四十五話 美麗
最初に倒すべきは弓矢を持っている三人だと私は判断した。
魔力を掌握しているから拳大の飛来物まで見なくても反応出来るけど、対処が間に合うかは別だもの。
私は民家を水魔法で瓦礫の山に変えて風の魔力で包み、瓦礫ガトリングを撃つ。
久々に派手な技を使えて爽快な気分だけど、手加減というのは存外に難しい。
弓を一つ折っただけで他は外れてしまった。
人に直撃しなかっただけましかな。威力は落としていたけど骨が折れるだけで済むか自信がなかったし。
「バラけて囲め! 固まってると避けらんねぇぞ!!」
大柄さんの指示に応じた何人かは私の後ろに回り込む。
しかし、十人以上が瓦礫ガトリングの威力に足が竦んでいて動けない。
この機を逃さず未だに残っている弓を壊しておこう。
私は足元に円を広げる。次第に大きくなっていくそれは彼らも範囲に収める広大な魔法陣。
「避けられるかな?」
魔力消費の激しい隠蔽は抜きの命中率重視の魔法陣だ。
作動させた瞬間、無数の魔力レールが生まれて弓に絡みつく。持っている狩人A達がレール上から弓をずらそうとする。
「無駄だよ」
私は火球を乱舞させ、優位性を誇示しながら告げる。
この魔法陣は範囲内での絶対命中を実現する効果がある。
範囲内においては無数の魔力レールが即座に軌道を修正するのだ。
魔法陣から出るか攻撃が当たる瞬間に大きく回避するしか逃れる術はないよ。
「弓を捨てて回避! 他は瓦礫を蹴りつけて注意を削げ!!」
「甘いのよ」
私の言葉は突風で掻き消え、男達が蹴った瓦礫は吹き下ろす風に煽られてむなしく落下した。
同時に手放された弓が火球に飲み込まれて消し炭となる。
余りにも一方的で我ながら恐ろしい。
私ですらこのレベルなのに、百戦錬磨の魔法使いなんていたら軍隊相手にできそうね。
魔力の掌握範囲が狭くても道具や詠唱でカバーできるからハンデにはならない。
騎士団を相手にする時は真っ先に魔法使いを潰すことにしよう。
「か弱い女の子一人に武器を持って取り囲むなんて危ない趣味だね。矯正してあげるよ」
土の魔力で作った魔法陣を発動する。
鉱物の混合した岩ではなく、純度の高い一メートル程の鉄の棒が二本生み出され私の左右に並ぶ。
魔力の変換効率が悪い形成と抽出を行う魔法なので殺し合いには使いたくないけど今回はいい練習になる。
時間稼ぎと手加減を両立できるお手軽な魔法だね。
魔力レールを敷いて鉄棒をバトン代わりに弄びながら私はまず大柄さんを指差す。
「どれにしようかな、天の神様の言う通り」
リズムに合わせて振り向けられる私の指先を戸惑いの表情で見ている男達。
途中で襲いかかってきたらへそを曲げたフリでなぶる気でいたのに。
「ーーまずは君に決定!」
当選した筋肉達磨さんに拍手する。
覚悟した顔で剣先を向けてきたところを見ると意図は伝わったらしい。
大柄さんが援護を指示する前に筋肉達磨さんとの距離を詰め、右の鉄棒で剣を跳ね上げる。
がら空きのわき腹にすかさず左の鉄棒を打ち込むが筋肉達磨さんは見た目を裏切る俊敏な動きで剣を返して防ぐ。
金属がぶつかる甲高い音とあがる火花。
「素晴らしい反射神経ね」
これ程の実力者なら怪我させるだけでも全体の士気に影響しそう。
そう思って左の鉄棒で競り合う。鉄棒が剣を押し退けて進む様を強くイメージする。
「クソっ、なんて馬鹿力だ!」
失礼な。私は手を使っていない。
イメージと魔力制御で対抗してるのよ。
このまま拮抗するかと思っていたら背後から誰かが走り込んでくるのを魔力で感知して横に飛ぶ。
私のいた空間を剣が裂き、両断された空気が鈍い悲鳴を上げてそよ風となり私の頬をかすめていく。
風の魔力を利用して後ろに飛び、怯えていた小心者の顔面を踏み台に跳躍する。
近接戦はリスクが大きいようだ。
とはいえ、遠距離攻撃していたら片が付いてしまう。
「……安請け合いしなきゃよかったなぁ」
今さら後悔しても仕方がない。
訓練だと割り切って私はむさ苦しい男共に殴り込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
村長が一人で村に戻ってきた。
村人を山に避難させ終えたのだろう。
二十人を越えていた男達は軽傷十三名、重傷七名となっている。他は巻き込まれない位置でびくびくしていたか、重傷者を背負って逃げていった。
死者は出ていないし重傷者も四肢の骨折や切り傷、小さな火傷だから命に別状はないはず。
狩人Aが怪我の適切な処置を理解していたのもあって少し暴れすぎた感はあるけど誤差範囲よね。
「村長が来たから遊びは終わりだね」
村長が魔法使いなのは村の全員が知っている。
ここからは魔法の撃ち合い、それも十メートルの掌握範囲を持つ強力な魔法使い同士の戦闘だ。
こんなちっぽけな村、五分で消滅する。巻き込まれた者も同様だ。
「皆、山に逃げよ。昼までに儂が帰らねば街にゆけ。金はありったけ渡してあるからしばらくは保つだろう」
村長が山から引っ張って来たらしい魔力を維持しながら大柄さん達に言う。
狩人Aが反論しようとするのを強い眼光で封じ、大柄さんに後を託す。
大柄さん達も私が手加減していた事に気付いているのだろう、重傷者に手を貸して村の出口を目指し始めた。
私はそんな彼らを丸ごと飲み込める巨大な火球を用意する。
「逃がさないよ!」
私が放った火球は村長が生み出した水の龍に丸飲みにされた。
ここは後世に残るくらいに華々しく送り出して上げよう。
「これなら、どうかな?」
私が持つ中でも最も絢爛豪華な見た目を出す魔法陣を展開する。
「ーー!?」
村長を含め、全員が絶句した。
良い反応だ。その顔が見たいが為に作った趣味の逸品だもの。目に焼き付けておきなさいよね。
全種類の魔力を混合して発動する球形魔法陣。
色とりどりの魔力が紡ぎ出すのは球形魔法陣だからこそ出来る極端に複雑な芸術作品。
村長達もこの破天荒な魔法陣にリアクションがとれないでいる。ただ呆然と見惚れるばかりだ。
というか、これを実際に発動させたら村長でも防ぎきれないの。早めに逃げてくれないかな?
村長も魔法陣の異様さに飲まれかけていたけど遅ればせながら事態の重大さに気付き、演技ではあり得ない土気色の顔で大柄さん達を振り返る。
「さっさと逃げんか、たわけ!!」
余裕を無くした村長が怒鳴り、大柄さん達が肝を潰して走り去った。




