真実を探しに
「よくぞご無事で」
エクスは魔法陣から現れた俺達を一人ずつ見回すと、ほっとしたように笑みを浮かべた。
「エクスのお陰だよ。弱体化の呪いを解いてくれなきゃ危なかった」
「魔導師達に魔石を持たせて、力を底上げして漸くって感じでしたけどね……。それで、邪神の魂は破壊出来ましたか?」
「それがだな……」
聞かれるとは思っていたが、何と答えればいいものか。
邪神の魂を封じた木彫りの熊を懐から取り出していいものか、俺は本気で悩んでいた。
「ラルクが懲らしめて熊にしてやったから、もう大丈夫だぞ」
アウラが自分のことのように胸を張って答えてしまった。
「アウラ、黙ってないと駄目じゃない!」
「あー、さっきのは無しだぞ」
その場に、何とも言えない沈黙が落ちた。
エクスはきっと、邪神との戦いで俺達がおかしくなったと思っているに違いない。
「えーと、兵に客室へ案内させますので、今日はゆっくりお休み下さい」
「あ、ああ。そうするか」
何とかその場を切り抜けようとした、その時だった。
懐に入れていたはずの木彫りの熊が消えている。
「お前がこいつらを連れて来なければ、我はこのような辱めを受けずに済んだものを! お前だけでも血祭りにあげてくれる!」
木彫りの熊がエクスへ飛びかかった。
しかし、手のひらほどの大きさしかない木彫りの熊に、殺傷能力があるはずもない。
必死の体当たりも、傍から見ればエクスにじゃれついているようにしか見えなかった。
「あはは、ラルクさん。僕は子供である前に一国の王子です。おもちゃで喜んだりはしませんよ」
「わ、悪い。表情が暗かったから、笑わせようとしたんだ」
「ら、ラルクったら、お茶目だから」
ミーシャが話を合わせてくれたお陰で、俺が冗談を仕掛けたのだとエクスは思ってくれたようだった。
「そんなに気を遣わなくてもいいですよ。ラルクさんって、強いだけじゃなくて面白い人だったんですね」
俺は引きつった笑みを浮かべたまま、やって来た兵に着いて行った。
「部屋の前で待機しておりますので、何かご用があれば何なりとお申し付けください」
敬礼をすると、兵は部屋の外へ出ていった。
部屋には簡素な造りのテーブルとソファが置かれている。
奥の部屋には四つのベッドが並んでおり、そのうちの一つでは、先ほど運ばれたイリアが横になっていた。
イリアはこちらに気づくと、ゆっくりと身体を起こした。
「お力になれず、すみません。邪神の気にあてられてしまったようで……」
「はは、こいつを人質にすれば我は――」
「お前はいい加減に懲りろ!!」
イリアに飛びつこうとする邪神を紐で縛り上げる。
これで変な真似をしなければいいんだが……。
「ラルクさん、それは?」
「邪神の魂だ。まあ、邪神そのものと言ってもいい。こいつを俺が捕らえておけば、邪神を復活させることはできない。バロックの野望もここまでだ」
バロックの魔力を封じ、邪神復活への道も閉ざしてやった。
これで奴はもう終わりだろう。
「バロック? ああ、あのおチビちゃんが私を復活させようとしてくれたの。嬉しいなあ」
「お前、またキャラ変わってるぞ。それより、おチビちゃんだと? お前が約束を交わしたのはバロックじゃないのか?」
「ギルバートですよ。あの残虐非道の魔王とね。バロックは弱い子だったけど、強くなりたいって言うから魔法を教えてあげてました」
「ギルバートが?」
あの人当たりの良さそうな笑みを浮かべていたあの魔王ギルバートと残虐非道のイメージが結びつかなかった。
「バロックって、悪い奴じゃないの? アシュリーを殺そうとしてたわよ」
「ははは、そんなのバロックに出来るわけがないですよ。あいつは妹思いの優しい魔族ですから」
その言葉を聞いて、俺はバロックの妹、フェイを思い出していた。
バロック城に忍び込んだ時、彼女は言っていた。
兄様は世界で一番素敵な魔族だ、と。
もしバロックが本当に妹思いなら、フェイの期待を裏切るようなことをするだろうか?
そこで、一つの可能性が浮かんだ。
「もしかしたら、バロックはギルバートに操られているのかもしれない」
「そんなことをして、ギルバートに何のメリットがあるのよ?」
「悪事はバロックにやらせて、自分は善人として振る舞うんだ。そうなった時、バロックとギルバート、二人の魔王がいたら、人類はどちらを倒そうとする?」
俺の言葉の意味を理解したのか、ミーシャが目を見開いた。
イリアも同じだった。
もし俺の考えが正しいのなら――。
俺達は最初から騙されていたのだ。
そう考えれば、空飛ぶ島でギルバートが送り込んだ護衛がリリスを監禁していたことも辻褄が合う。
「どうする、ラルク? ギルバートを倒しに行くか?」
アウラの問いに、俺は首を振った。
「待て。今は下手に動くべきじゃない。あいつがどんな力を秘めているのか、まだ手の内が分からないからな」
ギルバートの娘、アシュリーを人質に取る手もある。
だが、それは気が進まない。それに、ギルバートなら娘さえもただの駒だと考えている可能性がある。
「今、会わなきゃいけないのはバロックだ。奴の本心を聞いてから、どう動くか考える」
まずは、バロックが本当に操られているのなら正気に戻してやる。
その上で、本人と話し合う必要がある。
それでバロックを倒すのか、それとも手を貸すのかを決めようと思った。
「ドラゴンテイマーは恐れを知らない。だから、私は苦手なんですよ」
「黙らないと木くずにしてやってもいいんだぞ?」
「す、すみませんでした」
邪神を睨み付けてやる。
「そうだ! お前、バロックの城の場所が分かるなら、俺を転移させろ」
「今の姿だとキツいんですけど……」
邪神は自分の小さな身体を見下ろした。
「分かった。やりますよ。やればいいんでしょ!」
渋々といった様子で、邪神は俺に向かって転移魔法をかける。
「行ってくる!」
光に包まれながら、俺はバロックの城へと転移していった。
期待と不安。相反する二つの感情を胸に抱きながら、俺はバロックとの対話に向かうのだった。




