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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
73/148

#71 大きな間違い


「ありがとうございました!」


 風花のチームとの対戦は、本当にぎりぎりだった。

 タイミング的にも勝てたのは運が良かっただけだ。

 次の相手は天王寺先輩。

 同じようにやっても負けてしまうだけだ。

 どうすれば…


「…ハル君、ちょっと良い?」


 頭を抱えていた俺に声をかけてきたのは天王寺先輩。


「ど、どうしました?」

「…さっき、私の言った事本当に分かってる?」

「えっと…」


 突然どうしたというのだろう。

 さっき言われた事といったら、紅白戦をしっかりやれという事だろう。


「…分かっている、つもりです」

「……そう、なら良いのだけれど」


 実際に言われた訳では無いが、ベンチ入りのメンバーの件も含めて俺は頷く。

 その準備は出来ているつもりだ。

 それでも、そんな俺に先輩は最後に冷たく言った。


「もし、次の私との試合で今みたいな試合をするようなら、こっちにも考えがあるからね。

 よく、覚えておいて」

「…えッ?」


 それってどういう事ですか? とは聞けなかった。

 先輩が俺の返事を聞く前に背を向けて行ってしまった、というのも原因の1つだが、それ以上に俺を躊躇わせたのは今の先輩の声音だ。

 先輩は、俺に対して本気で怒っていた。

 原因はさっぱり分からないが、そういう声をしていた。

 今の試合の中で何か気に障る部分があったのだろうか。

 俺の態度が悪かったのだろうか。



 いくら考えても俺には分からない。

 そんな中で時間だけが過ぎていく。

 

 結局、どこか納得がいかず悶々とした気持ちのままで、次の試合が始まってしまった。


「よ、よろしくお願いします」

「………」


 最近ずっと楽しそうな顔しか見ていなかったせいか、久しぶりに間近で見る先輩の本気の顔は妙な迫力があった。

 まるで猛獣の前に裸で座らされているような、そんな緊張感。


「……行くわよ」

「は、はい」


 合図と同時に先輩が動く。

 俺もそれについていこうとして――



「……馬鹿…」



 最後まで何も出来ないまま、俺のチームは天王寺先輩のチームに一方的に敗れたのだった。





「休憩!」

『はい!』


 とりあえず紅白戦が1周した所で1度休憩になる。

 周りのチームメイトは各々好きなように休憩をしているが、俺はどうにも休む気にはなれなかった。

 ずっと気になっているのは、やはり天王寺先輩の言葉だろう。

 先輩は試合中もずっと不機嫌で、俺の事など見ようともしていなかった。

 一体なぜ……



「よ、見事にボコボコにされたな」

「あぁ、火野先輩…」


 適当にボールで遊んでいると、コップを2つ持った火野先輩が声をかけてきた。


「ほら、お前も飲め。疲れたろ」

「いえ、僕は…」

「いいから、飲め。そんで座れ」

「は、はい…」


 言われるままにコップを受け取り、その場に腰を下ろす。

 すると、先輩もすぐ隣にドカっと腰を下ろした。


「お前、何であたしが試合に出なかったか、分かるか?」

「え? …いえ、ただの気まぐれとかじゃないんですか?」

「ば~か。いくらあたしでもそんなモンで試合に出ない訳ないだろ」

「それじゃあ…」


 考えたって、分からない。

 天王寺先輩と同じだ。

 分かる訳がないじゃないか。

 俺は人の心が読める訳じゃないんだ。

 なのに、どうしたって分からない問題を俺に投げつけて何がしたいんだ。


「……分かりませんよ、そんな事…」

「…そっか……」


 先輩は俺の返事を聞いてフッと息を吐く。

 そして、


「ったく、なんであたしがこんな役回り押し付けられんだよ! お前のせいだぞ、馬鹿」


 俺はそんな理不尽な言葉と一緒に綺麗にチョップをくらった。


「えッ? ……えッ?!」

「お前は本当に馬鹿だな。分からなけりゃ聞けば良いだろ」

「…?」

「だーかーらー。お前はあたしが麗奈に譲った時に何も疑問に思わなかったのか?」

「え? いや、まぁ…」


 あの時は、先輩方だけで話がついたみたいだったから、それに従ったまでだ。

 なのに、何でそこに関して怒られているんだ?


「そもそも、お前はその前に1個重要な間違いをやってんだぞ。それには気づいたか?」

「…?」


 どうしよう、先輩の言っている事が全く分からなくなってきた。


 けれど先輩は構わず続ける。

 ただ、真剣な表情で。

 何かを諭すように、ゆっくりと。


「…お前、何であたし達の事何も知ろうとしないで、いきなりメンバーを決めようとしたんだよ」

「あ……」

「その後だってそうだ。あたしは確かにお前に聞いたぞ、なのになんで周りのやつに流されたまま、適当にメンバーを決めたんだよ」

「……」


 先輩に言われて、俺は初めて気づいた。

 そうだ、俺はこのチームのメンバーの事、まだほとんど何も知らないんだ。

 2年生も3年生も、ほんの少し一緒に練習した事があるだけなのに、プレイスタイルや性格を勝手に決めつけていた。

 どうせ全員フォワードだと、誰が出ても一緒だと、最初に心のどこかで思ってしまった。

 だから、先輩が勝手に決めるならそれでも良いと納得してしまった。


 気付くチャンスはいくつもあったんだ。

 最初の話じゃないが、火野先輩がなぜ引いた。

 本当はあそこで引くような人じゃないのに、やけにあっさりと。

 不思議に思わなかった訳じゃないが、本当に気まぐれかと思った。

 漠然と、出たくないんだな、程度の認識だった。

 でも、あれは先輩なりの俺へのメッセージだったのか。

 いつもと違うぞ、と。

 それに気付け、と。


 もしあの場で俺が気付いていたら、先輩に何か一言でもかけていたら、結果は変わったかもしれない。

 なのに、俺は気付けなかった。


 そう考えていけば、天王寺先輩の言った事も分かる。

 あの人は、そんな考えではメンバーの選考などもってのほかだと言いたかったのだ。

 勝手にイメージを押し付け、初めから色眼鏡で選手を見る。

 そんな人間が、チームの事など本気で考えられる訳がない。

 案の定、俺はついさっきまで自分のチームさえも本気で考えられていなかったのだから。



「…すみませんでした、先輩」

「ん、分かればいいんだよ。それに、謝んなきゃなんないのはあたしじゃないだろ?」

「はい。……はい!」

「よし、良い顔になった。その顔なら、次からあたしも出てやる。天王寺先輩にはもう負けてらんないからな」

「はい! じゃあせっかくなので先輩から教えてください。ポジションと、得意なプレイを」

「あたしからか?!」


 そして、俺はまたチームへと戻る。

 今度こそ、失敗しないように。

 本気でみんなと向き合うために。





 ――そんな俺たちを、離れた所から天王寺先輩たちは見ていた。


「あら、彩芽さんも中々やるわね」

「あぁ、伊達に2年生のまとめ役をやっていないな」

「この休憩明けが、本当の始まりみたいね…」




 そして、休憩が終わる。


 第2ラウンド、開始だ――


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