四十七話 クルト
村の入り口にカーリンの姿を見つけた。隣には青年がいる。
順当に考えてクルトだろう。すっかり大きくなっちゃって、もはや可愛さの欠片もない。
遠目に見る限り揉めているようだ。
「カーリン、久しぶり!」
私は大げさに手を振ってカーリン達に駆け寄る。
カーリンは私の姿に焦っていたけど、配慮してあげる謂われはない。
嫌がらせを兼ねて満面の笑顔を浮かべる。
突き飛ばされた時の痛み、忘れてないよ。
背を向けていたクルト青年は近づいて来た私にようやく気付き一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに私の肩を掴んできた。
クルトは力の加減を忘れているらしく、掴まれた肩が凄く痛い。
「……星になぁれ」
魔法陣を展開しクルトを空に高く舞い上げる。
私はか弱いのだ。大事に扱え。
カーリンが空に浮かぶクルトを見上げてあたふたしている。いつもの冷静で冷徹なイメージが崩壊している。
「マオウ! クルトを下ろしなさい!!」
耳元で怒鳴らないでよ。
私は魔法を操ってゆっくりとクルトを地面に下ろす。
「落ち着いた?」
取り乱していたのはきっと焼け残った村を見たからでしょうけど、動転し過ぎよ。
「村ならこの通り、今は人っ子一人いないよ。神殿も原形を止めてない」
ここに来るまで家を回って確認したから間違いない。
村長も今は森に入っている頃だ。
「君は誰だ? 村に何があった?」
記憶がないのか、単純に覚えてないのか。
カーリンに丸投げしたい誘惑に駆られつつ私は肩を竦めた。
「私はカーリンの知り合いよ」
村に何があったかは見ての通り、と私は旅行ガイドよろしく村を示す。
右手をご覧下さい。お客様、生命線が短くていらっしゃる。十六年ほどの寿命ですね。
クルト青年は焼け残った家を見て回る事にしたらしい。ヨロヨロと歩き出した。
カーリンが声をかけようとして、言葉を見つけられずに押し黙った。
「……あの人ってクルトなんだね?」
私はそんなカーリンの耳元で囁く。
カーリンの肩が跳ねる。
その様子に私の心の片隅で頭をもたげた意地悪な小悪魔にご退場願いつつ、埃を被って眠り転けている保護欲旺盛な天使を叩き起こす。
起きた天使の翼は真っ黒だった。きっと埃のせいね。
「クルトの事を詮索するつもりはないけど、早く手を打たないと逃げた村人を追っていきそうだよ」
話の分かる天使なお姉さんを装ってカーリンの背を軽く押す。
よくよく人の背中を押す日だ。
カーリンは私を疑うように一度見て、クルトが入った家へと走って行った。
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「はい、お茶だよ」
村長の家でカーリン達にお茶を出す。
カーリンはクルトの袖を掴んでいる。
クルトは一通り部屋を見回して不在を確かめると肩を落とした。
「村を捨てるために村長と私で一芝居打ったのよ」
村長との契約を半分だけ教えて村で私がした事と一連の流れを告げる。
重傷者を出したのは秘密にした。
私が村人に怪我をさせたと聞いたクルトが殴りかかってきそうだもの。
村長からクルトの人柄は聞いている。
カーリンが村で暮らせるように村人を説得した唯一の人物。
「村長が本当にそれを望んだのか?」
「信じなくても良いよ。ただ、村人を追いかけるつもりならカーリンを連れて行くのはダメ」
神殿が無くなって村人は情緒不安定になっている。
災厄を招く忌み子が来たらどうなるか、想像すればいい。
「ただの思い込みだからこそ、簡単には覆らないの。カーリンが大事なら村人は諦めなよ」
「両立できるはずだ!」
クルトが机を叩いて立ち上がる。
カップから紅茶が零れて机を濡らした。
やっぱり、まだ最後の一年の記憶がないのか。
私はクルトの瞳を真っ向から見つめ返す。
「村人を説得するつもりなら明日にしなさい。私が魔法で運んであげる。どの道、今は村のみんなが混乱していて感情的になり易いの。カーリンが大事なら少しでも安全な道を選ぶべきよ」
額が当たるギリギリ手前まで顔を近づけて睨む。
その後もクルトは反論したものの、私に正論をぶつけられている間に頭が冷えてきたらしい。
力を抜いて椅子に腰掛けた。
カーリンが労るように背中を撫でている。良いお嫁さんになるね。
生きていれば。
「話は纏まったね。それじゃあ、今日は村人達を説得する方法を考えなさい。カーリンもね」
カーリンはどうせ諦めているけどクルトと一緒に何かさせておくのが良いだろう。
カーリンが付いていれば勝手に村人を追う心配もない。
「私は牛頭を探してくる」
窓の外を見るとすっかり日が昇っていた。
二人のせいで再会が遅れてしまった。どうしてくれる。
「暇だったら家を回ってお金とかを回収しなよ。私達が留守の間に野党に盗られるのも間抜けでしょ」
保険に仕事を与えておいて私は今度こそ村を出た。
次の更新は11月2日になります。