表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

第16話 ザインとオーディオ 前編(追放要素あり)

 少し、古い話をしましょう。

 もう10年は昔の、古い古い話です。


 ルーシア大陸の北部にあるアルギュロスという雪国に、ある冒険者一行がおりました。


「おい聞いたぜザイン。またお前のパーティが昇格するんだってな! 今度おごれよ!」

「ははっ、そうですね。今まで散々お世話になりましたし、考えておきます」

「ガハハ! つれねぇなぁ!」


 リーダーを務めるのは新進気鋭の槍使いザイン。

 冒険者になってまだ2年にもかかわらず、すでにBランクへの昇格。アルギュロスでは有名な冒険者の一人でした。


「そうだ! お前さんとこの癒術師……なんつったっけ」

「……オーディオですか?」

「おお! そうだ! オーディオ君だ! うちの息子がまた彼と遊びたいと聞かんくてな……。今度の休日にでも遊びに来るよう言ってくれんか?」

「……はい。本人にも伝えておきます」


 彼には同じ冒険者仲間がいました。

 癒術師のオーディオです。


(チッ、またオーディオのやつかよ。くそっ)


 口数が少なく、感情表現に乏しく、何を考えているかわからない。

 そんなオーディオのことが嫌いでした。


 それと同時に、彼には旧知の友もいました。

 癒術師のオーディオです。


「ザイン、ここにいましたか」

「オーディオか。なんだ」

「左足、怪我をしているでしょ」

「……」

「治すよ、≪ヒール≫」


 無口で無表情で不愛想。

 それでも、いつもザインの身を案じてくれていることだけは分かります。

 ザインは、そんな彼のことが憎めませんでした。


「……なぁオーディオ」

「なんだい」

「あのさ」


 オーディオには負けたくありませんでした。

 彼より優秀な冒険者でありたかったのです。

 他の冒険者からオーディオがいるパーティのリーダーと見られるのがたまりませんでした。

 冒険者のザインとして認められたかったのです。


「いや、なんでもない。また遊びに来てくれってさ」

「……それだけ?」

「……それだけだよ」


 それ以上追求しないオーディオに、ザインは優しさと寂寥を覚えたのでした。



 彼らの快進撃は止まりません。

 数々の高難度依頼をクリアして、瞬く間にAランクへの昇格が決まったのです。


「いやー! 今回もオーディオ君の活躍がすごかったね」

「いや、僕は何も」

「あはは! 照れるな照れるな! もっと胸張って生きてこー!!」

「わっ、ちょ、ちょっと」


 ……評価されるのは、決まってオーディオでした。


「ね! ザインもそう思うでしょ⁉」


 仲間の一人がザインに問いかけました。


「え、ああ、そう、だな。オーディオはもっと自信を持つべきだ!」

「ほらほら! 君の幼馴染もこう言ってるぞー!」

「え、えと……」


 しどろもどろになるオーディオ。

 彼の視線がザインに助けを求めます。

 ザインは何故か、胸のうちにどす黒いものが込み上げてくるのを感じました。それを隠すように、笑顔を貼り付けました。


「こ、こう、かな?」


 無口で、無表情で、不愛想なオーディオ。

 彼が見せた不器用な笑顔。


「ああ、よく似合ってるよ」


 歯が浮き上がりそうだった。



 雪が降る日でした。

 ザインが町を歩いていると、装備屋の窓ガラスに彼の顔が移りました。鏡の中のザインが彼に問いかけました。


(お前はそれでいいのか)


 ザインの頭はどこか夢見心地でした。


(それでいいのかって、何がだよ)

(オーディオの力でAランクになって、お前の自尊心はそれで満たされるのかって聞いてるんだよ)


「じゃあどうしろっていうんだよ!!」


 突然叫んだザインを、町行く人が不審そうに見守ります。そんな視線すら、ザインにとってはストレス以外の何でもありませんでした。


 ザインはあたりを睨みつけると、放っておいてくれと言わんばかりに殺気を込めたオーラを当たりに散らかします。


「……あの、大丈夫ですか?」


 そんな彼に、声をかける者がおりました。

 怒りもどこかに霧散してしまうような、よく澄んだ綺麗な声でした。


「……君は?」

「私、ですか……。難しいですね。しいて言うなら」


 女性がザインに微笑みかけます。

 ……太陽のように、心にしみる笑みでした。


「回復魔法がちょっと得意な、よくいる女の子です」


 それが、先々代聖女とザインの出会いでした。



「くそっ、くそっ、くそっ!」


 宿に戻って、机の上の物を全部薙ぎ払って、額に手を当てて、ザインは懊悩しました。


「どうすれば」


 自分にしかできないことをやる。

 理想論を掲げて冒険者を始めたはずでした。

 それなのに、オーディオがいてこそのパーティだと周りに評されている現実は、そう簡単には折り合いがつきません。


「分かってる」


 オーディオのもとを離れればいい。

 今ならまだ一からやり直せる。


「だけど」


 それは今の栄光を捨てるということ。

 人生において二度チャンスが巡ってくることは稀だということを、ザインはなんとなく理解していた。


「……」


 一つ手はある。

 どうしようもなく、外道な手が。


 今までは机上の空論に過ぎなかった。

 ザインはオーディオ以上の癒術師を知らなかった。

 だが、ザインは偶然にも出会ってしまった。

 聖女と呼ばれる存在に。


 ザインはパーティのリーダーだ。

 すべきことは明快で、オーディオとの離別だ。


 だがそれは、旧来の友を裏切る行為でもある。


(どうせ二度と顔もあわせないんだ。迷う必要なんてない……! ない、のに……)


 ザインは力なくソファに腰かけると、何もない虚空を見つめました。


「……くそ、どうすれば」


 と、そのときでした。

 今までは気づきませんでしたが、扉の向こうに気配を感じました。数は二つ。

 耳をすませば二人の会話が聞こえてきます。


「オーディオ君、今はザインを一人にしてあげよ?」

「でも」

「大丈夫! それよりさ、南通りに新しいスイーツ屋さんができたの。ね、一緒に行かない? 行こうよ」

「え、いや、でも」


 それから、二つの気配は遠ざかっていきました。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 ザインはようやく、自身がオーディオに対して抱いている感情を正しく理解しました。

 薄汚くてどす黒くて苛烈な熱を帯びるそれの名前は――劣等感、でした。


いつもお読みいただきありがとうございます!

物語もいよいよ佳境を迎えますが、いかがでしょうか?


「面白かった」、「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークやポイント評価で応援していただけると、筆者の励みになります。


広告下の

☆☆☆☆☆を

★★★★★にしていただければ評価になります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価は↑の☆☆☆☆☆を★★★★★に!
筆者の励みになります!
― 新着の感想 ―
[一言] 劣等感かあ・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ