#28 反撃開始
タイムアウト後は,相手のフリースローから始まる。
2本の内の1本は運良く外れ,これで点数は6対7。
更に相手のスローインから試合が再開されるので,まだまだ気は抜けない。
天王寺先輩と陰山先輩が抜けた穴を埋められるかどうか,まずはこのディフェンスからだ。
基本の形はハーフコートのマンツーマンで変わらないが,交代をしたのでマークを少し変える。
火野先輩の7番は変わらず,5番を神崎先輩,8番を風花,6番を文香,そして4番を白山先輩がマークする形にした。
ガードの4番をセンターの白山先輩がマークするという奇妙な構図になってしまったが,中学時代フォワードとして活躍してきた先輩ならばきっとやってくれる。
そもそも,今のメンバーにはガードがいないので,個人の実力を考えると先輩に何とかしてもらうしかないのだ。
相手のキャプテンも,さっきまでセンターだった選手が自分のマークについた事で多少は驚いたようだが,すぐに余裕の笑みを取り戻す。
そのまま油断してくれていた方がこちらとしてもやりやすい。
その他のマークについては特に問題なく機能している。
陰山先輩のようなトリックプレイヤーがいなくなった為,基本に忠実なスタイル。
ほとんど準備も無しにコートに立った文香と風花も,何とかついて行けている。
横から来る先輩方の視線はどこか痛く突き刺さってくるが,これは我慢するしかない。
だって仕方無いじゃないか。
まだ先輩達の実力はおろかポジションすら知らないのだから,あんな状況で指名出来る訳がない。
万が一に備えてベンチに入っていてもらって本当に助かっているくらいだ。
これも,今までずっと俺をないがしろにしてきた自分達が悪いと思ってスッパリ諦めていただきたい。
「ッ…!!」
そんな事を考えている間に,試合が動いた。
相手の6番がパスをもらって強引にゴール下に切り込んでいく。
白山先輩が前に出ている為,ゴール下はどうしても甘くなってしまう。
そこを上手く狙われた形になってしまった。
神崎先輩のフォローも間に合わず,そのまま追加点を許してしまった。
「ちょっと,やっぱりダメじゃないの…」
ベンチからそんな声が聞こえる。
確かに,今は文香のディフェンスが甘かったかもしれない。
しかし,まだ試合は序盤だ。
取られたら,取り返せば良い。
高校に入ってからの基礎練しか見ていない先輩達は知らないだろうけれど,中学時代から文香にはとっておきの武器があるのだ。
「平林!」
神崎先輩のスローインからボールは文香の手に。
相手のディフェンスは変則トリプルチームから一般的な2-3のゾーンディフェンスへと切り替わり,ゴール下を固めてくる。
今までこのチームは遠距離攻撃が苦手だという話はすでに聞いているし,相手もそれは分かっていての動きなのだろう。
――でも,今回はそれが落とし穴だ。
「なッ…?!」
トップの位置にいたキャプテンが驚きの声をあげる。
いや,それだけじゃない。
きっとこの体育館にいる全員が少なからず驚いたと思う。
もちろん,その当人と俺は除いて,だが。
全員が見上げる中,美しく放物線を描いたボールは,まっすぐにリングの中心を射抜く。
相変わらず,見ている者を魅了するような綺麗なフォームで,文香は3ポイントを決めたのだった。




