役立たずのドラゴンテイマーは最強を手に入れる
レガリア王国の騎士、ガウディの息子として生まれた俺、ラルクは、父と同じか、それ以上の騎士になるのではないかと、周囲から期待されていた。
十五歳になった俺は、水晶の間へと通された。
そこで職業の適性を調べるため、岩石ほどの大きさがある魔水晶に触れる。
すると魔水晶から、無機質な声が響いた。
『ガウディの子、ラルク。適正職――ドラゴンテイマー』
その結果を両親に伝えると、二人はとても落ち込んでいた。
ドラゴンテイマーは、契約するドラゴンがいなければ役に立たない、穀潰しのような職業らしい。
しかも、ドラゴン自体がこの数百年、姿を現していないという。
「気にするな、ラルク。騎士になれずとも道はある。兵士としてレガリア王国に仕えるんだ。そうすれば、きっと道は開けるだろう」
父も母も、相変わらず俺を愛してくれようとしていた。
だが、周囲の人間は違った。
俺を見る目は、日に日に冷たくなっていった。
陰口を叩かれるのは当たり前。
目を合わせようともしない。
騎士見習いの仲間からは、稽古と称して何度も痛めつけられた。
それでも父に泣きつくわけにはいかず、俺は一人で耐え続けてきた。
いつか道が開ける。
父のその言葉だけを頼りに、がむしゃらに頑張ってきた。
だが、その日はきっと、俺もおかしくなっていたのだろう。
気が付けば、城を抜け出していた。
行く宛てもなく、ただ一人で外をふらついていた。
これがバレたら、兵士長に鞭打ちを食らうだろうな。
そんなことを考えながら、俺は一人、乾いた笑い声を漏らした。
しばらく歩いていると、長年誰も住んでいないような、朽ち果てた廃村を見つけた。
少し休んでから城へ戻るか。
そう思い、比較的損傷の少ない石造りの民家へ入ろうとした、その時だった。
「うるるるる!」
何かの生き物の鳴き声が聞こえた。
引き返してもよかった。
だが、気になって仕方がなかった。
俺は恐る恐る家の中を覗き込む。
そこには、絵本の中でしか見たことのない存在がいた。
頭には立派な一本角。
全身を黒い鱗に覆われたドラゴンが、必死にこちらを威嚇している。
よく見ると、背中には深い傷があり、翼や尾にも細かな傷を負っていた。
そんな状態だったからだろうか。
威嚇されても、怖いとは思わなかった。
初めて見るドラゴンへの感動すら、今の俺にはなかった。
ただ一つだけ。
どうにかしてやりたい。
そう思った。
「お前を傷つけたりしない。俺も、お前と同じだからな」
そう言いながら、俺は上着を脱ぎ、腕に残った痣を見せた。
こちらを睨みつけながら、ドラゴンは唸り声を上げている。
だが、やがてこちらへ一歩近づくと、俺の痣を舐めた。
一瞬、痛みを感じた。
「消えてる?」
さっきまであった痣が、一つ消えていた。
「同情してくれたのか? ありがとうよ」
俺は思わず笑った。
「お礼に傷を見せてくれ。お前みたいに傷を治すことはできないが、応急処置くらいはできるからな」
言葉が通じたかのように、ドラゴンは俺に背を向け、傷を見せた。
まずは傷口を清めるため、近くの川から水を汲んだ。
それを煮沸して、ぬるま湯になるまで冷ましてから、ドラゴンの傷口にかける。
「うるるる!!!」
「悪い、痛かったな。もうすぐだから我慢してくれよ」
そう言いながら、廃墟の中にあった比較的清潔そうなベッドのシーツを千切り、ガーゼ代わりにして傷口を覆う。
外れないように、軽く縛ってやった。
身動きが取りづらくなり、不自由そうではある。
それでも満足したのか、ドラゴンは、
「うるる!」
と嬉しそうに鳴いた。
「傷を治すには、栄養のある飯が必要なんだが……」
持ってきていた布袋を探る。
中から出てきたのは、ビスケットが数枚だけだった。
「悪いな。これしかない」
ドラゴンはビスケットを一枚、また一枚と食べていく。
そして、すべて食べ終えると――
「うるる!」
「まだ欲しいのか?」
「うるる!」
まだか、まだかと催促するように鳴いている。
それが妙におかしくて、俺は思わず笑い声を上げた。
「気に入ったか? 傷が治ったら、沢山持ってきてやるよ」
「治ったら、いいか。沢山」
「お前、喋れるのか!?」
驚いている俺をよそに、ドラゴンは、「うるる!」と力強く鳴いた。
すると、体中にあった細かな傷が、次々と塞がっていく。
背中の傷も大部分が塞がった。
だが、完全に治ったわけではないらしい。
「これが今は限界だ」
「食い意地だけで自分の傷を治すとは……恐れ入ったな」
俺は苦笑する。
「傷も治ったし、もう大丈夫だな」
そう言って帰ろうとした。
すると、ドラゴンが俺の服の裾を噛んだ。
「ビスケットなら、次に来た時に持ってきてやるよ」
「違う」
「え?」
「お前、気に入った。私と契約しろ」
「契約?」
「何があっても、私と離れないと誓うだけ。それだけで、お前は全てを手に入れられる」
嘘か本当か確かめる術はない。
だが――
今までの退屈な生活とは違う何かが始まりそうな気がした。
俺は好奇心に負けた。
「ああ、いいぞ。契約でも何でもしてやる」
そして笑った。
「今より、よっぽど楽しくなりそうだ」
その瞬間、腕に違和感を覚えた。
見てみると、腕には光り輝く紋様が浮かんでいる。
ドラゴンの背にも、同じ紋様が浮かんでいた。
「契約成立だ」
ドラゴンは誇らしげに胸を張る。
「お前たちがエンペラードラゴンと呼ぶ私の力は、お前のものだ!」
「エンペラードラゴン……」
俺は昔読んだ絵本に、そんなドラゴンが登場していたことを思い出した。
エンペラードラゴン。
世界を統べるドラゴン。
魔界の王でさえ手出しすることのできない存在。
気に入った相手には、富や名声、力だけでなく、世界そのものを与える。
絵本に書かれていた、途方もない存在だ。
そんなドラゴンの力が、今は俺のものになった。
体の奥から、何でもできそうな万能感が湧き上がってくる。
けれど、そんな力を手に入れて最初に俺が考えたことは――
今の生活から抜け出して、のんびり生きていきたい。
ただ、それだけだった。
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