〈番外編〉いたいけな寝顔にキスを ※サクヤside
本編の後、サクヤの視点の物語です
雨は止んだようだ。
静かになった部屋に、規則的な寝息だけが残る。
「……おい、小春」
肩を軽く揺らしてみても、返事はない。
「マジかよ……この状況でなんで寝るんだよ」
ぷつりと糸が切れたみたいに、小春は眠りに落ちた。
オレの、膝の上に抱かれたまま――。
薄いTシャツから伝わる体温、風呂上がりの甘い香りがする。
「やっぱり、オレを男として見てないだろ」
そっと頬をつねる。
さっきまで涙で濡れていた頬は柔らかい。
「う……んにゃ」
――かわいい。
オレだけが知っていればいい顔。
それなのに、なにが合コンだ。ふざけやがって。
このタイミングで寝てしまったのも、慣れない酒を飲んだからに決まっている。
痺れ始めた腕を我慢しながら、小春を抱き上げベッドへと運ぶ。
軽いな。
ちゃんとメシ食ってんのかよ。
そっとベッドへ下ろすと――。
小春の指が、オレのシャツをつかんでいた。
「……んだよ、こら離せ」
軽く引くと、さらにギュッと指先に力が入った。
オレは仕方なく小春の隣に寝転んだ。
『ずっと見てたから――』
『才加さんが、好きなんでしょう?』
小春の寂しいサインに気が付けなかった。
「……ごめん」
指先で髪をすくう。
ピンクベージュの小春の髪。乾かしたばかりのふわっとした感触。
「もっと早く、言えば良かったな」
ぽつりと本音がこぼれる。
深夜2時に帰る背中を、追いかけられなかった弱い自分。
肝心なことは何一つ言わず、いつか伝わると思ってた。
そのくせ、我慢できずにキスだけして――。
「サクヤ……」
かすれた声に、わずかに呼吸が止まった。
「どうした?」
「行かないで……」
反則的な寝言。
「ん、ここにいる」
低く返すと、小春は安心したように指の力を緩めた。
「オレだって男だぞ。さっき、そう言ったよな」
寝顔に言ったところで仕方ない。
だけど、この「据え膳食わぬは……」といった状況。邪な気持ちを出すなという方がおかしいんだ。
「このまま襲うか」
我慢の限界なんて、とっくに越えている。
「フニャ!」
ケージの中から黒猫がジッとオレを見ていた。
「うるせ、もうおまえだけの女じゃねぇからな」
黒猫はしっぽをピシャリと振った。「なめんなよ」とでも言うように。
そうだ、この黒猫はオスだったな。
「わかったよ、今夜は我慢するよ」
猫に監視されてる中ではじめて……なんて、こっちもごめんだな。
だけど、次にオレの家に来たときは――。
小春の額に軽く、誓いのようなキスをした。
もう、深夜2時にタクシーを呼んだりさせない――。




