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嘘つき魔王  作者: 氷純
カーリンとクルトの生死

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三十四話 誤解

 木漏れ日に夕焼け色の髪が輝くのは幻想的でもあったけど、振り回すナイフは退廃的で危険な光を放っている。

 突き出された切っ先から右半身を引いてかわす。

 勢いを殺さずに私の横を走り抜ける娘を転ばしてやろうと足を出してみる。

 私の悪戯心が満載の足を彼女はあっさり飛び越えた。


「もうズキズキするよ……。」


 体のあちこちが切られるように痛い、かすり傷すらできてないのに。

 神の老婆心だろう。天国という姥捨て山から下界観賞らしい。お暇なことで。

 あまり格闘は得意じゃないので仕切り直すべく距離を取る私に、反転した彼女が追いすがる。

 すぐ接近戦に持ち込まれ、彼女の錆びたナイフが縦横無尽に空気を裂く。


「ちっ」


 舌打ちされたし。理不尽だ。

 ギリギリで交わしながらも彼女の動きに違和感を覚えた。

 けど、観察する余裕もない。

 息が上がってきたしそろそろ決着させないと余計に私が不利だ。

 打開策を頭の隅で考えるうち、向き合う彼女の眼が赤いのに気がついた。

 充血ではなく瞳の色が赤い。

 気付いた瞬間に私は無秩序だった回避の方向を統一し、川を背後にするよう立ち回った。


「ーーっ!」

「さぞ眩しいでしょうね」


 川からの反射光。

 サングラスなんて物は私に縁がないから、なかなか気付けなかったよ。

 これで少なくとも木陰までは退くはず。

 そう思ったのも束の間、彼女は眼を思い切り閉じて光を遮断。そのまま攻撃を再開しようとした。

 魔力の掌握を利用した空間認識で視覚を補うつもりか。


「させませんよぉだ」


 私は彼女の掌握した魔力を奪い取りにかかる。

 魔力の奪い取りは初挑戦だったけど案外すんなり出来た。

 彼女から近いほど奪い難くなり、結局の比率は私と彼女で三対二というところ。


「……力の根元、集いたまえ」


 詠唱?

 彼女がそっと唱えた途端、私が掌握していた魔力が半分以上とられた。


「何それ、ずるい!」


 文句を言っても始まらない。

 でも言わずにはいらない。


「ずるい、ずるい! えぇと、力の根元集いたまえ」


 ……何も起こらなかった。


「早い者勝ち」

「やっぱりずるい!」


 すごく悔しいんだけど。

 夕焼け色の彼女が呆れたように私を見る。なによ、その眼は。


「てっきり雇われた賞金稼ぎだと思ってたわ」


 彼女が頭に片手を当てて言う。

 余裕を見せつける意図はなさそうだから、予想が外れた事による脱力だろう。

 未だに油断なく魔力を掌握している彼女からは殺気や気迫が消えていた。


「魔物連れの私が誰かに雇われるはず無いよ」


 牛頭を指差す私に彼女が妙な顔をする。


「戦っていたのではないの?」


 ……誰が戦っている相手の上でおねんねするのよ。

 関係を誤魔化す必要もなかったとはね。


「あなたの事情はよく解らないけど、私が襲われたのは人違いなのかな?」

「謝るわ」


 頭下げる位してほしいけど無理か。逆の立場なら私もしない。

 命のやり取りした後に頭を下げるなんて切り落として下さいと頼んでいるようなものだしね。


「朝ご飯を一緒に食べてくれるなら許すよ」


 あっさり矛を収めた私を彼女が怪しんでいる。

 過程はどうあれ彼女との交流の場を設けられたのだから、良しとしよう。

 戦わなければ神が嗜虐心を満たす大義名分もなくなる。


「お互いに別の食事を作って話しながら食べましょう。命を狙われていても、これなら安心よね?」


 この娘は私並みに用心深い。魔力をまだ手放していないし頭を下げて隙を見せたりしない。

 だから、彼女が牛頭を横目に見ただけで聞きたいことも察しがついた。


「牛頭は肉を食べないよ。植物と一緒で水と土があればいい」


 説明して牛頭に根っこを地面に埋める食事体制を取ってもらう。

 彼女は牛頭の周囲を回って観察する。

 そして、腕を組んで頷いた。


「わかったわ。魔力は掌握したままでいいわね?」

「それでいいよ」


 そうでないと納得しないだろう。

 ただ彼女が承諾したのが腑に落ちない。

 私なら絶対に承諾しないもの。

 もしかしたら、あの娘はこのまま逃げちゃうかも。

 そう思いながら、食材を取ってくるという彼女を見送った。


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