第10話 冒険者とサポーター
本当についてきたよこの人。
いやいいけどさ。
そこまでして僕を冒険者ギルドに連れ出したいわけ?
うーん。
でもミュトスさんの話を信じるならゲゲルグさんが僕の罪科を肩代わりしてくれたみたいだし、僕が悪いことしてるんだったらもっと力づくな手段に訴えててもおかしくないよね。
呼び出されたのは悪い理由じゃないのかも。
そう、例えば補欠合格だったりだとか。
「終わった? じゃあ行こう」
「ねぇ、本当に今日行くんですか?」
「善は急げ。冒険者の常識」
「う、冒険者の」
そういわれると嫌とは言えなくなる。
ええい。
もう決め打ちしよう。
ミュトスさんはいい人!
僕をだましていない!
*
そんな感じで冒険者ギルドにやってきた。
「あ、ミュトスちゃんお疲れー」
「うん。これ、お土産」
「どうも、『これ』です」
「ロロロ、ロギア君⁉ マスター! ロギア君! ロギア君がいらっしゃいました!!」
甲高い声で受付のお姉さんが叫ぶ。
すると扉の奥から「なにぃ⁉」と地響きのような声がして、矍鑠とした男が現れた。
霜のような白髪混ざりの髪。
吊りと垂れを兼ね備えた枝分かれの眉。
瞳は穏やかな色なのにどこか力強さを秘めている。
「っ、君がロギア君か。話は聞いているよ」
「うっ……ちなみに、どんな話を……?」
「なんでもすご腕の癒術師だとか」
「どうしてそんな噂が⁉」
え、すご腕の癒術師?
ちょっと待っていろいろと理解が追い付かない。
なんで、だって僕癒術は得意じゃないよ?
「だが、わしの目はごまかせんぞ。君は癒術だけではなくあらゆる武術を修めているな?」
「っ、わかりますか。さすがのご慧眼で――」
「それも、極めたと言える域まで」
「節穴か! こほん、失礼」
ダメだ。
このギルドマスターも元はすご腕の冒険者だったのかもしれないけれど、今ではすっかり耄碌してしまっている。寄る年波には勝てないらしい。
「ふむ、どうして君のような有望な人材が落ちたのかはわからんが、よろしい。特別措置で冒険者になることを認めてあげよう」
「え? それってつまり……」
「合格だよ、ロギア君。君はこれから冒険者だ」
そう言って、マスターは僕に手を差し出した。
マスターの顔を見る。
屈託のない笑みを浮かべている。
「……お断りします」
「は?」
「はばかりながら申し上げます。この度の特例を辞退させていただきたい所存です」
「いや、口の利き方を指摘したわけではないが」
違ったらしい。
「なぜだ? 君は冒険者試験を受けたんだろう? 冒険者になりたかったのではないのか?」
「冒険者になりたいです。それは今も変わりません」
「だったら――」
「でも、それはそんなずるい方法でなっていいものじゃない! ちゃんと自分の力でならなきゃダメなんです!」
マスターが怯んだのを僕は見逃さなかった。
この隙に捲し立てる。
「僕はいろんな人に指導してもらいました。もし、そんな特別な措置で冒険者になんてなったら、お世話になったみんなに合わせる顔がない!」
「いや、しかし」
「これは僕の意地です! 絶対に譲りません!」
剣士のアインズワースさんはよく言っていた。
攻撃は最大の防御なり。
相手に反撃の隙を与えるな。
そうすれば勝利は後からついてくる、と。
それは口論にしても同じだ。
この件において一歩も引く気はない。
それをきちんと言葉に示す。
「……ふぅ、ロギア君の意気込みは分かった。確かに、ロギア君の言ってることが正しい。特例を持ち出そうとするのは大人のエゴだな。すまなかった」
「い、いえ」
何を言われても譲らない。
そう意気込んでいたのに、あっさりと相手が折れてしまったので、少しばかり拍子抜けに感じる。
だけど、これでもう憂いはない。
今度こそ、試験に合格するんだ。
「異議あり!!」
真横で大声が聞こえた。
ミュトスさんだ。
「ロギアは即刻私とパーティを組むべき! 特例を出して今すぐ冒険者にするのが吉!」
「えぇ……? 今きれいに話まとまってたじゃん」
「盤面を覆す神の一手」
「かっこよく言ってもダメです」
何と言われても譲らないからな。
「ミュトスくんのいうことも分かる。だが冒険者は自由の象徴だ。本人の意思に反することは、国からの徴兵を除いて強いてはいけない」
「むぅ」
「だが、本人が望むのなら話は別だ」
「むぅ?」
マスターが受付のお姉さんの方を向き「あれを」と口にする。お姉さんは「承知いたしました」と口にすると、受付の後ろに備え付けられた棚からファイルを取り出し、その中からさらに書類を取り出してマスターに手渡した。
「サポーターという制度を知っているか?」
「あ、僕知ってます! 荷物持ちや買い出しをする人ですよね!」
「おお、ずいぶんと昔の制度なのによく知ってたな」
「えへへ、その昔の人から教えてもらったので」
マスターは「結構結構。勤勉な冒険者は長生きできるぞ」と僕の頭を撫でてくれた。
ミュトスさんは素直に感心したように息をこぼしていた。
なんだか父さんのことを褒められたみたいでちょっとうれしい。
「このサポーターはな、実は冒険者でなくてもなれるんだ」
「え、そうなんですか?」
「本当だぞ」
そう言って、マスターは資料を見せてくれた。
確かにそこに記載された文面には、冒険者でなければいけないという一文は明記されていない。
明記されていないけど、いいのかな?
「不文律だったりしません?」
「ならこの場で追加してやろうか? 冒険者でなくてもいいとな」
「いえ、大丈夫です」
冒険者でなくてもサポーターにはなれるらしい。
しばらくおとがいに指をあてて考え込んでいたミュトスさんが、ハッとしたように口を開く。
「つまり私がロギアをサポーターに指名すれば」
「一緒に依頼を受けられるってわけだ」
「マスター。私は今、初めてあなたに敬意を抱いている」
「おいおい……普段からもうちょい抱いてくれ」
ぎゅんとミュトスさんの首から上が回転して、こちらを向く。既に至近距離なのに一歩一歩とにじり寄ってくる。怖い。
相対速度を0に保って後ずさる。すぐに背後に壁が現れ、退路が立たれる。
――ドン。
ひぃぃっ。
なになになに。
なぜか顔の真横の壁にミュトスさんが平手したんだけど。どういう状況?
「ロギア、一緒にパーティを組もう」
怖かった。
僕は首を縦に振るしかできなかった。
冒険者は自由とはいったい。
うごごごご。




