フラグだけが増えて行く
走っていった先。
シンシアが凝視しているその先には、窓越しにある人物がいた。
「ユーグさん?」
しかもいつも一人で本を読んでいたりぼんやりしていそうな、ボッチ……なイメージの合ったユーグさんが誰かと話しているようだ。
髪の色は緑色であるらしい。
こちらに背を向けているので、顔その物は見えない。
さらさらとした綺麗な色は、木漏れ日を想起させる色だ。
そう思いつつつも私はシンシアを追いかける足をゆるめない。
やがて更に走っていくと、思った以上に大きな音だったようだ。
そのユーグと話していた人物がこちらを振り向く。
その瞳はあかる茶色をしている。
だが目つきが少し悪い……というか、何故か私は睨まれた。
何故初対面でそんな風に敵意丸出しにされねばならないのか。
解せない、そう思っているとその人物の視線がレオンへと向き、更に憎悪する様に睨みつける。
どうしてと思ってレオンの方を見ると、レオンは俯いている。
何処となく意気消沈しているように見える。
そこでようやく気付いたらしいユーグがにっこりと私に微笑んで、図書館の窓が開けられた。
「ベル、どうしたんだい?」
「ユーグさん、実はそこにいるシンシアとおにごっこの最中なんです」
「……あ、本当だ。シンシア、久しぶり」
どうやら顔見知りらしい。
だがシンシアは凍りついたように固まって、そして、
「ど、どうしてここに貴方が……」
「ん? ベルに会いに。ここにいるメアも知っているよ?」
「……私は聞いておりません」
「そうなの? メア」
そこで緑色の髪をした、ちょっと目つきの悪いメアと呼ばれた少年、青色の制服を着ているのでおそらくは普通の人に聞いているユーグ。
彼は沈黙してから、
「言い忘れていました。なにしろ突然の事でしたので」
「言い忘れていたって……ああもう、どうしてこう……とっ」
そこでユーグに気を取られているらしいシンシアに近づいて、肩を触れようとしたが逃げられてしまった。
出来るだけ気配を消しながら足音をたてないようにして近づいたつもりだけれど、やはりこの美少女な私では目立ってしまったようだ。
キリッ、としてから私は、
「あのユーグという人に何かあるんですか?」
「……それも分からないし知らないの? でもその話はあの人達に自力で聞いてね。ちょっと私の口から言えない様な人達だし」
「……うーみゅ、気になるフラグばっかり増えていくぅ~。というかこの青い石って、“電池”みたいなものじゃないの?」
「? “電池”」
「そう、エネルギーを発生させる装置」
「……確かに魔力の塊であり、特定の条件下でその力を解放する道具ではあるけれど、“電池”? そんなもの、今まで聞いた事はないわ」
「そうなの?」
「何処の方言かは後で調べてみるけれど、やっぱり……貴方、異常みたい」
異常だと言いながら私の攻撃をかわし、くすくすと楽しそうに笑う、余裕のあるシンシア。
一方私は両手をパンチするようにシンシアに次々と繰り出すけれど、それを全部避けられてしまう。
魔法陣を展開しているけれど時間の減速はそれほど効果がないようだ。
いっそのことこのまま魔法陣を展開して拘束できないか、そう思って脳内の知識に検索をかける。
魔法を知っていたとしても実際にどう使うのかを決めなければ、上手く魔法は使えない。
それは私の想像力や、今まで読んできたファンタジーものの小説や漫画なども含めた私を形作る集合体の知識に依存する。
もっとそういったものを読んで学んでおけばよかった。
特にチートを貰ったとしてもどう使うかは私次第な辺りが面倒。
かといって作業ゲームほどつまらない物はないが。
そこで、かちっと頭の中で何かが噛み合う音がして、私はある魔法に辿り着く。
「我思うが故に我あり 祖を起点として扉を開け! “水に眠る悪夢”」
呟くと同時に、私の足元に水色の輝く文字が現れたのだった。




