十八話 地下室の見つけ方
鏡を見つける簡単な方法を思いついた。
周囲の魔力に注意して神殿の中を歩き回る。
今の私は半径七メートルほどの魔力を掌握でき、その範囲内なら魔力の感知も可能だ。
「みっけ」
足下に魔力を感じる。それは床下に魔力が溜まる空間があるのを示唆していた。
早い話、地下室があるのだ。
「姫さん、手際が良いな」
妙な事を言いながらオイゲンが拍手する。
「姫さんって何?」
「名前を教えてくんないからさ」
あだ名か。センスのない。嫌がれば名前を教えろと言われるだけだから放置に決定。
というか騎士団が曰く姫ではなく王らしいよ。魔がつくけど。
私は床を観察して入る方法を調べる。
いっそ魔法で穴を開けようかと思ったけど、古い建物なので崩れたら困る。
「雨が激しくなってきたな」
声に振り向けば、オイゲンが天井を見上げて、雨と雷が奏でる荘厳な調べを聴いていた。
「手伝ってよ」
彼の服を掴んで軽く引くと謝りながら私の隣に座り込んだ。
「って、姫さんは休むのかよ」
入れ替わりに立ち上がって、壁に向かう私へ不満げな声で言うオイゲン。
「疲れたのよ」
魔力制御は神経を使うとても繊細な作業だ。隣で悠々と音楽観賞していたオイゲンには分からないのだろう。
私は壁に背を預けて座り込む。熱で火照った体に石の冷たさが心地良い。
膝を引き寄せて抱え込み、顎を乗せる。
今晩はここで休むしかない。
夜闇で視界が閉ざされた森の中、雨で足音を消した狼に近づかれたら反応する前に餌になってしまう。
油断すると手放してしまいそうな意識を弄んでいるとオイゲンが声をかけてきた。
寝むたい眼を擦りつつ返事をした私にオイゲンは床石を調べながら言う。
「姫さんは寂しくないのか?」
唐突に何を言うのか。
首を傾げる私にオイゲンが続けるには、一人旅の途中に倒れるほどの病にかかれば独り言で気を紛らわせたり、石や木を人に見立てて話しかけるのが旅人の定番らしい。
けれど、私はせっかく知り合ったオイゲンに話しかけたりせず独り言も口にしない。
不思議というより不気味に感じるそうだ。
「……で?」
だからどうしたのか。
私の寝ぼけ声にオイゲンが横目で見てくる。
友達や親は恋しくならないか、とオイゲンの声が聞こえる。
「あなたは生ゴミが腐る過程を最後まで見届けるの?」
そう欠伸をかみ殺して問い返す。
眠気に霞む風景の中で髭の男が情けない顔をした。
彼が何か言ったので聞き返す。
親は例え死んでも子を心配する。そんな事を言ったらしい。
親が私を心配する?
同級生に階段から突き落とされて入院した私を見舞いに来なかった。
腰まで伸ばしていた髪を無理やり切られた私を見て何も言わなかった。
あれは心配していたの?
食事が私の分だけなかったり、満点の答案を破ってゴミ箱に捨てていたけど心配していたの?
変なの……。
親である前に人間なのだから、利己的で打算的に子供が利益になるかを考えてるはず。
子供に対する態度は親という立場ではなく、個人の資質に左右される。
人として成長しているのが条件であって、親である事は関係がない。
私の親はそういう意味で未熟だった。それだけ。
「オイゲンには子供がいたの?」
私が訊ねると、オイゲンは一瞬だけ沈黙した。
「いる。だが、恨んでるだろうな」
すっかり暗くなった神殿の中にオイゲンの情けない声が落ちる。
『いた』ではなく『いる』と言うからには存命か。
この男は本当に何故こんな森にいるのか。生きているなら森をさまよい歩くより建設的なことがあるでしょうに。
「謝ってやり直せば?」
「無理だ」
私の助言をぞんざいに扱って、オイゲンはそれきり喋らなくなった。
恨んでるだろうな、か。
嫌な予感を喚起する言葉だ。
どうやらこの出会いもお優しい神の仕業らしい。
またお腹を撃たれないと良いけど。
うっすらとそう考えながら私は浅い眠りについた。




