ここちの嫉妬
人の心は、複雑です。友達を想う気持ちだって。
思えば、お彼岸とかにさえっちをお参りするのは初めてだ。四十九日にここに納骨して以来、その時高校のみんならとお参りしたのを最後に、人が大勢来るお盆とか、秋のお彼岸とかは避けて、いつもさえっちと2人きりになれる時だけのお参りをしていた。今回だって、お彼岸が過ぎてからそっと来るつもりだったんだ。それは、中3の楽しかった頃の思い出を大切にしたい気持ちからだった。入間君は、それを何となく察してくれているのか、いつもそっと見守ってくれる。今回も、その頃の友達だけにしてくれて、お彼岸の最終日の夕方というのもあって、他のお参りの人もいなかった。お寺の奥の墓地の、その1番奥の方にあるお墓まで百メートル程の道のり、私を含めてみんな無言だった。思えば、修学旅行の京都でお寺巡りした時、まりねとくっちょは別の班だったが、そこにはさえっちとずるべえがいた。賑やかな2人がいないんだなあとしみじみ感じていた。普通なら「まだ?」の一言が出て来てもよさそうなのだが、時々振り向くと、3人とも黙々と付いて来た。水桶は、私からここち、まりね、くっちょと、前の友達が疲れない様に、30メートルおきくらいに、後ろへ後ろへと黙って引き継がれていた様だ。まりねからくっちょに渡されて間もなく着いた。
「ここだよ。」 そこは凄く綺麗にしてあった。お彼岸で、坂下君らがお参りしたからだろうが、それにしてもすっきり綺麗にしてあった。他所のお墓にはあるお供え物が、そこには何一つなかった。私達のお参りの為のセッティング?
「坂下家の墓。」 60代という比較的若くして亡くなられた坂下君の父方のお爺さんとお婆さんが元から入っておられるというそのお墓の横に、❝佐伯美野里❞の文字が、いつの間にか付け加えられていた。
「さえっち。」 小さな声で❝さ❞から始まったその呼びかけは、❝ち❞に向かって尻上がりに一気にボリュームを上げる感じで、それに驚いて振り返った私の目に映ったのは、その直前までと打って変わって泣き崩れるここちの姿だった。
「分かってたけど、こうやって目の当たりにすると、やっぱりそうだったんだって・・」 それだけ云って、まりねも両手で顔を覆った。
「さえっちが死んだなんて、未だに信じられないし、信じたくないよ。」 くっちょは、ただ茫然とその石に刻まれた文字を見ていた。そんな3人に私は、何も云えずにいた。ただ、酷く泣き崩れるここちに、何か違和感を感じた。でも、何だろう? 気にはなったが、とりあえず水桶と引き換えにここちから受け取っていたお花を、供え始めた。すると、くっちょはそれを手伝ってくれたが、ここちとまりねは泣いたままだった。
「さえっち、今日はね、ここちとまりねとくっちょが来てくれたんだよ。」 一通りのお花を飾って、柄杓でお墓に水をかけてから、手を合わせて話しかけた。すると、気のせいか、さえっちがすぐそばで微笑んでくれている気がした。そして、すぐにその場をくっちょに譲った。くっちょも又、柄杓で水をかけてから、さえっちに話しかけていた。
「半月前に聞いて、びっくりしたよ。いつか又笑顔で会えると思ってたのにな。でも、しょうがないか、命かける人に出会えて、それを貫いて、やっぱさえっちは凄いよ。」 先に泣き止んでいたまりねに柄杓が渡った。その水をかけながら、
「最後に励ましに来てくれて、ありがとう。あの後ニュース見て、不思議な蘇生術を使って亡くなった女子高生が、さえっちに違いないと分かったんだ。でも、心の中では、それは別の誰かで、さえっちはどこかで生きてると思いたかった。けど、間もなくしてここちから連絡もらって、ここちも柏谷君も同じこと感じてたこと聞いて、さえっちの力に違いないことを確信してしまった。でもね、何でかな、いつも傍でさえっちが見守ってくれてる気がして、又会える気がしたんだ。ね、そうでしょ?」 それを横で聞いていたここちが、大きな泣き声を上げていた。ずっと、我慢してたんだね。必死で悲しみを抑えて、笑顔や優しさを振りまいていたんだね、この10か月間。うん?あのニュースの時点では、さえっちの名前は公表されてなかったんだっけ?じゃあ、ほんの少し前まで、みんな半信半疑だったってことか。さえっちの死を目の当たりにした私とは、みんな温度差あるのかな?そんな疑問を感じてる中、まりねから柄杓を受け取ったここちが、泣きじゃくりながら水をかけていた。そして、桶に残った水を万遍なくかけ終えると、手を合わせて、嗚咽を抑えて語り始めた。
「さえっち、私ね、さえっちを守れなかった弱い自分、さえっちを怖がった情けない自分が憎くて、何度も殺してやりたい気持ちになったんだよ。けどね、さえっちがくれたエールや、あかねっちや美菜ちゃんに励まされたりして、強くなることにしたんだ。あの二人とは高校行ってから切磋琢磨してさ、強くなったんだよ。きっと、あの頃のあいつらには負けないくらい強くなったの。何故だか分かる?今度こそ、さえっちを守るんだって、そればかり想って、毎日必死で練習したんだよ。なのに、どうして私には何も云ってくれないうちに、何もリベンジさせてくれないうちに死んじゃったの?」
「ここちは、さえっちとラブラブだったからなあ。」 ここちの言葉が少し途切れた時、くっちょが私とまりねだけに聞こえるくらいの小声で呟いた。ここちとくっちょは、中2の時も同じクラスだったみたいだ。私が来る前のこの2人は、そんなに仲良かったのか?
「強くなった私を見て欲しい。又あの頃みたいに笑顔のさえっちと笑ったり、抱き合ったり、キスしたり、そんな願望と裏腹にさえっちは、私から遠ざかってく気がした。元の部屋に居なくなって、引っ越してどこかに行ったと思ったよ。変装までして、そんなにもう私達と会いたくなかったの?もう、怖がってもいないよ。さえっちがどんな不思議な力持ってても、私はさえっちを信じてるからね。だって、友達だから。本当に大切な友達だから。・・・・・。あのね、私、今まで生きて来た中で、さえっちと一緒だった時に全部の半分くらいは笑ってた気がする。まじでめっちゃ楽しかったよ。」 それだけ云った後、ここちは無言で目を閉じてしばらく手を合わせていた。私にははっきり云わなかったけど、親友を取られた悔しさを抑えてるんだなって、複雑な想いを感じずにはいられなかった。
ご愛読、ありがとうございました。<(_ _)> 今回は、執筆が間に合わず、2時間遅刻の更新になってしまいました。後2,3話で完結の予定ですが、次回からは、土曜日の19時又は20時の更新の予定です。又、宜しくお願い致します。<(_ _)>




