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嘘つき魔王  作者: 氷純
オイゲンと白い池
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二十三話 仲違い

 オイゲンが差し出したのは湯気の立つ椀だった。

 いくつかの野草と干し肉が入っている。


「何それ。餌?」


 侮蔑を込めた私の言葉でオイゲンが取り繕っていた笑顔が一瞬崩れたが、彼は再びぎこちない笑みを浮かべた。


「こう見えても朝飯さ」

「勝手に食べなよ」


 差し出すな。見たくもない。

 私はため息を吐いて空を見上げる。

 痛みに倒れた私では知性体との戦闘をこなせるはずもなく、神殿をかなり離れたこの森まで逃げざるを得なくなった。

 オイゲンが肩を貸そうとするのを振り切って風や水の魔力で移動した。無茶が祟って全身がダルい。

 しかも神殿を出て魔物や熊に襲われてもオイゲンに殺すなと叫ばれ、逆らおうとすれば神の横やりが入る始末。

 例外は自らの命を守るため仕方ない時だけらしい。逃げられるなら殺してはならないとオイゲンが言っていた。

 逃げた事で状況が悪くなり、結果的に死ぬ可能性を彼らの貧相な頭では考えられないらしい。

 巻き添えになるのは御免だ。何とかして逃げないと。


「姫さん、ちゃんと食わないと治るもんも直らないだろ」


 誰のせいだと思ってるのよ。

 オイゲンがしつこく食べさせようとしてくる。


「どうせ毒でも入ってるんでしょう」


 彼が作った物を口にするなんて想像するだけで総毛立つ。


「そんなことあるわけないだろ」


 そう言って彼は少し食べて見せた。

 害がないと示したつもりか。


「どうだ。これで姫さんも安心だろ?」

「……椀の反対側に毒がある。指先に予め毒を塗っておき渡す際にその指を椀に突き入れる。遅効性の毒で解毒薬を持っているから躊躇わず飲める。特定の具材が毒または毒を混入した物でそれを食べなければ害はない。口の中に毒を中和する物を仕込んであった。椀と一緒に食べる事で効果がある毒物を後で渡す。私が食べるのに使う木匙に毒が塗ってある」


 ぱっと考えつく限りの方法を並べ立てる。

 オイゲンの顔が笑みのまま強張った。


「あなたは私を殴った。絶対に信用なんてしない」


 一度でも暴力を振るった輩は平気で裏切る敵だ。協力関係は有り得ても、今その土壌はない。

 オイゲンが私と行動を供にするのは森を一人で抜ける力がないからだ。

 それにも関わらず、彼は私のやり方に文句をつけて足を引っ張っている。

 生死に直結している以上、明確な敵対行為と言えた。


「姫さんを叩いたのは悪かったと思ってる。すまなかった」


 オイゲンはそう言って形だけの謝罪をする。


「中身のない謝罪なんかいらない。ただ音の羅列は耳障りなだけなの。無抵抗の相手をいきなり殴った事実は変わらない」


 しかも理由が博愛主義とは皮肉がきいてる。

 理想の実現は他者の迷惑にならないようにやれ。


「しかし、それは姫さんがーー」

「本音が出たね。言い訳するって事は殴った理由は正しかったと思っている証拠よ。私はあなたの理想が叶わないのを知ってるし、巻き込まれるのも納得いかない。しかもその理想を理由に殴られる謂われは全くない」


 こいつは長い間ぬるま湯に浸かって頭がイカレてるのだろう。

 治療法はない。死ねば治るそうだからこれ以上、他人に迷惑かけない内に死んでしまえ。

 尚も食い下がろうとするオイゲンを魔力で威嚇して遠ざけ、私は少ない木の実を口にした。

 油分が無く味の薄い食べ物でないと今は体が受けつけない。


「なぁ、姫さん」


 おずおずと話しかけてくるオイゲンにウンザリしながら目を向ける。


「何?」

「神殿で俺のことを殺そうとしたが本気じゃないよな?」

「本気よ」


 断言する。今でも心の大部分を占めているのは明確な殺意だ。


「命を理想のために使っていいのは持ち主だけだもの」


 オイゲンが理想を貫いた結果で野垂れ死んだら褒め称えるだろうね。それは綺麗な生き方だから。

 けれど、その理想に共感はしない。私の考えとは違うものだし尊敬も出来ない。

 そんなゴミくずのために私の命は賭けられないし、賭けろと言われれば抵抗する。結果でオイゲンが死んでも彼の自己責任だ。


「姫さんは命の尊さってもんを知るべきだ」


 オイゲンが下らないことを呟いていた。


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