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嘘つき魔王  作者: 氷純
魔王と世界 魔王は世界 魔王の世界
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六十二話 反発

「今になって考えてみれば至極当然の流れよね」


 大地に寝転がりながら自分の甘ちゃん振りを自嘲する。

 騎士団にとっての私は最後まで駆け引きの道具でしかなかったのだ。

 私を仲間にすると持ち掛けて魔物達の様子を窺った。

 魔王が生きる道を支持するか、甘言に惑わされず計画通りに私を殺すか。

 人に対しての忠誠心を見た。あの提案は検査。

 街は魔物に対抗する為、周囲に壁を建てていた。それだけ恐れている。

 いくら魔物が「今日から仲間です。てへっ」とか言っても信用されまい。


「ふふふ……痛っ」


 黄金山羊が「てへっ」と口走る光景を想像したら、牛頭に刺されたお腹が痛んだ。


「はぁ……。」


 溜め息混じりに体を起こす。

 牛頭が私の首を狙って枝をしならせる。


「どっか行け、裏切り者」


 正確に枝だけを火で包み、本体を魔物の群に吹き飛ばす。

 同時に水晶の壁が壊れた。

 大量の水を生み出した私は、切りかかってきた騎士と傭兵をまとめて騎士団の陣営に叩き込む。


「お節介神め」


 なにが『人の痛みが分かるか』だ。

 なにが『思い出させてやろう』だ!

 私はこんなモノ思い出したくもなかったのに!!


「どうだ神様! 素晴らしい見せ物でしょ!? あんたが用意した私の頼れる味方はみんな裏ぎったよ!!」


 私は何を当てにした。

 少なくとも魔物は私を傷付けない?

 なに甘えてるのよ。

 なにが「信じるよ」だ。騙されてるとも知らずに解決した気になって。

 挙げ句の果てに騎士団に対する猜疑心を牛頭の優しさだと勘違いする。

 私に味方なんか現れるはずがないのに!

 この世の者はすべからく、今敵か、これから敵か、自分だけ。

 とっくの昔に解ってたはず。

 一人で生きて、一人で為して、そして死ぬ。その覚悟は死ぬ前に誇りにしたはずだ。


「見てるだけなら居なくて良いよ。けど、お前が手を出したらこの様だ! どうして私を苦しめる。間違っているとでも言いたいの? 理解した気になってんなよ、自惚れ神!」


 空に吐き捨てる。

 高尚な信仰心を振りかざす騎士共から怒りの声が挙がる。

 吠えてろ。私はお前等の上司に文句言ってんのよ。


「呪ってやる。祟ってやる! この身が朽ちて果てようが地の底から怨嗟の声を届けてやるから!!」


 全智無能の神様め。お綺麗なモノしか写さないその瞳に泥水差してよく見てろ!

 私は血の味がする唾を飲み込んで周囲の敵を睨みつける。

 騎士や魔物と目が合う度に殺意が向けられてくる。

 私の全身を襲っていた痛みは胸の内に集まり、敵の殺意に反応しては暴れ狂う。

 それでも、私の決意は揺らがない。


「……私はあんたが考えるほど素直じゃないのよ」


 ドブ腐れ外道の神様め。

 昔からこの視線を浴びてきたんだ。痛みが強まったからって膝を屈するものか。

 誰も助けてくれないから一人で戦う道を選んだのに、敵は増える一方で。

 立ち向かう勇気を奮い起こすために自分を裏切らないと誓った。

 だから、これだけは曲げない。

 私は一人だろうと満足して死んでやる。


「かかってきなよ! 裏切り者ども!!」


 響く声は雨に濡れ、泥にまみれて消えてった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 始めに動いたのは騎士団だった。

 大きな盾を全面に押し出して、私を魔物の群に追いやるように進んでくる。

 私はお腹から流れ出す血を手で押さえる。内臓は大丈夫だろうか。

 体を起こせるのだから重要な器官は無事だと思うけど、このまま戦ったなら死ぬかも。

 まずは私自身が安静に出来る戦い方に持ち込むか。


「殺し屋黒子、だいだらぼっち」


 三メートルの黒い人型を生み出す。

 巨人の肩に立って戦場を見渡そうとした私へ空から火球が降り注いだ。

 だいだらぼっちの右手を傘にして防ぎ切った私は空を見上げる。


「魔王様の上を飛ぶなんて不届きね」


 黄金山羊を含む空の魔物が頭上を旋回している。火球は連中の仕業だろう。

 鬱陶しいけど、防げるレベルだから後回しね。

 私は服の袖を破いて傷を巻き込んできつく結ぶ。包帯の代わりだ。

 出血は止まらなくとも今より少なくなればいい。

 皮肉にも、この数ヶ月で痛みに耐性が付いている。


「ベリンダは何処かなぁ?」


 見っけ。騎士団の中央やや城門よりにいる。

 周りに杖を持った輩が居るところから察するに、魔法使いの集団か。

 遠距離攻撃が可能なあいつ等から潰す。

 即座にだいだらぼっちを操りベリンダの下に向かう。

 私が動いたのと同時にリンド・クライツェンが何か指示したのが見えた。

 それに答えたらしいベリンダが魔法陣を展開し始めた。


「……大きすぎでしょ」


 ベリンダの掌握範囲は百メートルと見積もっていたけど、倍近くに見える。

 半径二百メートルの魔法陣は上に乗る騎士のせいで全体が分からない。

 隠蔽の効果式が一部見えている事から攻撃用だと判断した私は足下の騎士をだいだらぼっちの腕で掬い上げる。

 だいだらぼっちを構成する水を制御して掬い上げた騎士を左腕全体に閉じ込める。


「どんな魔法か知らないけど、この左腕で防いでみせる!」


 これ見よがしにだいだらぼっちの左腕を掲げる。

 正義の味方は人質を取られるのが大好きでしょ?

 特にベリンダには効果抜群のはず。

 案の定、彼女が描いた魔法陣への魔力供給が止まった隙に私は距離を詰める。

 途中、魔法使い達が生み出した鉄の壁に阻まれ、左腕に捕らえている騎士達を弾にして瓦礫ガトリングを繰り出す。

 やかましい悲鳴を上げて鉄の壁に打ち込まれる仲間に騎士が息を飲んだ。

 鎧甲で固めてるのだから死にやしない。私も遠慮なくやれる。


「この外道!」


 褒め言葉が空から降ってきて上を向けば男が二本の槍を突き出してくるのが目に入った。

 私はだいだらぼっちの中に避難する。水を操って逆の肩から顔を出した私に二本槍は右の槍を薙ぐ。

 私は再びだいだらぼっちの中に隠れ、だいだらぼっちの頭の上に立ち上がる。


「怪我人を相手に酷いね。トンボさん?」


 水晶の壁を壊そうとしてたから私が水で流したはずだけど、よく無事だったな。

 トンボは空中に土の魔力で足場を作って私に相対した。

 魔法の鏡で何度かこいつの実力は見ている。

 私はトンボが両手に握っている槍の刃に注意を向ける。

 平らな刀身に菱形の魔法陣が刻んであった。

 やっぱり、見た事ない魔法陣ね。私の球形魔法陣と同じくオリジナルか。

 あるいは、一子相伝的な何か。


「人の得物を気持ち悪い目で見んな」


 心底嫌そうに言って、トンボは槍を構えた。


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