#70 1回戦
「よろしくお願いします!」
号令と共にブザーが鳴る。
最初のゲームは風花のチームとの対戦だ。
こちらは初戦という事でがっちりした決め事はしていない。
まずはみんなの調子の確認と,どんなプレイが好きなのかを見極める所から始める。
プレイの好みは自由にやらせればすぐに見えてくるからだ。
「こっち!」
ジャンプボールに跳んだ北川先輩が上手く俺に弾いてくれてゲームスタート。
俺がボールを取った瞬間に大久保先輩が声と手をあげてボールを呼ぶ。
「はい!」
俺がその声に迷わずパスを出すと,先輩はまっすぐゴールへと向かう。
大久保先輩はスピードを生かしたドリブルで敵陣の中央を突破していく。
立ち上がりの速攻はそのままの勢いで決まり,2対0。
調子の良いスタートは切れたが,ここで油断してはいけない。
相手チームには,白山先輩と神崎先輩の2大巨頭がいるのだ。
「ディフェンス! きっちり止めましょう!」
「おう!」
ディフェンスはハーフコートのマンツーマン。
2人にはこちらも身長がある広瀬先輩と北川先輩をぶつける。
風花は俺が責任を持って止め,残りの2人をそれぞれの先輩に託した。
風花の事だから速攻でしかけてくるとも思ったが,そうでもないらしい。
落ち着いたドリブルのゆっくりとした攻め。
いつもの彼女とは正反対のスタイルに,こちらのタイミングもずらされてしまう。
「………」
しかし,風花の視線は真剣そのものだ。
少しも油断できない状況に,こちらも神経を集中させて迎え撃つ。
「ッ!」
「くッ!」
その瞬間,動いたのは風花では無かった。
さすがに振り向いて確認する訳にもいかないが,誰かが抜かれたらしい事は分かる。
動いたのは,右サイド。
風花もそれを確認している。
間違いなく,ここで動てくる。
パスか,ドリブルか,どっちだ。
風花の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませる。
「ッ!」
そして,風花が動く。
狙っていた右サイド,ではなく,俺の逆をつく左サイドだ。
「ちッ!」
利き手ではない左手のはずなのに,なんてスムーズで速いドリブルだ。
まさかここまで出来るとは,本気になったつもりで風花を甘く見ていた。
気合で追いつき抜かれはしなかったものの,バランスを崩されそれがやっとだ。
風花はそれ見たのか見ていないのか,俺を嘲笑うようにフェイクを1度,2度。
為すすべのない俺を完全に振り切ってからパスを出す。
そのパスはゴール下に陣取っている白山先輩の手に渡り,呆気無くゴールを返されてしまう。
完全に風花にしてやられた。
ゴール下で白山先輩に勝てない事は分かっていたので,俺の仕事はそこへのパスを防ぐ事だったのに,まんまとパスを許してしまった。
「ドンマイ!」
苦い顔をする俺にチームメイトが声をかけてくれる。
「はい!」
そうだ,まだゲームは始まったばかりだ。
俺は頭を振り,気持ちを切り替えてボールを受け取る。
――次は,こちらの番だ。
そこからしばらくは,取って取られての展開が数分続いた。
風花のディフェンスはまだ甘い所もあり,そこを上手くつけばこちらの攻撃は決まる。
だが,風花のオフェンスは攻撃パターンも多く中々対応できない。
先輩も健闘してくれているが,白山先輩と神崎先輩がどうしても止まらないのだ。
だが,終了間際にそんな状況もついに変わる。
「――甘い!」
それは偶然だったが,ようやく俺が風花のパスをカットする事に成功したのだ。
「くッ!?」
そのまま速攻の形をつくる。
俺が先頭,次いで海野先輩と大久保先輩が続く。
このまま1人で行ってもいいのだが,それはあまり意味が無い。
俺はほんの少し速度を緩め,先輩が追い付くのを待つ。
「よこせ!」
先に追いついた海野先輩にパスを出し,そのままレイアップ。
先輩の手から離れたボールがネットを揺らすのと同時に,試合終了のブザーが鳴ったのだった。




