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【青】紅 対 青 -決着-

メイズとクレイユの攻防は続いていた。

相変わらずメイズは『フラグナッハ』での高速機動でのかく乱をはかる戦術を選んでいる。

一方でクレイユの方は『強攻型フラウ』が『ビズワディ』ほど敏捷性に優れた騎体ではないこともあり、敢えて敵の攻撃を“待つ”カウンター重視の戦いを選んでいた。


“その変な剣さ、使いにくくない?”


ウイングを広げたメイズが叫びを上げる。

同時に細い剣身ブレイドから砲撃ショットを三連発、タイミングをずらしてもう一発、合計四発の弾丸がクレイユへと放たれた。

クレイユはグリップを操作。

『強攻型フラウ』のテクストコンバータをフル稼働させ防御用の言語テクストを展開し最初の三発を弾き飛ばし、残り一発が届くころには既に加速し回避行動へと移っていた。


“私、君のその剣を持ってた奴と戦ったことあるよ”

“知ってるわ”


クリオ・リリック。彼女のことを少しは悲しんでやれ、とレニは自分に言った。


“勝ったのは私だった”

“それも知ってる”


クリオはこのアカい魔剣士に敗けた。

隊長としての立場も、軍人としての体面もすべてかなぐり捨てての行動だったと、記録には残されていた。


“なんだ、ソイツのリベンジに燃えてるのかと思ったのに”


せせら笑うようにメイズは言った。

こちらの気を逆撫でするその声を聞いて、クレイユは寧ろひどく醒めた心地になっていくのがわかった。


――ああ、本当この人は


露悪的な人だと、クレイユは目の前の敵のことを想う。

戦場でしか会ったことがない存在でありながら、どことなく共感に似た感情をメイズに抱いていた。

だが同時に絶対的な溝があることも意識していた。


“貴方、たった一人なのに、寂しそうじゃないわ”


クレイユはメイズとの中距離での砲撃戦を演じながら言葉こえを投げつけた。


“私は――やっぱり彼女のことがわからない。過去のどこですれ違ってしまったのかも。私が思い描いていた彼女は像は間違っていたのかも、全部わからない。本当の彼女は――果たしてどういう人だったのかしら”


わからない、とクレイユは震える言葉こえで言った。

彼女にとってのクリオという人は、他の人たちと同じく自分を嫌っている部下で、それ以外の面など想像もできなかった。


“遅すぎたのよ。だから彼女のために戦うなんてことは、私には言えないわ”

“そうか、それは悲しい話だと思うね”


メイズは端的にそう切り捨てた。


“じゃあ君の戦いは何にも背負っていない訳だ”

“背負えないわ。何が本当だったかなんて、わからないもの”

“そりゃそうだろう、私だってわからない。わかることしかわからない”


そう言い切るメイズと向き合いながら、クレイユは考えていた。考え続けていた。

クリオのことはわからない。

後から色々聞かされたところで、もうそれを本当のことだと思うことはできない。


では逆に――自分の中で、本当だと言い切れることはなんだろうか。


何故自分は今ここで戦っているのだろう。

それは迷いではなかった。

メイズという敵を打ち倒したいという想いは、心の奥底から強い溢れ出ている。

だから振るう剣身ブレイドにも一切の迷いがなかった。


レニのためだろうか。それは嘘ではない。

身を賭してこの場につなげてくれた彼女のために戦っていることは間違いではないのだ。

だけど、たぶんそれだけじゃない。


じゃあ――ケイのためだろうか。

彼のことを、きっと自分は信じているのだろう、好いているのだろう。

それでもならばこそ、ここでメイズとの戦いを選ぶ意味はあまりない。

別に彼女を倒さずとも、ケイの戦いが終わるまで、彼女を足止めする程度でいいのだ。

自分が今この場にいるのは、そんな生優しい感情ではない。


“私の本当は――”


メイズと刃を交えながら、クレイユは考え続ける。

この戦いの意味を、自分が何故ここまでやってきたたのかを。


“面倒なことをやる!”


メイズの言葉こえが響き渡った。

砲撃ショットによる押し合いをじれったく思ったのか、『フラグナッハ』を駆りこちらを頭上から強襲しにくる。

高度を取られたことでクレイユは一気に不利な立ち位置となる。

だが同時にそれは好機でもあった。

カウンターを狙っていたクレイユにしてみれば、その強引な一撃こそが待っていたもの。


『強攻型フラウ』は敏捷性は低く、強引な改造を施したことで騎体バランスもひどく悪い。

誰もが使いこなすことができた『フラウ・フラウ』をベースにしながらも、それとは真逆を行くクセの強い魔剣だった。


だが一点――一瞬の爆発力は、他のどの魔剣にも負けないものがあった。


“私はそう、ただ!”


アカと青の魔剣士の視線が絡まる。

その一瞬、世界が静止したかのような感覚が走り抜けた。


“終わりだ! 青い精鋭エース!”


やはり速度では『フラグナッハ』に敵わなかった。

その細身の刃がメイズの右肩をえぐり取り、真っ赤な鮮血が空に舞い散る。

激烈な痛みがクレイユを襲う中、彼女もまた言葉こえを上げた。


“剣士として! 貴方に敗けたくないってそう思ったから!”


――瞬間『強攻型フラウ』のテクストコンバータが稼働した。

規定される容量をはるかにオーバーした大量の幻想リソースが放出される。

鋭きアカの刃を覆い隠すように、空に青い幻想リソースが炸裂していく。


“暴走――爆発!?”


メイズの言葉こえにクレイユは思わずニッと笑みを浮かべた。

この戦い方はそう、クレイユがメイズとの初戦において敗戦を喰らった戦術そのものだからだ。

敵の攻撃をわざと受けるように待ち、逃げられる前に自分ごと爆破をする。


違うのは一点――その爆発の規模だ。

バチバチと『強攻型フラウ』のテクストコンバータが火花を上げる。

元より無茶な改造騎体を暴走させたのならどうなるのか。


“私の……敗けか”


メイズの言葉こえこぼれ落ちた。

同時に視界すべてが青に染まった。

安全弁セイフティとして発動した言語テクストごと跳ね飛ばされながら、クレイユは想う。


これは――自分のための戦いだった。


自分に対して嘘を吐かないための戦い。

孤高な騎士でも、哀れな軍人でもない、クレイユ・リクイエストとしての中に根付いた意地を通すためのもの。


そうすることで――きっと初めて自分はあの人たちに向き合うことができる。



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