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嘘つき魔王  作者: 氷純
魔王

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三話 逃亡

 仲間を呼ばれた。それに思い当たると同時に私は男達に背を向けて走り出していた。背後から追ってくる金属の擦れる音は騎士と名乗った連中だろう、あまり軽い装備に見えなかったけれど私を見失うことなく追いかけてきている。

 敵意や悪意には慣れているつもりだった。私にそれらを向けなかったのは関わりのない赤の他人だけ。常に曝されていれば感覚も麻痺する。けれど、背後から迫る明確な殺気に私は正直怯えていた。

 あんまりだ。小娘一人に大の男が三人がかり、手に手に武器を持って鬼ごっこですか? 子ども心を忘れない素敵な男性アピールなんて余所でやれ。

「こっちだ、しとめろ!」

 嫌な予感、木の幹かけた手を軸にして強引に方向を転換する。首の後ろを何かが横切った。音からして矢の類。ここからは射線に入らないようジグザグに動くしかなさそう。

 隙を見て振り返ると追っ手が増えていた。剣が二人に杖槍弓が一人づつ。鬱蒼としたこの森であの数は動きにくいと思うけど、しっかりと列を成している。練度の高さが伺えた。

 闇雲に走り続けても直に追いつかれる。私はあまり体育の授業に出なかったから体力もない。状況の打開には頭を使うべきなんだろう。

 追いつめられたネズミよろしく逆襲するのは、無理か。甲冑を着込んであの身のこなし、私が素手で挑んでも即座に返り討ちにされるに決まってる。説得も望み薄。何せ時折放たれる矢は明らかに殺意が込められている。私の言葉に耳を貸すとは思えない。

「っ!?」

 左足が何かに引っかかり、転ぶ。あれこれ考えていたのが裏目に出た。すぐに身を起こして駆け出すと蜘蛛の巣が顔にかかった。泣きそうになりながら払いのける。

 踏んだり蹴ったりだ。けれど、転んでもただでは起きない。私は走りながら右手で木の枝を折る。枝とはいえ生木を走りながら手折るのは難しい。数度試してようやく手に入った二股の枝をしっかりと握り込む。

 間隔の狭い木と木の間を選びながら走って蜘蛛の巣を枝に巻き付ける。出来たのは即席の網。次に木を曲がる度に目に付いた虫を適当に網に張り付ける。それで地面を、正確に言えばそこに積もった針葉樹の落ち葉を掬い取ればーー

「詠唱も無しに火の魔法だと!?」

 後ろで騎士が驚いている。私の右手には松明のようになった枝がある。落ち葉が湿っていたようだけど燃え上がればこっちのもの。派手な煙を上げて後ろに続く騎士の視界を奪う。余り長くは保たないけれど十分な効果を発揮した。先頭の騎士が驚きに足を止め、後続の騎士達がそこに次々とぶつかり折り重なって倒れたからだ。

 体勢を立て直そうとしている騎士達は甲冑の重みと木々の狭さで身動きが取り難いらしく、四苦八苦している。

「これ、あげる。私の代わりだと思って大事にしてね」

 笑顔で騎士達に近付いて、火がついたままの松明を投げてあげた。鎧を熱せられてさぞかし暖かいだろうからそんな風に押し倉饅頭しなくてすむよ。悲鳴を背後に私はその場を走り去った。

 ざまあみろだ。


 火を噴く虫を種火にして針葉樹の葉を燃やすこの即席松明を私はいくつか作ってあちこちに放置して逃げてきた。

「あれはきっと火事になってるなぁ」

 山一つ向こうから立ち上る煙は結構な太さ。灰色の龍が空に昇っていると表現したくなるほどに立派な煙だった。

 あの山にいる騎士達は散らばった仲間を集めるべく頑張っているだろう。その後に消火活動もしてくれると時間稼ぎになって助かる。

「さて、いきますか」

 どこに行けばいいのかは分からないけど。

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