまた次にやれば良い。
今の試合は、さっきまでのより良くなってる。だから、これで良いんだ」
「なるほど…」
先ほどまでと比べたら、確かに今回の試合内容は良いものになっていた。
そしたら、次はきっともっと良くなる。
いや、良くしていけば良いのだ。
天王寺先輩も、そういう意味で良い試合だったと言ってくれたのだろうか。
「よし、そんじゃ早速次に勝てる方法を探しに行くか」
「はい、先輩」
次の風花たちとの試合までは少し時間がある。
それまでに、もっとみんなの事を知って、もっとみんなの力を引き出せる作戦を考えないといけない。
…やれやれ、こりゃ大変だ。
俺は内心で笑顔を浮かべながら先輩たちの元へと急いだ。




