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七話 綺麗なお姉さんがデキる子とは限らない!

グ~。グリュルルル……。


「あー、腹減ったぁ……」


 味のないパンをかじりながら、俺はぼーっと窓の外を眺める。

 あのあと何度か魔野菜どもを喰おうかどうか極限まで悩んだが、俺にはそんな勇気ありませんでした……。


「せっかく金があんのになぁ……。やっぱ外に出られないとなーんも意味が――」


バフッ!


「ぶへっ!?」

「きゃっ!」


 いきなり俺の視界を遮った白い柔らかい縞々模様の何か。

 いや、遮っただけじゃなくて俺の顔にもろにヒットし、後頭部から床にすっ転ぶ。


「竜くん、ごめん! まさかそんなぼーっとしながら窓の外を眺めてるなんて思いもしなくて……!」


 顔の上から真理亜の声が聞こえてくる……。

 じゃあこの白い縞々模様の何かとは――。


「もごー! もごーもごー!」


「あっ……う……ん。竜くん、ちょっと待っ……ん! しゃ、喋らない……で……!」


 慌てて俺の顔から立ち上がった真理亜。

 ごめん。今俺、わざとやったんだ。

 こういうシチュエーションだと、何故かやらないといけない気がして……。


「……ふぅ。危ない危ない。お姉ちゃん、危うくかわいい弟くんに手籠めにされるところでした」


「真理姉ぇのほうが上手だね! ごめん、俺が悪かったよ!」


 姉の顔を真っ赤にさせるつもりが、俺が真っ赤になっちゃったよ!

 戦いを挑んだ俺が馬鹿でしたー!


「……ったく、何の用だよ真理姉ぇ」


「あら、竜くんが暇してると思って遊びにきてあげたのに」


 口を尖らせ上目遣いで俺の目を見る真理亜。

 ……だが俺は知っている。

 彼女がこんな顔をするときは、何か俺にお願いがあるときだ。


「……はぁ。で? どんな困り事? 俺に何をして欲しいの?」


 ジト目を向けたままベッドに腰掛ける。

 どうせロクでもないお願いなのは目に見えているのだが。


「ふふ、さっすが竜くん。じゃあさっそく作戦会議を始めましょう」


ザザー。シュッシュッ。

カシャン。カシャン。


「……何故部屋中のカーテンと扉の鍵を閉める」


「決まっているじゃない。他の人に聞かれたらまずいからよ」


「……外の兵士は?」


「『これから夕方まで私が見張りを代わる』って言って交代してもらったわ」


「どうして勇者が見張りの交代とかできるんだよ! ていうかあの兵士、俺達の事情とか知ってんだろうが!」


「ふふーん。知りたい? 変装魔法ディスガイズっていうのがあるの。それでさっき、お城の兵士に変装して――」


「はいはい! もういいです! もう何でもありなの、大体分かってきましたから!」


 途中からどうでも良くなってきた俺は、そのままベッドにごろん。

 思いっきりリラックスした格好で真理亜の『作戦会議』とやらの内容を聞くことにしました。





「ふーん……。つまり、真理姉ぇの『仲間探し』を手伝え、と」


 作戦会議とか言うから、どんな内容かと思えば……。

 要は王様から指示された勇者の仲間が見つからなくて困っているという相談だ。


「簡単に言うけどね、竜くん……。これがまったく、これっぽっちも、ぜーんぜん見つからなくてね。お姉ちゃん、もう疲れちゃった」


「まだ四日くらいしか経ってねぇじゃねぇか! この異世界に来てから!」


 ……いや、違う。

 真理亜はこう見えて、非常に飽きっぽいのだ。

 生徒会長という建前上、生徒達からは憧れの眼差しを常に受けているが、それは幻想でしかない。

 永瀬真理亜という一見完璧に見える彼女は、そう――。

 ――言い換えればただの『いい加減な女子高生』だ。


「竜くん、代わりに探してきてくれない?」


「いやお前も手伝えよ! ていうかお前の仕事だろそれ!」


 始まった……。

 面倒臭いことは全て俺に押し付けようとする駄目姉貴。

 どうして彼女がこの世界の勇者なんかになっちまったんだ……!


「仕様がねぇなぁ……。で? 特徴とか、どこの街にいるとか、その辺の情報は分かってるんだろうな」


「うん。『聖戦士ミレイ』、『神官アーレウス』、『呪術師ヴュセル』の三人。全員この街にいるみたい」


「簡単じゃねぇかよ探すの! 名前も場所も分かってるんじゃん! ていうかこの街にいんじゃん!」


 これで探せなかったら、確かに王様はブチ切れするだろうな……。


「そうは言うけどね、竜くん。この街、すっごい広いんだから。人を探すって言っても警察がいるわけじゃないし、インターネットで住所を探すとかできないし……」


「……冒険者の施設ギルドとかないの? この世界」


「え? …………あっ」


 あるんだ……。

 この反応は忘れてたっぽい反応だ……。


「り、竜くん天才……!?」


「……真理姉ぇが馬鹿なんだと思うよ」


「ああん、ひどい! 竜くんがお姉ちゃんをいじめる!」


 身をくねらせ、何故か嬉しそうにそうはしゃぐ真理亜。

 俺は立ち上がり、破れかけたカーテンを開ける。


「ギルドに行って、その三人が登録されていないか調べよう。勇者の仲間に相応しい人物として名前を上げられているくらいだから、かなり有名な冒険者なんじゃないかな」


「竜くんが……竜くんが……頼もしく見える……!」


「やかましい。ほれ、行くぞ」


「ああん、待って! 面倒臭いけど、仕方ないから私も行く!」


「当たり前だっ!!」



 ――こうして姉と二人でギルドに向かうことになりました。




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