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解放感

 今回は、ちょっとこっぱずかしい内容になってしまいました。

 その夜は、私の勧めで、ここちが私の家に泊まって行くことになった。

 「ここち、久しぶりねえ。」 ママが何故か喜んでいた。

 「すみません、急に厚かましくお邪魔して。」 ここちが、本当に申し訳なさそうに云うと、

 「ここち、大人になったのね。まあ、そんな遠慮しないで、昔みたいにくつろいでいってね。」 そう、あの頃のここちは、ここぞという時こそ気の利いたことはしたけど、普段は金魚のフンみたいにくっついて来てただけの中坊だったからね。

 「そうだよ。今日は私が誘ったんだから、お客さん気分でいてくれたらいいよ。」 それに、パパは出張で留守だし、5つ年上のお姉ちゃんはパパには内緒で彼氏と婚前旅行行ってるしで、家には私達の友情に超好意的なママしかいないのだ。そんな訳で、夕食は3人で昔話に花を咲かせながら和やかに頂き、後はデリカシーのあるママを置いて、2人っきりの世界。って、もしかして、ここちと2人きりになるのは、初めてかも?

 私の部屋に戻って、ここちのリクエストに応えてピアノ弾いたり、照れるここちをよそに成長した彼女のことを褒めちぎっていると、ママからお風呂が沸いた報せがラインで来た。

 「ここち、お風呂入る?」 下着とかの替えもないし、断ると思ったけど、ノリで訊いてみた。

 「さえっちが着ていたバスローブ、貸してくれるなら入らせてもらおうかな。」 意外な返事にびっくりした。さえっちが云ったんだろうか? 中3の修学旅行行く直前に、さえっちとずるべえを加えた4人で、東京にいる時の家で自由時間の計画立てたり、はしゃいだりした日、ここちとずるべえが先に2人で帰った後、さえっちが泊まって行ったことがあった。その時、まだ未使用のバスローブがあったので、それをさえっちに貸して、一緒にお風呂入ることにしたんだ。小学校の修学旅行では丁度生理になってお風呂入らなかったのもあって、「みんなの前で裸になるの恥ずかしい。」と云った私に、「慣れておこう。」というさえっちの言葉に後押しされて、勇気出して、顔真っ赤にしてだ。その時、引っ込み思案で大人しいというさえっちの印象が180度変わったんだっけな。その時、初めてキスされたり、抱き合って寝たりで、すっかり打ち解けて仲良くなったんだ。と同時に、❝さえっち❞という命名にも納得したもんだ。その後も数回、お互いの家に泊まり合っていたんだけど、私んちに泊まる時は必ずさえっちは、そのバスローブを使い、それはいつしかさえっち専用になり、結局それが形見みたいになって未だに持っていた。何故か一瞬それをとぼけようかと思ったけど、隠すのも何か変だし、

 「あるよ。でも、着るものそれだけしかないよ。」 その瞬間、ここちはにやりと笑った。

 「さえっちもそれだけで、一緒に寝たんでしょ。」 そうなんだ。それがなきゃ、ここちにはそのままか、下着姿になって寝てもらうつもりだったのかと、我ながら気が利かないなと思った半面、実はこういう展開を期待していた自分に気付いた。私のベッドはゆったり眠れる様にと、ダブルベッドサイズなのだが、他に寝床も布団もない。それを深く考えずに、久しぶりに語り明かしたいという表向きの気持ちで誘った訳だが、ここちは私の誘いに1度は遠慮して見せたが、それは社交辞令だったんだろう。内心凄く嬉しそうだった。

 「ここち、先に入ってくれたら・・」

 「一緒に入ろ。」 私の言葉を遮る様に言い返して来たその言葉に、凄く驚いたし、意外だった。何故なら、京都の旅館での入浴時間も、初日は1人だけ男子との入れ替えすれすれに入ってさっと上がって来たみたいだし、2日目は一緒に入ったけど、タオルで必死で隠してたからだ。後でずるべえに聞いたら、ここちは裸見られることに凄く恥ずかしがりで、小学校の修学旅行では恥ずかしがって1人だけ入らなかったら、夜部屋の人達に❝臭い❞と云われて、凄く傷付いたらしい。それで、中学ではみんながほとんど上がった後に入ったけど、男子が入って来る間一髪で焦ったから仕方なく、2日目はみんなと入ったそうだ。そう云えば、プールの授業の時はいつも水着着て来て、終わったらタオルで完全防備して着替えてたなあ。そんな印象だったから、これは強烈な爆弾発言だったんだ。

 「まじで?」 思わず、ここちの顔をまじまじ見てしまった。

 「駄目なら無理とは云わないけど、いや?」 その懇願する様な表情が、まるでさえっちみたいだったから、どきっとした。顔が似てはないのに、その表情だけは妙に似ていたのだ。

 「ううん、いやじゃないよ。ただ、恥ずかしがり屋のここちから云われたから、ちょっとびっくりしただけ。うちのお風呂は広めだから、全然平気。」

 そんな訳で、一緒にお風呂場に行った。まるで、さえっちと初めて入った時みたいにどきどきした。そもそも友達と2人きりでお風呂入るのは、さえっちと入ったきりで、他の人とはなかったからだ。気のせいか、ここちはあの日のさえっちみたいに何かわくわくしている様に見えた。

 「私、胸小さいんだ。」と云うここちの胸は、さえっちと同じ様に小さ目でも形のいい胸だ。

 「Bはあるね。」 私も自分のブラを取りながら云うと、ここちは少し照れて嬉しそうに頷いた。

 「まいっち、大きくなったね。前は同じくらいと思ったのに、Dはあるでしょ。」って、ここちは自分は隠しといて、人のはしっかり見てたな。そんな過去のここちを思い浮かべてる前で、さっさと全部脱いでいる彼女がいるのが不思議だった。もう恥ずかしくないんだ。そう思いながら私も準備万端整え、待ってくれていた彼女を先導する様に、浴室に入った。

 「臭い?」 入って扉を閉めたら、すぐにここちが訊いて来た。

 「そんなことないよ。」 正直、云われて意識すると無臭とまでは云えないので、つい近寄って嗅いでしまった。

 「もう、まいっちって、子犬みたいにくんくんしないで。」って、

 「くんくんまではしてないぞ。」 ここちって、こういうところは神経質なんだと思いながら、湯船の覆っていた蓋を開けた。すると、それを待ってましたとばかり、いつの間に手に持ったのか、桶で湯船のお湯を掬うとさっとかがんで自分の体にかけた。

 「よし、これで臭わないだろ。」と云いながら、今度はさっさとシャワーが出る様にして右手にノズルを握り、栓を捻って湯かげんを確かめると、左手に石鹸を持って、猛然と体を洗い始めた。実は、うちのお風呂は広めな分洗い場も2人分あって、ここちはそれをさっと見極めて行動したみたいだ。

 「ここち、椅子に座った方が楽だよ。」 手近な左側で洗っている彼女の右側に回る途中、かがんで椅子を差し出した時に、右のお尻の上の方にほくろがあることに気付いた。

 「ありがとう。ごめんね、厚かましく先に洗い始めちゃって。」 渡した椅子にやっと腰を落ち着けながらも、手はせわしく動かしている。

 「よかった。ここちに可愛いとこ残ってて。」 もう一つある椅子に腰下しながらの言葉に、

 「ん?」 ここちが急に手を止めて、こっちを向いた。

 「すっかり大人になって、取り残された気がしたから。」 私も洗い始めた。

 「それは違うぞ。取り残された気がしたのは私の方。必死だったんだ。神経質な自分を脱皮したくて、やっとそんな私の手を引いてくれる友達に出会えたと思ったら、こんなきらきらの恋敵が表れてさ。」 今度は、ゆっくり洗い始めてた。

 「きらきらの恋敵って、もしかして私のこと?」 やっぱ、あれは正夢だったのか?

 「でもさ、まいっちも大好き!背中向けて。洗ってあげる。」 それに素直に応じると、そこからはもう洗いっこして、すっかり中学時代に戻ってはしゃいだ。そして、頭の先から足の先までしっかり洗い終わると、手繋いで湯船に入った。

 「ここち、彼氏いないの?」 かぐや姫みたい、どう見ても言い寄る男は一杯いそうな美少女。さえっちの高校での親友の高田琴美に出会うまでは、ここちほど可愛い子は他に身の回りにはいなかったのだ。

 「いないよ。そんなの。」 横並びに体育座りみたいな態勢で、顔見合わせていた。

 「いたことは・・・」

 「ないよ。」

 「全部振ったの?」 その問いに即頷き、

 「商業科で男子少ないのもあるけど、何か誰も彼も今一でさ。」 ええ!それまじでかぐや姫じゃないかと思いつつ、

 「今日来たメンバーでも?」

 「うーん、難しいね。」 確かに、人のこと云えないけど、半分は男子いたのに、麗香達の暴走を誰も止められなかったのだから、いい印象はないよね。

 「でも、みんな、それなりに成長してたんじゃない?」

 「まあねえ。でも、ときめきはなかったな。」

 「じゃあ、ここちも女子同士がいいの?」って、我ながら何てこと訊いてるんだ。

 「という訳じゃないけど、男子って、今一弱くて頼りないんだよね。」

 「そうなのかあ。」

 「そういうまいっちはどうなん?」

 「いい人いたけど、みんな彼女いたね。」 だから、さえっちのこと時々恋しくなるんだ。

 「だよね。入間さんくらいなら、あーやって出来ちゃうんだね。」 そう、男子と付き合うってことは、子供出来て親になる覚悟なければならないんだよね。それよりも、私はピアニストとしてもっと前に歩きたいんだ。

 「その点、女子同士って、いいよね。」

 「うん、まいっちの体柔らかくて気持ちいい。今なら、さえっちの気持ち分かる。」 同じこと考えていた。ここちの体に、さえっちと同じ肌触りを感じた気がした。その一瞬、2人の気持ちが重なったんだ。お湯の熱さなのか、ときめきのせいか、お互い真っ赤な顔してたと思う。ここちの赤くなった顔が間近にあった。3年半ぶりのキス。

 そんなどきどきの想いを抱えたまま、ベッドに入った。

 「ここちね、さえっちと同じところにほくろあるから、びっくりしちゃった。」 2人とも布団に入って、向かい合ってた。

 「同じとこって、まさかお尻じゃないよね。」

 「右のお尻の上の方に。」

 「さえっちにあるの知ってたけど、私にもあるの?」

 「え、自分のは知らなかったの?」

 「だって、自分のお尻なんて見ないもん。」 そりゃそうだ。

 「じゃあ、見せてあげようか。」と、手鏡を取りに起き上がろうとした私を引き止め、

 「いいよ、そんなの恥ずかしいから。それよりさあ、まいっちはさえっちとどんなことしてたの?」 そう云われる前から、昔親友だった頃みたいにさえっちと寝ていた感触を思い出していた。

 「じゃあ、同じことしていい?」 私だって、琴美に取られた悔しさ必死で我慢してたんだ。だから、今はもう我慢しなくていいよね、さえっち。

 間近にあるここちの顔が、湯船の中みたいに紅潮して行くのが分かった。時が止まった中で、私達は抱き合い、バスローブをはだけたここちの肌に、かつての親友の温もりを感じた。そして、互いの唇が近づく・・・・・

 「大好きだよ、舞ちゃん。」

 「え?」

 「心地いいよ。」

 「ここちも、大好きだよ。」

 何はともあれ、ご愛読ありがとうございました。<(_ _)> ところで、最後のセリフ。わざと、怪しくしてみました。(汗)ということで、次回はいよいよ最終話になります。!(^^)!

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