荒れるイズモの国土
校長先生たちはすぐに帰って来た。勢いよく歩くその姿。きっと、OKが出たんだろう。そんな気持ちで、俺も近寄って行く。
「どうでした?」
俺の言葉に、校長先生の少し後ろを歩いていた神山先生が、右拳の親指だけを突き立てて、腕を伸ばして、にかっとした。
「許可が下りた。ここは他のみんなに任せておこう」
「あ、あ、あの」
真剣な表情の校長に、俺は希未ちゃんの事を切りだせず、しどろもどろだ。どうした? と言う表情で校長はそんな俺を見た。
「私も連れて行ってください。
頑張ります。足手まといにはなりません!」
俺の背後から、元気いっぱいの声で希未ちゃんが言った。俺がちらりと振り返ると、ほぼ直角に頭を下げて、お願いしている。神山先生と言い、世の中、女の子の方が行動力があるんじゃないか? そんな事を思いながら、俺も続いて頭を下げた。
「お願いします」
返事がない。きっと、どうすべきか迷っているんだろう。ちらりと二人の様子をうかがうと、校長と神山先生は顔を見合わせていた。
「お願いします。僕が必ず希未ちゃんを守ります」
もう一度、大きな声できっぱりと言った。
「南原さんは優秀な生徒ですが、いかがいたしますか?」
「ふむ。守るとは言っているが、そんな余裕があればいいのだが」
「私、守ってもらおうなんて思っていません。それではただの足手まといです。
私も力になりたいんです」
神山先生と校長の会話に割り込んで、希未ちゃんが言った。神山先生と校長はその元気の良さにちょっと驚いたようだ。
「たぶん、東山君と一緒にいたいのかと」
「そ、そ、そんな事ないですよ。神山先生」
校長の耳元でささやいた神山先生の言葉に、真っ赤な顔で少しうろたえながら、希未ちゃんが言った。
「君は空を飛べるのかね?」
「はい!」
校長の問いかけに、希未ちゃんが元気いっぱい答えた。
「分かった。では、君は東山君を運んでくれないか。
ただし、危険は覚悟しておいてくれたまえ。私たちも全力を尽くすが、君を守り切れるとは限らない」
「はい! 頑張ります」
希未ちゃんはそう言うと、俺の手をつかんだ。
「私について来てくれ」
校長はそう言うと、体を浮かせ始めた。神山先生が俺たちに視線を向けながら、体を浮かせた。
「まーくん、行くよ」
希未ちゃんがそう言った瞬間、俺の体の周りを風が包み込む、体が浮き上がった。
足元と背中から受ける強烈な風で、俺の体は宙を進んで行く。敵兵がうごめく国境を越えて、イズモの領内を進んで行く。
俺たち前を校長が、俺たちの横を並ぶように神山先生が進んで行く。眼下に広がる平原はやがて、街に景色を変えた。
広がるイズモの街々。高度があるため、はっきりと視認はできないが、何か変である。
ここはイズモの国境からかなり入ったところにある街であって、戦場でもないと言うのに、所々から黒煙が立ち上っている。どうやら、それはこの辺りだけでなく、はるか彼方にも何本もの黒煙が見えている。
そして、ここから見える街の通りにいる人々の動きも違和感があった。小さく映る人々の動きは慌ただしく、一方向にのみ進んでいる。何かを追っている? あるいは、何かから逃げている? かのようだ。
「何だと思う?」
速度を落として、俺たちと並んだ校長が神山先生に聞いてきた。
「まるで、戦乱のようではありますが、このあたりで戦闘が起きているとは思えませんし。
私、見てきます」
そう言ったかと思うと、神山先生が下降を始めた。人気の無い細い通りを目指して、神山先生の姿が小さくなって行った。しばらくすると、神山先生は戻ってきた。その顔には緊迫感が浮かんでいた。
「この国中から、軍隊はもちろん、治安部隊、警察もいなくなったようです。
武力を有する全部隊が、我が国との戦争に駆り出されたようです」
「つまり、あれは暴徒の仕業か?」
「はい。すでに、無法地帯と化しています」
「竜騎士はこの国を治める気などないと言うことか」
「どう言う事なんですか?」
俺には校長の言葉の意味が全く理解できないでいた。
「この国を治める気があれば、社会が混乱し、荒廃するようなまねはしないはず。
なのに、この状態を放置し、いや造り出したと言う事は、竜騎士はこの国を治めるために奪った訳ではないと言う事だ。
目的はただ一つ、神の門の向こうにある力」
そう言って、俺を見つめている校長の表情は今までに見た事がないほど、厳しかった。
「このままでは、この国は崩壊します。何の罪も無い民が」
神山先生の声は上ずっている。
「急ごう」
校長はそう言うと、向きをこの国の王宮に向けて、再び移動し始めた。
その後を追って、俺は希未ちゃんと移動を始めたが、さっきよりも校長は飛ばし気味だ。一刻でも早く、この国を解放したい。そして、カマクラとの国境に張り付いているこの国の兵や警官たちを元の任務に戻してやりたいのだろう。




