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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#40 ささいなきっかけ


 コートに戻った俺を待っていたのは,何人か先輩も混ざってはいるものの,基本的には1年生を中心にしたメンバー。

 1年生には前もって根回しが行っているので俺を見ても特に動揺も無いが,ざわついたのは上級生だ。

 そんな上級生が動く前に,俺は先手を取ってみんなに頭を下げた。


「今日からみなさんの練習を見る事になりました,マネージャーの木嶋です。色々と至らない所はあると思いますが,どうぞよろしくお願いします」


 風花を筆頭に1年生からは「よろしくお願いします」の声が上がるが,上級生は戸惑っているだけで返事は無い。


「…ちょっと,どういう事?」


 ややあって,その中のリーダー格らしき人が一歩前に出て言った。


「私たち何も聞いてないんだけど。あなた誰に許可を取ってる訳?」

「もちろん,天王寺先輩からです」

「でも…」


 俺の言葉を聞いても,まだ何か言いたそうにしている先輩。

 実際に今だって天王寺先輩に呼ばれてここに来たのだが,きっと見えていなかったのだろう。

 安心して欲しい。

 そもそも2年生が1年生に教わる事がいい気分じゃないのは俺にも良く分かっている。

 だから,こうなった時の事もちゃんと考えてますよ先輩。


「まぁ,僕が練習を見ると言っても強制じゃありませんから安心してください。ゴールは左右に4か所もあるんですから,自由に使いましょうよ」

「あ,あら,そうなの。じゃあ私たちは向こうで練習させてもらうわ」


 俺の完全な営業トークに毒気を抜かれた様子の先輩は,他の上級生を引き連れて別のゴールに向かう。

 その後ろ姿を見送り,俺は小さく息をつく。


「ぷぷっ。『僕』だって。変なの」


 そんな中,風花が必死に笑いを堪えていた。

 仕方ないだろ,普段通りに話す訳には行かないんだから。

 俺は残った1年生に目を向ける。


「先輩達もいなくなった所で,こっちも始めますか」

『はい』

「…そんなにかしこまらなくて良いよ。同じ1年だし,お互い気楽に行こう。で,最初は好きな所でシュート練から。10分後にまたここ集合で」

『はい!』


 俺の言葉に元気に返事を返して,各々好きな場所に散らばる。

 全く,気楽にって言ったのにお堅い返事を返してくれるもんだ。

 これでは聞いているこっちがくすぐったくなってしまう。


「ま,別に良いけどさ」


 散らばったメンバーはとても楽しそうにシュートをしている。

 普段は先輩のボール拾いだったり基礎練だったりが殆どで,こんな風に自分たちが自由にゴールを使える事なんて無いのだろう。

 その様子を見ていると,やはり強豪校を知って入ってくる人が多いのか,結構ゴール率は高そうだ。


 そのまま視線をずらし先輩達のいる場所を見てみよう。

 1年生のようにシュートを打っている人,コートでの練習を眺めている人,なんとなくボールをいじっている人,と見事にばらばらだった。

 別に好きにしてくれと言った手前,こちらが口を出す事ではないのだろうが,さっき俺に突っかかってきたリーダー格の人が,なんとなくボールをいじっている人のグループにいる事は少し残念な所だ。

 そして今度はその先輩の視線の先,コート上に目を向ける。

 そこでは天王寺先輩を筆頭にしたベンチ入りメンバーが,次々入れ替わりながらゲームをしている。

 厳しい言葉が響く時もあるが,先輩達もどこか楽しそうにバスケをしている。

 その中には先日の練習試合で活躍した文香の姿もあった。

 1年生でコートにいるのはもちろん文香だけで,周りの先輩からはそう良い顔はされていない。

 けれど,実力を示せば学年関係なくチャンスがある,という事実はそのまま部員全体のやる気に直結する。

 さすがは天王寺先輩,ちゃんとそういう所も分かってチーム分けをしている。

 それに天王寺先輩と白山先輩がいれば,先輩たちからの嫌がらせもほとんどないはずだ。


「ハル君,どうしたのじろじろ文香の事見て」

「ぅん? べ,別にそういう訳じゃ…」


 そんな事を考えていたら,後ろから突然肩を叩かれた。

 慌てて振り返ると,にやにやといやらしい笑みを浮かべた風花がいた。


「そんなに文香の事が気になるのかな~?」

「ち,違う違う。そんな事より,お前も早くあっちに行けるように努力しろよ」

「へいへ~い」


 風花はそう言って持っていたボールをリングめがけてヒョイと放り投げた。

 適当に投げられたボールは,しかし綺麗な放物線を描いてネットを揺らした。


「…え?」

「ふふん,私だってこの距離ならこれくらいは出来るもん」


 自慢げに言う風花だが,これは素直に凄いと思う。

 確かにゴールからはそう離れていないが,振り向きざまに片手で軽く投げて簡単に入れられる距離ではない。

 見た目や言動とは裏腹に,繊細にボールを扱える指があるのかもしれない。


「……お?」


 そう思った時,俺の中で何かがカチッとはまった。

 中に切り込んでいくタイプのフォワードであれば,ドリブル能力は申し分ない。

 今の様子ならば,離れた位置からのフックシュートやスクープショットなんかも武器になるかもしれない。

 ボールコントロールはこれから伸ばしていくしかないが,元になる指がある程度あれば大丈夫だ。

 周りを見る能力……はちょっと微妙かもしれないが,周囲に溶け込む事や,相手の懐に入っていく事に関してはばっちりで,みんなとの調和は取れる。

 実は頭も良いらしく,学年初めのテストではなんとトップ10に入っていたらしい。



 これは,行けるかもしれない。

 俺は改めて風花を見る。


「…なぁ風花。ちょっと提案があるんだが」

「うん? 何だいハル君?」

「お前……ポイントガード,やってみないか?」


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