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嘘つき魔王  作者: 氷純
オイゲンと白い池

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十九話 地下室

 三メートルほど先で私が掌握した魔力が押し退けられた事に気付いて飛び起きる。

 身構えた私の前には目を丸くしたオイゲンがいた。右手には蝋燭が握られている。


「起こすつもりはなかったんだが」


 すまなそうに言うオイゲンに拍子抜けして私は肩の力を抜いた。


「それ何処にあったの?」


 握られた蝋燭を指差して訊ねる。


「元から俺のさ。鏡が隠されていた場合を考えて明かりを持って来てたんだ」


 オイゲンが自慢するように蝋燭を振る度に臭いが漂ってくる。


「魚臭い」

「当たり前だ」


 当たり前なのか。

 すぐに慣れるとオイゲンは言うけど、慣れるまで我慢するより自分で明かりを作った方が良い。

 そう思って光の魔力を集めようとしたらオイゲンに止められた。


「何?」

「あのな。結界に使う魔力を姫さんが消費してどうする」


 言われてみればその通りだ。

 結界が無くなって魔物が入っても私は困らないけど、口論するのは時間の無駄なので光の代わりに火の魔力を集めて灯す。


「俺の立つ瀬がないんだがな」

「溺れてれば?」


 頭を掻いてぼやくオイゲンに冷たく返して、体をほぐすために伸びをする。

 まだ少し咳が出るものの、かなり楽になった。

 久しぶりに休めたのも大きい。

 神殿の中は暗く、雨も激しさを増していた。まだ夜中らしい。

 そういえば、夕食も食べてない。

 最後に食べたのは何時だっけ? 昨日の記憶があやふやで思い出せないけどお昼も食べなかったはずだ。

 意識しだした途端に空腹を感じたので夜食を採ることに決め、皮袋から魔物の肉と野草を取り出す。

 硬めの草を軽く揉んで柔らかくしつつ、土魔法で作り出した土鍋に水を入れる。火魔法で豪快に熱すればすぐに沸騰した。


「姫さん、さらりととんでもない事するな」

「話かけないで。気が散る」


 土鍋と火を同時に頭に思い描いている必要があるので集中していないと土鍋に穴が開いたり火が弱まったりする。

 こう見えて高等技術なのだ。挙げ句に話せと言うのか。


「俺も食っていいか?」

「だめ」


 一蹴するとオイゲンは肩を落とした。


「俺からも食材を出すから頼む。しばらく温かい物を食ってないんだ」


 オイゲンが頭を下げて干し肉と野菜を出してくる。

 肉はともかく野菜は欲しい。ビタミンの不足を補うチャンスだ。

 最近は夜目が聞かなくなってきていたから大いに助かる。


「わかった。いいよ。ただし、それ入れて」


 人参にしては葉っぱの形がおかしいけど背に腹は代えられない。

 話している内に火が強くなってしまった。落ち着いて対処する。

 いつもなら焚き火の上に土鍋を作るだけでいいのに。

 雨のバカ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 食事を終えて白湯を飲みながら一息つく。


「そういえば、オイゲン。地下への入り口は見つかった?」


 土魔法製の岩コップを片手に訊くとオイゲンは背後の闇を顎で示した。

 火の魔法で照らして見ると床にぽっかりと穴が開いている。


「床石の一つが外れるようになっていた。坂が下に続いていてな。一緒に来るんだろう?」


 オイゲンが背後の穴を見つめながら訊いてくる。

 何故か浮かない彼の表情に首を傾げながら探検隊に参加を表明する。

 行かないと性悪神にどんな酷い目に遭わされるか分からないもの。

 それに情報を集めないと性悪神の裏をかけない。

 にやつく私を怖がるオイゲンには悪いけど利用させてもらうよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 オイゲンを先頭に地下へ進む。

 道は緩やかな下り坂で湿った土が剥き出しになっていた。

 一酸化炭素中毒はお断りなので事前に風魔法で換気してあるものの陰鬱な空気まではなくならなかったようだ。

 狭い坂を下りきると今度は少し幅が広い通路に出た。まだ歩かないといけないらしい。


「隠し通路を見つけておいて何だけど、本当に魔法の鏡はこの先にあるの?」


 そもそも隠す必要がある物なのか。

 かかっている魔法が原因かもしれないけど。

 オイゲンも不安なのか答えを返さずに足を動かす。

 数分は歩いたように感じた。

 試しに地上の魔力を探ってみたけど感知できない。かなり深く潜ったようだ。


「見えたぞ」


 オイゲンの弾む声に促されて正面に目を凝らすと開けた空間があるのがわかった。

 オイゲンの足が速まる。

 急速に遠ざかる彼の背中に苦笑しながら後に続いて広間に入る。


「これはまた、手が込んでるね」


 学校の教室四つ分くらいの広間の壁は綺麗に削り取られている。磨いた玉のような質感だった。

 造った人は凝り性の暇人だったのだろう。その職人魂は素直に尊敬する。


「それが鏡?」


 広間の中央に鎮座していたのは手のひら大の丸い鏡だった。

 オイゲンは鏡の周りを歩きながら光の魔力を集めている。

 魔力の掌握範囲がかなり狭いらしく、苦戦しているようだ。


「……手伝おうか?」


 見かねて申し出ると首を横に振られた。


「俺がやらないと魔法が発動しないんだ。壁際で見学しててくれ」


 指示通りに壁際で作業の完了を待つ。

 さて、一体どんな魔法なのか。

 遅々として進まない作業に欠伸をしながら私は楽しみに待つのだった。


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