表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/50

【青】対峙

“ケイ、抜け駆けはダメ”


白い街の中、クレイユは青くカラーリングされた魔剣を握り締めていた。

それは『強攻型フラウ』と呼称される特殊な魔剣だ。

クリオ・リリックがメイズを打ち倒すためにレニに用意させた『フラウ・フラウ』の改造騎。


それは言葉船テクストシップ用の大型コンバータと『フラウ・フラウ』に直結させるという無茶な改造プランだ。

何故こんな無茶なものが製造されていたかというと、元々塔を訪れた“冬”の正規軍人サキトが現地の魔術師エンジニアを乗せてチューンナップさせていたからだ。


その時点で余っていたコンバータをとりあえず何騎か組み合わせて作り上げたものだ。

そのような経緯だから、正式な装備としてカウントされず、レニが何かあったときのための保険として隠し持つことも可能だった。


“コイツは私の敵よ”

“クレイユさん!”


ケイが声を上げる。

街は彼とメイズがやり合った余波でかなりの存在が出ていた。

砕け散った煉瓦、舞い上がる雪、そして飛び交る無数の幻想リソース……


“クレイユさん、逃げられたんですね! だったら早くここから逃げて”

“駄目”


クレイユは首を振った。


“あの船に私の仲間がいるの。私のことを嫌いなのに、私を逃がしてくれた可愛い仲間が”


クレイユに、クォード計画とかいうものに隠された真実など興味はなかった。

だがここまで自分たちをハメた奴らを許す気はない。

そしてこのアカい魔剣士が、その心情はどうあれ、立場としてはこちらの立場であることは間違いなかった。


“だからケイ、貴方も先に行きなさい――きょうだいが待っているはずよ”


ケイが息を呑むのがわかった。

彼にしても状況がおぼろげながらにわかっているのだろう。

恐らくは、あのルーシィを名乗る少女こそが――


“私としても、あの計画は気にくわないんだけどな”


そこでメイズが口を挟んだ。彼女は納得いかない、とばかりに腕を組んでいる。


“奴らの手先みたいに言われるのは心外だ”

“別に間違っていないでしょう?”


クレイユは笑った。


“お前、私と違ってしっかり約束は守りそうだし”

“まぁ、君を助けてしまった時点でね……でもまぁ、次はもう殺してしまってもよさそうだ”


ぽりぽりと頭をかくのが見えた。同時にアカい魔剣『フラグナッハ』が揺れる。


“ケイ! 早く”


そう言葉こえを張り上げながら、クレイユもまた『強攻型フラウ』を構えた。


“決着よ、アカくて小さな隊長キャプテンさん”

“そうかい、青くてさみしがり屋の精鋭エース


――次の瞬間、二人の魔剣士は空にて激突した。



 ◇



傷を負った左腕からはじんわりと血が滲んでいた。

破った修道服の裾でキツく縛り付けて強引に止血をしているが、痺れるような痛みは未だに続いていた。

それだけではない。

先ほど地面に叩きつけられたことで打ち身をしたらしく、身体中が断続的な悲鳴を上げていた。


「はは……でも、ここじゃあ、止まれないな。クレイユさんが敗けたら、リベンジするのは今度こそ僕なんだから」


ケイはかすかに笑みを浮かべながら『ルジエクォード』を引きずって歩いていた。

フル稼働させ続けたコンバータを少しでも休ませたかった。

きっとこの先で、また剣を交えることになるから。


誰もいない真っ白い街。

白と黒の陰影だけですべてが描かれているように見えた。

そしてこの光景にひどく懐かしさを覚えていることに気付いた。


塔の最上階によく似た街――いや、あそこがこの街に似せられて作られているのだ。


何故だかケイはそう確信していた。

記憶になくとも、自分のどこかにこの街のことが刻み付けられている。


そうだ確か、■■はここで倒れたんだ。

あの戦争が始まって、すべてが焼かれてしまったその先で、■■はすべてをあきらめた。

そしてどこかで聞いたおとぎ話を連れ添っていた筈の妹に告げたんだ。


刻み込まれた言語テクストが傷ついたケイの身体を支える。

まるで導かれるかのように、ケイは白い街の中心で、彼女に再会した。


静かに、風が吹いていた。


純白の世界の中、真っ黒な服を身に纏った彼女は、しかし、どこか周りの風景と馴染んでいるようにも見えた。

風に吹かれ揺れる前髪、その背中の向こうに広がる純白の街、白黒モノクロの世界において、彼女の瞳だけは鮮やかに赤い……


「ルーシィ」


ケイはその名を呼んだ。

赤い魔剣を引きずり、自分とうり二つの外見をした少女と相対する。


「おかえり、兄貴」


そう言って、ルーシィはその大きな瞳でケイを見た。

その手には赤の魔剣と対になる、漆黒の魔剣が握られている。


「教えてくれよ、ルーシィ。僕とお前はその――なんなんだい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ