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第17話 ザインとオーディオ 後編(追放要素あり)

「オーディオ、お前をパーティから追放する」


 ザインとオーディオ。

 二人で酒場にやってきて、ザインが言いました。

 雪が月を覆い隠すような夜でした。


「……は?」


 オーディオが珍しく見せた狼狽。


「……冗談はよしてよ。ザインには似合わない」

「冗談じゃないさ。俺はお前を追放すると決めた」

「っ、どうして!」


 ザインには冒険者仲間がいました。

 癒術師のオーディオです。

 無口で無表情で不愛想。


「今度、聖女がパーティに加わることになった」

「……聖女? どうしてそんな人が」

「偶然この町で知り合ってな。意気投合し、救世の旅ついでに冒険者としてパーティに加わってもらうことになった」

「聞いてない」

「言ってないからな」


 関係はとっくのとうに歪みを見せていた。

 本心を包み隠す必要もなく、何でもないことで笑い合える時期はすでに終焉を迎えていた。


「……ザイン、僕は、君のことを友だちだと思っていた」

「俺もだよ、オーディオ」

「今でも、友だちだと思っている」

「……そうか」


 オーディオがこの短い会談で見せた、狼狽、激情、悲哀。その姿に、ザインは決めつけたのです。


「俺はもう、友だとは思ってねぇよ」


 かつての友は、もういないのだと。


「……っ!!」


 オーディオは懐から金貨を数枚取り出すと、バンと机に叩きつけました。飲みの代金としてはあまりにも多すぎる金額です。

 重い足取りで、オーディオは酒場を後にしました。


 その時の彼の顔を、ザインは、いつまでも覚えています。



 Aランクになって初めての冒険は大失敗に終わった。


「切断された腕を復元する⁉ そんなの無理ですよ!」

「そんなっ、それじゃあ私はどうすればいいのよ!」

「私には、どうすることも、できるわけ、ないじゃないですか……っ」


 ザインたちは知らなかった。

 聖女はオーディオとは違い、傷口をふさぐのが精いっぱいだった。


 いつもと同じように無茶な特攻をして、いつもと同じように負傷して、いつもと違ってそれきり腕が元通りになることはなかった。


 腕を失ったメンバーが言った。


「……オーディオがいてくれたらな」

「っ!!」


 ザインが壁に拳をぶつけた。

 突然の音に驚いたパーティメンバーが、ザインのほうを見る。


 目。

 目だ。

 無数の目玉がザインを非難している。


「あ、いや、すまない」


 ……ずっと感づいてはいたさ。

 オーディオが実はすごい奴なんじゃないかって。

 だけど、今さらどんな面さげてあいつに謝りに行けばいいんだ。

 あいつが最後に見せた表情を覚えているだろう。

 オーディオにあんな顔させたのは誰だ。


 後戻りはできない。

 あいつがいなくても立派にやっていけるって、証明してみせるんだ。



「もう、ザインにはついていけない。さよなら」


 また一人、仲間がパーティを去った。

 一人また一人とパーティを抜けていって、そのたびメンバーを補給して、俺以外全員が二度三度入れ替わって。


「……なにしてんだろ、俺」


 吐息が白に染まる。

 窓の外には斑雪がしんしんと降り注いでいる。


 ギルドに顔を見せる。

 今まで快活に笑い合っていたやつらが、俺に気づいて息をひそめた。どうせ俺を笑い種にでもしていたんだろう。笑うがいいさ、とうとうCランクまで落ちぶれた愚か者を。





 ……あるとき、噂を聞いた。

 聖女が代替わりするらしい。


「……もう一度、もう一度だけ」


 チャンスだと思った。

 それもただのチャンスじゃない。

 おそらく生涯におけるラストチャンスだと思った。


「夢を追いかける、権利を……!」




 ……結論から言おう。

 無駄だった。

 無駄だったんだ。


 ハッキリと思い知らされた。

 ヒールで治せるのは小さな傷口まで。

 これが聖女の平均値だ。


 俺の最初で最後のチャンスは、オーディオとの出会いだったのだと、その機会すらどぶに捨てたのは自分自身なんだと、理解した。


「……今度の聖女こそはと思ったが、どいつもこいつもオーディオの足元にも及ばない」


 及ばなかったのは、俺自身だ。

 牙の抜けたハイエナのように、オーディオのもとで吠えていればよかったのだ。


 あいつのようになりたいと願ってしまった。

 それが俺のすべての誤りだった。

 だから、もう、終わりにしよう。


「……セフィリア、君を、パーティから追放する」



 誰もいない。

 誰もいない。

 俺の世界には誰もいない。


 みんな俺が突き放した。

 差し伸べられる救いの手なんかありはしない。

 それでも、死に場所くらいは選びたかった。


 選んだのはネテル=ケルテトと呼ばれる砂漠にたたずむ遺跡のダンジョン。前人未到の、七大迷宮の一つ。


 道は二つに一つだ。

 何の爪痕も残せず、誰にも知られず朽ち去るか、あるいは何かしらの奇跡で迷宮を踏破し栄光を掴むか。

 見え透いた出来レース。

 こんな人生にふさわしかった。


 流砂の洞窟を抜けて遺跡を進む。

 時折、サンドスネークと呼ばれる、白いざらざらとした体皮が特徴的な魔物に襲われる。

 斥候ができない俺は、こいつの擬態も見破れない。

 不意打ちを受けてから反撃をする。


 何とか倒しても、体についた傷は癒せない。

 ヒールが使えない俺にそんな芸当はできない。


「……分かっていたさ。自分が何にもなれない半端ものってことくらい」


 それでも、足は止めなかった。

 一歩でも多く、歩んだ軌跡を残したかった。


 喉が渇いた。

 意識がもうろうとしている。

 自分で選んだとはいえ、ここが墓場になると思うと、どうしようもない不安に駆られる。


「……ぁ」


 ……偶然だった。

 俺は遺跡の中に貯水槽を見つけた。


「……」


 これで喉の渇きを癒せる。

 ふいに浮かんだ衝動に驚いた。

 自分はまだ、生きたいと思っているのだろうか。

 こんなどうしようもない人生だったのに。


「……ん? なんだ、こいつ」


 その問いの答えを見つけるより先に、貯水槽の中に奇妙な生き物を見つけた。小さなチューリップのような、触手のような奇妙な生き物だ。


「ぐぁっ⁉」


 その時、水中に漂っていたそれが勢いよく水面を飛び出し、俺の肩にかみついた。


「ちくしょう、なんだこの触手! 離れろ!」


 チューリップでたとえるなら茎の部分を掴んで引っこ抜こうとする。触手についた吸盤と、肩に噛みついた歯が強く食い込む。

 それならと、槍を使って触手を引き裂いた。

 引き裂いた場所から、触手の体が再生した。


 痛い、熱い、痛い、熱い。

 噛みつかれた場所が熱を帯びる。

 喉の渇きも相まって地獄のようだ。


「……ああ、俺、死ぬのかな」


 広い遺跡に、俺の声が飲み込まれて消えた。


「ちくしょう、死にたく、ねぇな」



 結局俺は、肩に触手をつけたまま、迷宮を後にした。この触手の対処ができるやつを求めて、町へと向かったんだ。


 俺は蛇蝎のごとく嫌われた。


 どうやらこの触手はディノミスクスといって、死を呼ぶ不吉として忌み嫌われているらしい。本来は海辺に生息するらしいが、それがどうして砂漠に。


 誰もが俺を避けた。

 傷口が一つ体に開くたび、死後の世界が近づいた気がした。


 次第に立ち上がることすらままならなくなった。

 俺は半ば悟りを開いていた。

 結局、死のさだめからは逃れられないのだ。


「あんたかい? 裂華症の患者ってやつは」

「はぁ……はぁ……誰だ」

「わしか? わしはロヌマード。悪徳医師をやっておる。裂華症を治せるのは、まあわしくらいじゃろう」

「悪徳、医師?」


 ロヌマードと名乗った男はこう言った。


「おまえさん、金はあるかい?」


 Aランク冒険者のころの貯蓄は、とっくのとうに切れていた。残ったのは元Aランク冒険者としての肩書だけ。

 首を振ってこたえる。


「そうかい、残念だが命はあきらめるんじゃな」

「なぁ、待って、くれ」


 立ち去ろうとしたロヌマードが振り返る。

 ああ、これが、本当に、最後のチャンスだろうな。


「俺は元Aランク冒険者なんだ。護衛として、俺の命を買ってくれ」

「ほぅ?」


 ロヌマードが見せた顔を、ザインは今も覚えている。


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[一言] 自分でいうのか 悪徳医師ってw
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