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嘘つき魔王  作者: 氷純
オイゲンと白い池
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二十九話 理由

 ハンネスが池に着く前に先回り出来た。

 歌いながら登場した私にオイゲンが困惑する。

 私は適当な木に登って枝に腰掛け、オイゲンに告げる。


「ハンネスが来たよ」


 オイゲンは弾かれたように周囲に目を凝らした。


「まだ着いてないけどね。罠を警戒しながら進んでるはずだからもう少し待たされると思う」

「姫さん、なんで邪魔するんだ」


 オイゲンが泣きそうな顔で私を見上げる。

 池の魔法は私の存在に関わらずにオイゲンの死が引き金となって発動する。

 だから、私が木の上に観客席を作っていても彼の計画を妨げはしないのだ。

 それでも私が邪魔だと彼は言う。


「生き物を殺すなと言ったオイゲンが殺されるために綿密な計画を立てている矛盾、それが行き着く先に興味があるからよ」


 薄く笑んで誠実に理由を答えた私にオイゲンが頭を横に振る。

 どれだけ否定しようと矛盾しているの。私に殺すなと言いながら殺される計画を立て、私に命の尊さを語る一方で自らを死地に追いやる。挙げ句に私を遠ざけて矛盾を悟らせまいとした。

 オイゲンは自分の命を不必要に軽く扱っている。


「ねぇ、オイゲンが追われているのはハンネスの父親を殺したから?」

「違う」


 表情を悟らせないためか、俯いたオイゲンが短い答えを返した。


「それなら、結果的に殺したからだね」


 自分の命に価値を見いだせないのは、その人の価値観に反した出来事があったからだろう。

 価値観に対する無力感、成すことが出来ずに泡と消える努力の結晶、それがオイゲンの命だ。

 果たして彼は沈黙した。


「……どうしようもなかったんだ」


 ポツリとオイゲンが呟いた。

 ゆっくりと私に向き直った彼は逡巡し、再び黙した。


「最後まで話しなよ。笑い飛ばしてあげるから」


 私の言い様に苦い顔をしたオイゲンが口を開く。


「俺達の住む町に魔物の群れが襲ってきたんだ。常なら警備隊が始末していたんだが、その時は魔物の巣を潰すために出払っていた。残っていた警備隊がなんとか抵抗している間に逃げる必要があった」


 その日を思い出したのか、オイゲンは身を震わせた。

 ベリンダのいた街といい、魔物の群れが人の住処を飲み込むのはよくあることなのか。

 因みに魔物の数は五百匹だと言う。

 それに勝つのは無理だ。遠征中の人達がいても結果は変わらないと思う。


「俺は薬師でさ。その日、足を悪くしたハンネスの親父に薬を飲ませに行った」


 そこで魔物の襲撃に見舞われた、と。


「ハンネスの親父を抱えて逃げるのは無理だった。だから、俺はあいつを見捨てて逃げちまったんだ」


 沈痛な面持ちでオイゲンが告白するのを聞いて、私は一つの疑問が浮かんだ。


「オイゲンの家族が生きているのをハンネスは知らないの?」

「あぁ。ハンネスは町の住人と逃げたが、俺の妻とは方角が違った。町に戻る訳にも行かないからその後は皆、親類を頼ってバラバラになったから知らないはずだ」


 調べようと思えば簡単に分かりそう、と言いかけて気づく。


「調べようと思わせないためにこの池で死ぬのね」

「そうだ。あの日、俺が逃げた先にはハンネスがいた。詰られたよ。患者を見捨てて逃げたわけだからさ」


 もとより情けない男だと思っていたから、私の抱くオイゲンへの評価は変わらない。

 けれど、ハンネスは父親を見捨てられた事を恨み、復讐の旅までしている。

 それほど大事なら自分で助けに行けばよかったのに。


「ハンネス、あなたのそれって逆恨みよ」


 唐突に私が森に視線を逸らし声をかけたことで、オイゲンもハンネスに気付いた。


「い、何時から?」


 オイゲンが上擦った声を上げる。

 到着したのはついさっきだからオイゲンとの会話は聞かれていないだろう。

 森はさぞ風が強かっただろうから。

 私は操っていた風の魔力を手元に戻してハンネスを煽る。


「事情は聞いたよ。さっさとオイゲンを殺しちゃえ」


 さて、歪んで崩れた楽しい人生の終幕をオイゲンは飾る事が出来るでしょうか。

 私が関わった時点で不可能だけど。

 個人的にはこの観客席で見物していたいのに、生憎と私も演者らしいから。

 特等席から観覧する私に構わず、ハンネスがオイゲンに剣を向けていた。


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