1・犠牲
-2007年-
-三林県 沢村市 禿河産婦人科にて、指先に小さく穴の空いた赤子が誕生した-
正に前代未聞だったその赤子は「特例身体障害者(Exception Body Disabled Person)」へと新しく分類され、認定した。
……ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
ピリリ カチッ
「…ねむ」
寝ぼけ眼で時計を見る…7時半だ。
「起きるか…」
重たい身体を起き上がらせ、その場で背伸びをする。
朝の食事を終わらせ、歯を磨く。
朝の支度を終わらせ手袋を着ける。
「行ってきます。」
そう言い家を出て、またいつも通りの1日が始まる。
自転車に乗って片耳にイヤホンをつけ、そのまま学校へ向かった。
今日から春休みが終わって高校2年生になる。成績は少し危なかったが、何とか留年する事は無かった。
学校に着いて、自転車を駐輪場に停めたところで少し遠くから聴き慣れた声がした。
???「秀音〜!久しぶり〜!」
コイツは''剋美紫遠''、当時小学6年生の頃に俺が通っていた小学校に転校して来た。
ハマっていたゲームがお互い一緒だった事がきっかけで、そっからすぐに仲良くなった。
中々に手が掛かる奴だが、悪い奴ではない。
(剋美)「今日の約束、覚えてるよな…?」
(秀音)「ん?何かあったっけ?」
(剋美)「ほら、お互い2年まで上がれたら秘密を暴露するって話したろ?」
(秀音)「うわ、そうだった。マジですんの?」
(剋美)「俺はやりたいけど…やっぱキツい?」
流石に約束を破るのは心が痛む。
(秀音)「仕方ねぇな…一度交わした約束だ、きちんと守るよ。」
(剋美)「よし!そう来なくちゃな!んじゃ、また放課後俺ん家な!」
(秀音)「おーけー」
何故こんな約束をしてしまったのだろうか、そんな事を思いながら大きく溜め息をつき、教室へと向かった。
(???)「ウッス!秀音、久しぶり〜。」
机に着こうとした所で声を掛けられた。
(???)「久しぶりに今日遊べる?」
コイツは''須永吉和''、コイツも小学校からの付き合いだ。低身長で四角い黒縁メガネがトレードマーク。性格は大人しい方だが、中々の変態気質。
正直この誘いにノりたい所だが、やはり約束を破るのは心が痛い。
(秀音)「悪い、誘ってくれたとこめっちゃ申し訳ないんだけど、今日他に用事あるんだよね。また今度遊ぼうぜ。」
(吉和)「そっか、こっちこそ忙しいとこスマンかった。また誘うわ!」
正直凄く遊びたい、なんなら吉和は剋美とも仲が良いため誘ってもよかったのだが、今回はそうもいかない。
春休み中は遠くにある実家に帰ったり、バイトだったりで忙しく、吉和達とは全くと言っていい程遊べていなかった。
その後は始業式を終えて、すぐ下校した。
現在時刻は11時20分、昼飯を済ませてから行くことにした。
「多分、1時には着くと思う。」
メッセージアプリ''LOIN''で剋美にそう送った。
自転車に乗ってさっさと家に帰った頃、リビングのテレビにはニュースが流れていた。
「先日の午後9時頃、行方不明とされていた「梶乃友成」様が沢村市駅付近にあるトランクルームの中で、遺体となって発見されました。」
(秀音母)「あら…近くで随分物騒な事が起こってるのね。秀音も気を付けなさいよ。」
(秀音)「勿論気を付けるよ。」
他人事とはいえ近くとなると少し怖いものだ。
食事を済ませた頃、そろそろ約束の時間だったので剋美の家に向かう事にする。
(秀音)「行ってきまーす」
そう言って家を出た。
自転車に乗って剋美の家に向かうその道中、自分の中でかなりの覚悟を決めなければいけなかった。''あの事''を明かす事で気味悪がられて嫌われるかもしれないからだ。
だが、もうそれはそれで仕方の無い事なのしれないと、既に少し半ば諦めかけている自分もいた。
自分で約束してしまった以上避ける事など出来ない。
そんな事を考えながら自転車を漕いでいたら、いつの間にか剋美の家にもう着いていた。
駐輪場に自転車を停め、遂に腹を括る。
家のインターフォンを押してから少しした後、剋美が玄関から出てきた。
(剋美)「お!来たか!バックれないのマジで偉いな。」
(秀音)「あいにく約束は守る主義でね。」
そのまま家に入った。
部屋に連れられた後、遂にその時がきた。
(剋美)「んじゃ、確か相手が質問してきた事を正直に3つまで答える…とかだったよな。」
(秀音)「だったと思う。」
(剋美)「よし、じゃあまずジャンケンだろ。」
「最初はグー、ジャンケンポン!」
敗けてしまった。
(剋美)「よし!じゃあまず秀音から暴露してもらうからな。」
大体聞くことは分かっている。
(剋美)「ん〜じゃあまず、その独特なヘアスタイルはなんなんだ?」
(秀音)「え?」
(剋美)「その髪型だよ、名称までは知らんけど…何かに憧れてるの?」
(秀音)「なんだ…そんな事か、昭和のヘアスタイルが好きで「マンバン」ってのにしてるだけだよ。結構手入れ大変なんだよな。」
(剋美)「へぇ…あんま深くもないな…」
(秀音)「浅くて悪かったな。」
(剋美)「んじゃ、次は…」
固唾を呑んだ。
(剋美)「お前、筋肉クソあるよな。まさかステロイドとか…」
(秀音)「ヤってねぇよ!ナチュラルだわ!」
(剋美)「ヤってないのか!?その顔と髪型とナリでナチュラルとかバケモンかよ!」
(秀音)「褒めてんのか貶してんのかよく分かんねぇな…」
(剋美)「あははwそんじゃ、これで最後か」
この流れは、恐らく"あの事''については触れないだろう…
と油断していた時。
(剋美)「……なんでいつも手袋付けてるんだ…?確か、俺が転校した頃にはもう既に着けてたよな…?」
(秀音) (コイツ触れやがった…)
(秀音)「あ〜…こ、これはな?厨二病ってやつさ!ほ、ほら俺らみたいな歳頃はみんなそういう時期だろ…?」
(剋美)「歳頃も何も小学生の頃からずっと付けてんだから、厨二もクソもないだろ。」
(秀音)「…」
(剋美)「秀音、もしタブーに触れちまってるのならこれ以上触れないでおく。こんな約束しといてだけど、あんま無理はさせたくない。」
(秀音)「…いや、覚悟はもう決めてきてある。本当の事を言うよ。」
(剋美)「いいのか…?」
(秀音)「おう、ただこれだけは約束してほしい。」
(剋美)「なんだい?」
(秀音)「誰にも言わないでくれ。」
(剋美)「勿論そうする。」
(秀音)「オーケー、じゃあ外すぞ。」
空気に緊張が走る
手袋の中から出てきたのは、指先全てに小さな穴がポッカリと空いている異様な手だった。
(剋美)「えぇ…」
(秀音)「やっぱり気持ち悪いよな…」
(剋美)「いや…何これ。弾でも出るの?」
(秀音)「1回マジで殴るぞ。」
思っていたより軽い反応だったので少し気が抜けた。
(秀音)「それより、気持ち悪いとは思わないのか?」
(剋美)「何が?これはこれで個性じゃねえか。弾とか出たら普通にカッコイイぞ。」
(秀音)「カッコイイとか…お前マジ変わってんな。」
(剋美)「お前の髪型ほどじゃねぇよ。」
そう言って2人は笑っていた。
(秀音)「よし、次はお前の番だ。」
(剋美)「いや、ちょっと待て。コンビニ行かね?お菓子食いたくなってきた。」
(秀音) 「良いけど、帰った後しっかり応えてもらうからな?」
(剋美)「はいよ、じゃ行くぞ!」
そう言うと剋美は、財布を持ってそそくさと家を出ていった。
現在の時刻は午後3時、あっという間に1時間が過ぎていた。家を出て出発しようとした所で自転車の鍵を部屋に置いてきてしまった事を思い出した。
(秀音)「すまん、チャリの鍵忘れたから取ってくるわ」
(剋美)「あ…チャリで行くの?」
(秀音)「そりゃあ、チャリの方が早い…ってそうだったな」
そうだった、剋美はこっちに引越して来る前の幼い頃に自転車に乗って大怪我をしてしまったのだ。
自転車を乗り始めてすぐ、派手に顔から転んでコンクリートの地面に右目を擦って角膜を傷つけてしまい、そこから右目はほとんど見えなくなって、そこから自転車に乗る事がトラウマになってしまったのだ。
(秀音)「歩いて行くか。」
そう言うと剋美は静かに頷いた。
そのまま歩いて他愛もない話をしながら目的地のコンビニへ向かっていた。しばらくした後自分達はコンビニに着いた。
剋美の家から大体徒歩15分ほどで着く距離だった。
(秀音)「じゃ、俺チョコ系買っとくわ。」
(剋美)「お前最高かよ。じゃ、俺はグミとかにしとこうかな。」
(秀音)「良いねぇ。」
しばらくしてから二人共会計を済ませて、店を出た。
(剋美)「多分家着いて質問タイム終わってからまだ時間が余ると思うんだけど、その後どうする?」
(秀音)「あ〜、じゃあそっちが良ければスマブラやんね?」
(剋美)「お!良いねぇ!ぶち殺してやんよ」
(秀音)「お〜、上等や。」
歩き始めてから6分程経った頃、黒色のイカついロングコートを着た身長の高い男が、奥から歩いてきていた。そいつは自分達の横を通り過ぎようとしてるのでは無く、明らかに自分達の方へと向かって来ていた。
(秀音)「な、なぁ。」
(剋美)「どうした?」
(秀音)「前に身長がデカイ男が居るだろ?」
(剋美)「あ〜、そうねデカイ人居るね。」
(秀音)「明らかにこっち来てないか?」
(剋美)「え〜…そうか?言われてみればそう…」
その直感は当たっていた、そのまま少し歩いていると突然、男が自分達の前に立ちはだかったのだ。
お互い少しの沈黙が続いた後、男が口を開いた。
(謎の男)「お前らの身体に''異常''はあるか?」
訳が分からない、急な質問に困惑していると剋美が口を開いた。
(剋美)「風邪はひいてないですし、怪我も今はしてませんよ。あ、でも最近は花粉症がしんどいです。」
(謎の男)「風邪や花粉症とか、そんなチャチな物を聞いているんじゃない。もっと何か''特殊なモノ''だ。」
これを聞いて正直少し心当たりはあった、恐らく自分の指先の事だろう。でも、何故それを?少し怖くなったため、適当に答えてさっさと帰ろうと思っていた。
(秀音)「特に無いです。」
そう答えて歩き始めようとした所で、また男が口を開いた。
(謎の男)「待て、その手袋は何だ。今は3月、手袋をつける時期はとうに終わっているハズだぞ。」
やけに鋭い、もしかするとヤバい人なんじゃないかと思い、逃げようとも考えたが。
余計な事をして大事にでもなったら最悪な結果を招いてしまうかもしれないと思い、白状する事にした。
(秀音)「あの…嘘をついてすみません…実は自分の指先にポッカリと変な穴が空いてるんです。しかも両手、全ての指先にあるんです。」
(謎の男)「そうか、正直に教えてくれてありがとう。
悪いが死んでもらう。」
あまりにも衝撃な発言に動けずにいると。
(剋美)「秀音!!危ない!!」
大声と共に、俺は訳も分からないまま剋美に突き飛ばされた。
(剋美)「ヴ… ヴブッッ!!」
剋美の口からは血が出ていた。よく見ると剋美の腹部は男の手首から出ている細長い''何か''に刺されていたのだ。
(秀音)「は……は?何だよ…これ?剋美?」
こんな時に腰を抜かして動けなくなっている自分に苛立ちと同時に情けなさを感じていた。
数秒同じ状態が続いていると、剋美の腹部からその''何か''が抜かれ。その場に剋美が倒れ込んだ。
(剋美)「に…げろ、けい…さ…つ…よ…べ…」
(???)「クソ、あまり面倒事にはしたくなかったんだがな。こうなっては仕方がない、二人共ここで消す。」
(秀音)(クソッ…どうする…どうすればいい!?)
腰が抜けて上手く立ち上がれない、身体は起き上がる事を諦めてしまっていた。
今まで生きてきてかつてない程、頭の中で思考回路をかき巡らせた。
そこで剋美に言われた事を思い出した。
(剋美)((弾とか出せたら普通にカッコイイぞ。))
あまりにも非現実的過ぎる事は重々理解していたが、今の状況を切り抜けるのはもうコレしか無かった。
(秀音)(半ば神頼みだが…殺るか殺られるかの大博打。やるしかない。)
そう決心し自らの手で拳銃の形を作り、指先の穴を男へと向けた。
(謎の男)「哀れなガキだな、そいつがいくら稀とはいえ所詮ただの''身体障害''に過ぎない。そのちっぽけな穴から出るはずもない弾が鉄砲みたいに出るとでも思っているのか?」
(秀音)「クッ…!ご名答!!!!!」
人差し指に全身の力を込めた瞬間
バア''ア''ア''ァ''ァ''ァ''ァ''ン!!!!
爆音と共に指には激痛が走った。
(秀音)「ゐ''ッ''ッ''ッッダァ''ァ''ァ''ァ''!!!!」
思わず絶叫した。まるで指先をマグマにでも浸けたのかのような感覚だった。いや、確かに指をマグマに浸けた事なんて無いのだが、今思い浮かべる事が出来た例えがこれぐらいしか無かったのだ。
(秀音)「うぅぁぁ…クソ痛え…」
指は脈を打ち、少し腫れていたがそれ以外は何ともない、指先の小さい穴からは細い煙が出ていた。
少し落ち着いてくると視界が開けてきた、男はその場で倒れている。
意識がハッキリすると急いで剋美の方へ駆けつけた。
(秀音)「剋美ッ!!剋美ッ!!クソッ!!」
名前を呼んでも応えてはくれない。息どころか心臓はもう既に動いてはいなかった。
あまりの絶望に呆然としていると少し遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。日本では珍しいであろう爆音と、俺の絶叫を聞いて駆けつけた近隣住民が警察に通報していてくれたらしい。
自分達はそのまま警察に保護された。あまりにカオスな状況だったのだから、流石に後で取り調べを受けるだろう。
しばらくしてから俺は、勿論取り調べを受けた。
色々意味不明な部分が多すぎてかなり怪しまれたが、ひとまず解放された。
しばらくしてから母が車で迎えに来た。めちゃくちゃ心配されたが、「だから気を付けろと言ったろ」と少し怒られもした。これから何とか帰ることが出来るようだ。
早く家に帰って休みたい、そんな気持ちもあるが。
それよりも剋美が無事なのか、そんな心配な気持ちの方が遥かに強かった。
どうも、駆け出しの「木羅翠」です。まだまだ冴えない文章しか書けませんが、何卒よろしくお願いします。




