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嘘つき魔王  作者: 氷純
カーリンとクルトの生死
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四十四話 追い出す

 交渉成立から十二日目の朝を迎えた。

 貧相な家の屋根から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 私は窓に腰掛けて村を見下ろした。後ろでは村長が武器の点検をしている。


「皆の様子はどうだ?」

「いつも通りに神殿に向かってるよ。今日もずっとあの中でしょうね」


 農民なのだから畑の様子を見に行く方が良いと思うけど彼らは毎日あの調子。

 一日のほとんどを神殿で過ごして畑の世話もしていない。


「神に祈れば作物が実ると本気で思ってるのね」


 怠け者の神が人なんかいちいち助けるものか。

 頼るより先にやることがあるのよ。

 私が見守る中、老若男女ほぼ全ての村人が神殿に膝を突いて祈った後、中へと入っていく。

 全員が中に入って、しばらくしたら作戦開始だ。

 私は部屋の中へと視線を移す。

 村長が武器の点検を終えて仕舞い始めていた。


「やめるなら今の内よ?」


 一応、心変わりしていないか聞いておく。

 村長は無言で最後に残った武器へと手を伸ばし、それを壁に立て掛けた。

 ようやく私を見た村長が少しだけ笑う。いつものポーカーフェイスは消え、かわりに浮かんだその笑みは苦い物が混ざった不格好な笑顔だった。


「笑うか泣くか、どちらかにしなよ。みっともない」


 とはいえ、心中は察するよ。

 村長は綺麗に背筋を伸ばして私に対して深々と頭を下げた。


「儂は行く。……計画通りに頼む」

「旅路を祝福するよ。神に代わって、ね」

「御利益はありそうだ。少なくとも背を押してくれる」


 村長は心のどこからか引っ張り出してきた精悍な顔で家を出ていった。


「見栄っ張り」


 神殿へ入っていく老いた背中に私は愚痴る。

 すぐに行動を開始する訳にもいかず、紅茶を淹れてカップに注ぐ。

 来客用だけあって美しい絵柄のカップに湯気が立つ。


「うん、美味しくない」


 時間も経ったし、背中を蹴り飛ばしに行くとしよう。

 カップをおいて、私は家を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 阿鼻叫喚のるつぼというのは外から見ると娯楽になるらしい。

 拠り所にしていた神殿の屋根がいきなり吹き飛んだのだから、村人達には同情を禁じ得ない。

 心の内で合唱する。

 犯人は私だけど、計画は村長だから苦情はそちらにお願いするよ。

 私は風魔法で空を飛び、吹き飛ばした屋根から神殿内部に入り込む。

 幾人かの村人が気付いて見上げてくる。

 神を模したらしい石像の頭に着地した私は早速、魔法陣を展開した。

 頭上に現れた巨大な魔法陣にギョッとしている村人達に冷笑を浮かべて宣言する。


「泣け、叫べ。喚いて祈って、絶望しろ! 魔王の前では神なんて無力なのよ!!」


 全身を縛る痛みさえなければもっと気の利いた台詞が言えるのに、残念ね。

 私を村に案内した大柄さんがあんぐりと開けた口に向けて魔力レールを敷いてやる。

 それに驚いた大柄さんは慌ててレールから逃れた。


「あぁ神よ……!」


 入り口にほど近い場所にいたおばさんの言葉を皮切りに村人が次々に同じ言葉を口にする。

 私は踏みつけた神様らしい石像を平手でぺちぺち叩いてみせる。


「はははっ。冷たくなってますけどぉ?」


 顔を青くする者と赤くする者。

 さっさと神殿から出ていきなさいよ。

 現実的な若者を含む数名が泡を食って逃げていく。

 村長が避難誘導をしているのが見えた。

 私は展開した魔法陣に水の魔力を込めて発動する。

 二重螺旋を描く水流が神殿の壁を穿ち穴を開け、それに飽きたらず壁向こうの民家を半壊させた。


「皆外に出ろ!」


 村長が老人とは思えない大声で叫び、腰が抜けている老婆を立たせている。

 未だに神殿内は二十人近い村人がいるのを考えると長引きそうだ。

 余りにまどろっこしいので手伝ってあげよう。

 神殿入り口の壁に狙いを定めて魔法陣を展開、発動させる。

 人の背丈ほどもある鉄杭が数本、壁を貫く。

 入り口が三つ増えた。

 次いで水魔法を使って全員を押し流すために魔法陣を形成する。

 構築した魔法陣で私の意図を察した村長が即座に土魔法で壁を生み出し入り口への通路を作りだした。

 頭の回転が早いから連携が取りやすいよ。

 魔法陣が青く輝き神殿内部を大波が洗う。

 もみくちゃにされた村人達が入り口から大量の水と共に流れ出た。

 いち早く神殿を出ていった若者達が武器を持って乗り込む寸前だったこともあり、外は大混乱だ。

 私はそんな彼らの頭上を飛び越えて民家の屋根に降り立ち、哄笑を響かせる。


「ちくしょう!」


 狩人Aが弓を引き絞る。

 放たれた矢は私が巻き起こした突風に煽られて狙いが逸れ、見当違いの方向へ消えた。


「下手っぴ!」


 口元に手を添えて即席メガホンを作ってからかいの言葉を放つ。

 村長が子供や老人を山へ向かわせているのを横目に、私は村人の様子を確認する。

 計画通りに死者は出ていないものの、ここから先は私も命懸けだからどうなるやら。

 どのみち、村長が戻って来るまで血気盛んな男共と喧嘩するのは避けられない。

 私は各々の武器を手にして集まってくる二十数名の男達を見渡す。

 全員魔法を使えないと聞いたけど、やはり数が多い。

 殺しはしない。でも何人か大怪我しても良いらしいから、上手く立ち回ろう。

 私はありったけの魔力を身に纏い、地面に飛び降りた。


「虐殺初心者です。よろしくお願いします」


 文字通り、村から叩き出してあげるよ。


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