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第21話 神話を語る

 私の母は、ずっと憧れの弓使いだった。


 弓を構える姿は華のように優雅で、母のようになりたいと、そればっかり考えていて……。


 母に弓を教えてもらえることが誇らしくて、母が「上手だね」と褒めてくれる時が一番の幸せだった。


 だけど、母は私の前から姿を消した。

 私に何を告げるでもなく、忽然と。


 母が何を思っていなくなったかは定かでない。

 ただ漠然と、私が弱かったから見捨てられたんじゃないかという不安だけが渦巻いていた。


 ――きっと、母は帰ってきてくれる。

 ――それまでに強くなって、驚かせよう。


 迷いを振り切るために、私は来る日も来る日も弓に打ち込んだ。

 朝から晩まで、ひたすら、指が擦り切れても。


 1年が経過した。

 私は空を駆ける燕すら射抜けるようになった。

 目に見えて成長を実感する。


 だけど、その間、母は一度も帰ってこなかった。

 考えないようにしていた不安が胸の内で肥大する。


 私は不安に、必死に蓋した。

 大丈夫。大丈夫。

 強くなれば、きっと帰ってきてくれる。

 そう、信じた。


 2年が経過した。

 私は霊力という力を見つけ、矢に風をまとわせたり、貫通力を倍増させる術を覚えた。


 私の努力は、確かに私を成長させた。

 だけど、それが結実するのはいつだろう。

 いつになれば母は帰ってくるのだろう。


 いや、本当は分かっていた。

 母は私を見限ったんだ。

 強くなったって、帰ってきてくれない。


 ゆえにこの鍛錬に意味はない。

 いくら研鑽を積んだって、すべては無意味で無意義な努力。諦めない限り終わらない、ひどい物語。


「……私は、なんのために、弓を握るの」


 自分をごまかすのも限界だった。



 冒険者ギルドにて。

 僕はミュトスさんからそんな話を聞いていた。


 ミュトスさんはコップ一杯の青汁を飲み干すと、テーブルにコップを置いた。


「そんなとき出会ったのがこの青汁だったってわけ」

「え、ちょっと待って、今何の話してたの?」

「青汁の話だけど?」

「違うよね⁉ もっと、こう、それでも弓を握ってる理由とか、お母さんとのその後とかいろいろあるよね⁉」

「むぅ」


 ミュトスさんは空っぽになったグラスを眺めた。

 どれだけ時間が経っただろうか。

 ミュトスさんはぽつりと呟いた。


「歩みを止めなければ、いつか母上に会えるって、今でも信じているから、かな」



 ここに終止符を打とうか。

 本当に弓を嫌いになってしまう前に。

 そんなことを考えていた時だった。


 隣町に、有名な冒険者パーティがやってきているという話を聞いた。


 ひたすら弓に没頭していた私は知らなかったけれど、その冒険者たちはAランクで、知らない人のほうが少ないのだという。


(……これだ!)


 その話を聞いて、私は死中に活を見出した。


(弓使いの冒険者として有名になる。そうすればいつか、母上にも成長した私の噂が届くかもしれない)


 そうしたら、きっと。

 成長した今の私ならきっと。

 母は迎えに来てくれるはずだ。


 だけど、祖父母には反対された。


『冒険者⁉ そんなの命がいくつあったって足りやしないよ!! 母に再会する前におっ死んじまったら元も子もありゃあせん!!』


 私の父は物心がつく頃にはいなくって、祖父母には母がいなくなってからの2年間、育ててもらった恩があった。

 さすがに、聞く耳を持たないなんてできない。


 そして私はふと気づいた。

 祖父母の背丈が、ずいぶんと小さくなっていることに。いや、正確には、背中が曲がってきていることに。


 ……祖父母の老い先は、長くなかった。


 だから、ここで冒険者になりに村を出れば、死に目に会えないかもしれない。


「……っ」


 そんな親不孝者にはなりたくなかった。



「半年もすれば祖父がなくなって、初七日を終えると後を追うように祖母もころっといなくなっちゃった。それで半月くらい前にこの町について、冒険者になったってわけ」


 そう、ミュトスさんが締めくくる。


「じゃあ、いっぱい活躍して有名にならないとですね」

「うん。ロギアは、ついてきてくれる?」


 ミュトスさんの問いかけに答えるのは簡単だ。

 だけど、ちょっと気恥ずかしくって、僕は頬をぽりぽりとかいた。


「……笑わないでくださいね? 実は僕の夢も、Sランク冒険者になることなんです。まだまだ未熟者ですけど、ミュトスさんと目指す場所は一緒かなって、思うんです」


 あっけにとられたような顔をするミュトスさん。


「それは、重畳」

「……笑わないんですか?」

「どうして?」


 彼女は心底不思議そうにする。

 どうしてって。


「Sランクなんてなれるわけない。現実を見ろ。そうは思わないんですか?」

「私はロギアとならなれるって、本気で信じている」

「……」


 恥ずかしいことを、よくもまあそんな真顔で。

 かえって僕の顔が熱くなる。


「え、と……あ、そうだ! パーティ名! 僕が正式に冒険者になったから、パーティ名を決めないと!」


 これ以上辱めを受けていられなくって、僕は話題をそらした。露骨すぎたかなと思ったけれど、ミュトスさんにとってもそれは大事だったらしく、茶化すことなく真剣に考えてくれた。


「動物の名前は嫌」

「どうしてですか?」

「動物は、たとえ空想上の生き物でも、英雄には敵わないから。英雄はいずれ死ぬから」

「……なるほど。それなら、概念ですかね。ツナミとか」

「もっと私たちに関係あるのがいい」

「うーん」


 僕たちはしばらくあーだのこーだの言い合った。

 そしてようやく結論が出た。


「よし、僕たちのパーティ名は――」


これにて1章完結となります。

いかがでしたでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結になってるけど、一部が終わっただけなんですよね?
[良い点] ブクマでみたとき〔完結済〕とあったので え?と思いましたが1章完結ですねw びっくりしたw [気になる点] PT名 青天の霹靂?w [一言] 2章も楽しみにしてます
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