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優しい魔王様

私がこの世界で転生してからもう6ヶ月が経っていた。


レイシアさんが私に絵本を読んでくれてから〖カタルシス語:Lv2〗も〖カタルシス語:Lv3〗になり、彼女が言ってる事が普通に分かるようになった。

それより何より、私はこの世界に来て初の秘儀を取得したのだ!『ハイハイ』である。

自分の身体で動くだけではない、辺りを見回し、移動する事ができる。こんなに素晴らしい事がこの世にあったのか!情報に飢えていた私にとって、秘儀『ハイハイ』は無くてはならない存在だったのだ。


私はベッドの上で秘儀『ハイハイ』を行使し、まずは辺りを見回す事にした。


今更だけど、この部屋結構広いんだなぁ。普通の家のリビング位あるぞ...


私が横たわっていたのはどうやらクイーンサイズはある柵のついたベッド、そしてその右側には部屋の端から端まで伸びている巨大な窓があった。

その窓から強い日差しが差し掛かり、気持ちよさそうな小鳥の鳴き声が聞こえてきた。

そしてベッドの左側には開かれた状態のドアがあった。


なんか凄い勿体無い気がするんだけど。こんなに大きな部屋なんだから最も色々家具とか入れて飾り付ければいいのに。家具はこのベッドだけだし、豪華な物と言えばあのシャンデリア位しかないよ。

この家ってもしかして、国のトップを争うような超大金持ちなんじゃないの!?分かんないけど、まずメイドさんがいる事からしてここがトンデモ家だって事は分かる。そんな所で吞気に寝てる私は...本当にどっかのお嬢様なんじゃないの...


まだ生後6ヶ月なのに焦り過ぎかもしれないけど、情報が欲しい。私が過ごしていた部屋は分かった。次は私の立場を教えてもらいたい。この国の状況や文明レベルなどが知りたい。


「レーナ様、入りますよ。」


どこか落ち着く、聞き覚えのある声と共に、レイシアさんが既に開かれてるドアをノックしてから部屋に入って来るのが見えた。彼女はゆっくりと私に近づき、手にしていた本を私に見せてくれた。


本だ!情報だ!!


「あう!あう!!」


私は秘儀『ハイハイ』を解除し、うつ伏せになりながら両手を本の方へと伸ばした。少し興奮し過ぎたのかもしれない。


「レーナ様は本当に本が好きなんですね。」


そんな私の可愛らしい(無様な)行動を見たレイシアさんは笑顔を見せながら何処からか持ってきた椅子をベッドの右側に置き、そこに腰を掛けた。


その本のタイトルは『優しい魔王様』


「昔々、女神様と邪神様がいました。」


この話はこうだ。

昔、多分1000年以上前、女神様はその力でヒュームを作り出し、邪神様は魔族を作り出した。ある日、邪神様はヒュームのことを邪魔に思い、自分の力の半分を使いある魔物を作り上げた。

それが魔王様。

魔王様はヒュームを滅ぼそうと行動をとり始めるが、あるヒュームの男性と会い、心を改めた。そのヒュームの男とは後に勇者と呼ばれる存在になったという。それを快く思わなかった邪神様は、魔王様を消そうとした。


「それに気付いた魔王様は勇者様に力をあたえて、一人で邪神様に立ち向かおうとしました。」


自分の本体でもある邪神様に勝てるはずもなく、魔王様はあっけなくやられてしまったという。


「今日はここまでにしましょうか、レーナ様もそろそろ寝た方が良いですよ。」


レイシアさんは本を閉じ、立ち上がり、私に微笑みながらそう口にする。


えーー!なんか今クライマックスじゃなかった!?嘘でしょ!こんな所で終わってたまるかぁ!!横暴だ!赤ん坊である私になんて酷い事をするんだ~~!!


「ばふぅぅ! ばふぅぅう!!」


私は必死で彼女に本を読むようにと抗議していると、辺りの明かりが弱まってるのに気づいた。


まだ昼頃だと思ってたのに、もうこんな時間になってたのか。


レイシアさんは私が落ち着いたのを見ると、彼女も安心したのか少し小さな溜息を漏らし、その場から立ち去って行った。


レイシアさんも疲れてるのかな...




あれから更に6ヶ月、転生してから丁度1年が経っていた。

そう、私の初の誕生日である。


相変わらず開いたままのドアを覗くと、使用人達が大きな荷物を持ちながら駆け足で四方八方に何かの準備をしてるのが見えた。


あれ、多分私の誕生日パーティーの準備だよね...どっかのお嬢様の誕生日パーティーってどんな凄いのになるんだろう。


「レーナ様、おはようございます。」


レイシアさんが落ち着いた雰囲気でドアをノックする。

外の様子を見てると、もしかしたらこの子サボってんじゃないのかと思ってしまったが、そんなことはどうでもいい。レイシアさんがいると、この慌てた空間でも心地いい。


「あと少しで準備ができるので、お迎えに上がりました。」


彼女はそう口にすると、私を両腕で抱えてこの部屋を出ていった。


あれ?地味にこの部屋出るの初なんじゃない?


私が情報を、本を手にできなかった最大の理由が部屋から出ることができなかったからである。

自力では勿論、レイシアさんに外へ出たいと伝えることも出来ず、ずっとあの部屋で過ごしていた。


〖念話〗使えば伝えることもできたはずだけど、それがきっかけで私がゼタ・ヒュームである事がばれでもしたら大変だし...


そもそもまだ1歳じゃなかったからって家の外はともかく部屋の外には出してもいいと思うんだよねぇ。このままじゃ箱入り娘ルートまっしぐらな気がするんだけど。


そんなことを考えていると私の部屋がかわいく見えるほどの大きな部屋に連れてこられ、大きな縦長のテーブルの中央の席に座らされた。


そこにはテーブルだけでなく、大きな棚などが立ち並んでいた。

天井は私の部屋の2倍以上も高く、そこからは巨大なシャンデリアがぶら下がっていた。


「レーナ!誕生日おめでとう!あれからもう1年もたつんだね!!」

聞き覚えのある男性の声が目の前からしてきた。そこには細身で長身の軍服を着た男性が私に駆け寄ってくる。


「ぱぁぁぱっぁ?」


私は油断していた。まだ赤ん坊の声帯で声を発する事は出来ないと、高を括っていた。しかし今回は出てしまったのだ。私は別に赤ん坊が1歳足らずで声を出したから凄いとか、そんな事を心配してるのではない。私は父の事をパパと呼んでしまったのだ。これほどの財力を持つ家だ、父の事はお父様とか読んだ方がいいのではないかと思っていたのに、思わずパパと声に出してしまった。


「レーナが話したぞ!しかもパパって!!みんな聞いてたよな!!」


パパ...もといお父様は大喜びで近くにいた使用人に再確認する。


まぁ喜んでくれたならよかった...今度からは気を付けないと...


「改めてレーナ様、お誕生日おめでとうございます。」


レイシアさんが私に祝いの言葉を掛けると同時に目の前のドアが勢い良く開けられ、使用人達が次々と大きなお皿を持ちながら早歩きでこちらに近づいてくるのが見えた。

そのお皿の上には見たこともないような魚の料理や鶏肉らしきものまであった。

次々とその料理は私の目の前へと運ばれた。


「レーナは本が好きだっていうからな!私からはこれだ!!」


パ...お父様はそう言うと、絵本をテーブルに出して渡してくれた。その本の表紙には虹色の目が飛び出た魚が描かれており、海が黒く染まってる様に見えた。まだ字を読むことは難しいのでなんて言うタイトルなのかは分からないが、私がタイトルをつけるとしたら『グロテスクな魚の魔海生活!』だ。


本は普通に嬉しい...けど...まぁ本は表紙じゃわからないっていうしね!字の勉強にもなりそうだし!


「私からはこちらです。」


レイシアさんが落ち着いた声でそう言うと、手にしていた絵本『優しい魔王様』をグロテスクな魚の絵が描かれた絵本、略して『グロ本』の隣においてくれた。


流石レイシアさん!私が今一番欲していた物を一番欲しいタイミングで渡してくれる。


これはレイシアさんが何度も聞かせてくれた話で、内容はほとんど頭に入っている。故に字の勉強には最適なのではないかと考えていたのだ!


ただ、グロ本の存在意義が消えた気がするが、気にしたら負けだ。


「シルフィーも来られたらよかったのにな...」


お父様は上を向き、ため息を吐きながら何処か名残惜しそうな顔でそう口にした。


そういえば私のお母様って...


私は生まれてお母様に会った事が無い。

生まれてすぐは会ったのかもしれないけど、全く覚えていない。


やっぱし訳ありなのかな。

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