#42 お見舞い(1)
「さて…と……」
文香に書いてもらった地図をもう一度確認する。
指定の駅で降りて、目印の通りに曲がり角を曲がり、信号の数を数えて横断歩道を渡った。
この地図が間違っていなければ、今目の前にある「竹内」という表札がついている家が、風花の家ということになる。
住宅街に建つ一軒にしては、結構大きな家だ。
車が2台くらいは入りそうな駐車スペースと、その奥には広い庭もある。
綺麗に刈り揃えられた芝の庭の隅には、バスケットのゴールが置かれていた。
「やっぱり、ここで間違いないかぁ…」
いっそ地図が間違っていて欲しかった、と思ってしまうのは仕方がないだろう。
突然クラスメートでもない俺が1人で見舞いになんて来たって驚かれるだけだ。
隣に文香でもいればまた話は違うのだろうけれど、あいつはもちろん部活があるので来られない。
本当ならば俺だって部活に出たい所だが、先輩に「部員のケアも、マネの仕事よ」なんて言われたらそりゃ断れないさ。
「……」
ゆっくりと、深く深呼吸。
落ち着け。
俺は別に何もやましい気持ちは無い。
ただ、部活のメンバーが心配なだけだ。
見舞いの菓子折りも持ってきたし、変な目で見られる事も無い……はずだ。
「よ、よし」
気合を入れてインターホンに手を伸ばす。
…が、なかなか押せない。
もしかすると、初めて第二体育館に行った時よりも緊張しているかもしれない。
あの時でさえきっかけが中々掴めずもだもだしていたというのに、この状況をどうやって打開すれば良いのだろう。
「――ワン!!」
「はぃ?!」
そんな俺にいい加減イライラしたのか、向かいの家で寝ころんでいた犬が突然大きな声で鳴いた。
それに驚き、俺の指は思わずインターホンを押してしまっていた。
ピンポーン、という電子音が家の中から聞こえる。
これでもう後戻りは出来ない。
わずかに後ろに顔を向け、何も無かったようにそっぽを向いて再び寝ころんでしまった犬に感謝をするべきか。
一応小さく礼を言い、俺は再び門の前に立ち応答を待った。
『はい、どなたですか?』
しばらくして、インターホンから女性の声が返ってきた。
なんとなく風花のような気もするが、もし違っていたら大変なので、ここは丁寧に行く。
「あの、私は霧ヶ原高校バスケ部の木嶋と言います。今日は同じ部活の風花さんが風邪で学校を休んだというので、お見舞いに来ました」
我ながら噛みもせずよく言えたと思う。
しばらくすると玄関が開き、中から風花が顔を出してきた。
「…どうしたのよ、突然。しかも1人でなんて」
「い、いや、だから、お見舞いに…」
真っ赤な顔で出てきた風花に思わずどきりとしてしまう。
予想に反して、どうやら本当に具合が悪かったらしい。
「あ、これみんなから。これ食べて、早く元気になれよ」
「うん。ありがと」
「じゃ、俺はこれで」
手に持っていたお菓子をそそくさと渡し、回れ右。
「あ、ちょっと…」
「ん?」
そそくさと帰ろうとした俺を、なぜか風花が呼び止めた。
振り返ると、さらに顔を半分ドアに隠した風花が、小さな声で言った。
「せ、せっかくだから、あがって行っても良いわよ…」
「はい…?」
こうして、俺は生まれて初めて同級生の女子の家にお邪魔する事となった。
ちなみに、この時点でまだ両親は帰ってなく、家には風花しかいないという事実を、俺はまだ知らされていなかった――




