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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
4/148

#4 始まりは突然に(4)

「失礼します」

「失礼します」

「あぁ,来たね。ではそこにかけてくれ」


 緊張しながら,促された席に座る。

 関係ない話だが,どうして応接用のソファってこんなに座り心地が悪いんだろう。

 これなら教室の椅子の方がよっぽど座りやすいのに…


「どうぞ,飲みたまえ」

「あ,はい。ありがとうございます」


 くだらない事に一瞬意識が行ってしまった俺を,学園長の言葉が引き止める。

 そうだ,俺にはやらなきゃいけない事があるんだ。


「学園ちょ」

「バスケ部の件で,私に言いたい事があるんだってね」

「…はい。どうs」

「どうしていきなり廃部にするのか。その理由は昨日も話した通りだ。君たちには部員という部として存在するためにかかせないものが無い。だから,廃部だ」


 まずい,完全に相手のペースに飲まれた。

 さすがに相手は学校一つを指揮している人物。

 簡単に会話のペースをくれたりはしないか。


「……だったら人数をあt」

「確かに,人数さえ集まれば部として再開させても良いだろう」


 と,学園長はそこで一度言葉を区切り,じっと俺を見る。

 何かを期待しているような,それでいてどこか迷っているような,そんな目。

 そんな学園長の目は,ただ俺の願望が見せているだけの幻なのか,それとも―――




 そんな事を考えていたものだから,次の学園長の言葉を,俺の頭は理解しきれなかった。


「しかし正直な所,私個人としては,県予選すら満足に勝ち上がれない今の男子バスケ部に,存在意義はないと思っている」


 スッと細められた目が,昨日と同じものに変わる。

 突然の変化に俺は全くついていけず,ただただ困惑するだけだった。


「たとえ部員が増えても,今の状態に戻るだけだったとしたら,私は部として認めたくはないな。それこそ,愛好会として続けてくれたら良い」

「それは…」

「木嶋遥斗君。君にとって部活とはなんだ。君は,何のために,何を望んでこの私の所まで来たんだい?」


 真意が分からないままに,学園長の言葉が胸に刺さる。

 俺の望み? そんなものは決まっている。バスケ部の存続だ。



 ――――でも,その先は?



 バスケ部がただあれば良いのか? 俺はそれで満足なのか?



 ――――違う! 俺が目指しているものは,その先にある!



 はっとして目をあげた俺に,学園長は続ける。


「今君が選ぼうとしている道は,とても険しく,遠い道だ。君は、それでもその道を行くのかい?」

「それは…」


 確かに俺の目標は部活の存続だけじゃない。

 部活をやっていく以上,やはりインターハイ出場は夢だ。

 今のままで部活が存続したからと言って、この先インターハイに行ける保証なんてない。

 でも、だからと言ってバスケ部そのものがなければ、予選にすら出られないじゃないか。

 部活さえやっていければ、来年、再来年にはチャンスが来るかもしれないんだ。

 中学時代だって、そうやって来たのだから。


「遥斗君、君の中学時代の活躍ぶりは知っているよ」

「えっ…?」

「ずっと一回戦敗退の弱小高だった霧崎中バスケ部を三年で県準優勝までのし上げたキャプテンのポイントガード。偶然良い後輩が入ってきた、トーナメントの当たりが良かった、などと世間は言っているが、私はそうは思わない。他にどんなに優れたプレイヤーがいようと、それをまとめる力の無い者が司令塔では勝てる試合も勝てないだろう。逆に、他のプレイヤーが標準でも、力のある司令塔がいれば、そのチームは勝てる」

「そんな事…」


 無い、とは言い切れなかった。

 確かに中学最後の総体は出来すぎた結果だったし、あれが全て自分の力だなんて思ってない。

 でも、その経験があったからこそ、部活さえ続けられればチャンスがあると思っている事も事実だ。

 来年、再来年になれば霧崎の後輩がここに来るかもしれない。

 他の学校からだって、良い選手が集まるかもしれない。

 そう思って、何が悪いんだ。


「私は、君のその力をもっと別の場所で生かして欲しいと考えている」

「…?」


 急な話題の変更。

 学園長の意図が見えない、何を言いたいのかを隠すような学園長の話し方は、昨日からずっと慣れない。


 ―――こういう人と話すのは、正直苦手だ。


 うんざりした気持ちで次の言葉を待っていた俺だったが、学園長の次の一言は、そんな俺の気持ちを吹き飛ぶのに十分すぎる威力があった。


「もし私の条件を君が飲んでくれるのならば、バスケ部は休部扱いとし、部員が集まり次第復活という形をとってもいい」

「本当ですか!?」

「もちろん、嘘はつかない。君がやるかやらないか、それだけだ」

「もちろんやります! 何だってやってみせます!」


 ようやく見えた希望に、迷わず飛びつく。

 当たり前だ。ここで行かなきゃ何も始まらない。

 期待を込め身を乗り出す俺に、学園長は告げる。

 


 それが、これから始まる俺の高校生活を決定づけた瞬間。

 終わったはずの高校生活が、始まった瞬間だった。





「条件は一つ。君には男子バスケ部が復活するまで、女子バスケ部のマネージャーをやってもらいたい」

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