【青】幻想よりも、ずっと
“EcZaiobgPQHTYvI9b0lx356p2v0uBSahRw24OfnNwFxwB1avhYUAHTi60G5qJNwkxVbGkGckSFE5ZWdP2WHDS6ipBSjwhWlBR4sbkJUh1eqyNaHKfp9hbOOgkJHL1eWMv4WyF0GWWC6xxBsU26rVi7oUwox”
無数の言葉が画面に表示される。
ケイにはそれを読むことができた。
“雪の中に首を突っ込むと、焼けるような痛みを感じた。意外なことに冷たくはないのだ。肌を炙ったような痛みが傷だらけの身体に染みわたり、身体が溶けていくような錯覚さえ覚えた”
その言葉の意味がケイには理解できた。
だからこそ彼はこの『ルジエクォード』を駆ることができる。
「お前、私に」
「見捨てたくないんです!」
ケイは叫びを上げて『ルジエクォード』を駆った。
飛行の言語を稼働させ、猛烈な勢いで放出される言語を踏みつけて彼はクレイユと共に上昇した。
廃墟の天井を強引に突き破り、再び二人で生き残るべく彼は飛ぶのだ。
クレイユは不可解な顔をしてケイを見上げている。
それに対してケイは思う。ここにいるのはあの青く自由な騎士ではない。
そんなことは知っている。それでも彼は彼女と共に飛びたかった。
“行きますよ――”
ケイは『ルジエクォード』の柄を握りしめる。
飛び上がったことで彼は再び『アマーリア』と相対する。
すべてが無に帰ろうとする街の頭上を、切り裂かれたドレスを身に纏う少女が待っている。
少女型魔剣ともいうべき、あれを退ける方法は二つだ。
まずはテクストコンバータの急所を正確に狙うこと。だがこれは失敗した。となればもう一つの方法だ。
『ルジエクォード』の剣身は膨大な量の幻想を纏っている。
この新型魔剣は通常では考えられないほどの高出力を実現しているのだ。
それ故に自分はここまで何とか生き延びてきた。
これを攻撃に使う。『アマーリア』を『ルジエクォード』が展開できる最大火力の言語によって殲滅するのだ。
「お前……!」
腕の中でクレイユがこちらを見上げて言った。
「ありがとうございます。名前、覚えていてくれたんですね」
ケイはそこで笑った。
これまで浮かべたことがないような、晴れやかな笑い方ができている気がしている。
「僕はそれが嬉しかった」
“何よりも、僕の憧れが、ただの幻想に過ぎなかった悲しみよりも、そのことを嬉しく思ってしまった――矛盾してますよね”
でもだから一緒にいたいんです、とケイは告げた。
その言葉が彼女にどう伝わったかはわからない。
既に『アマーリア』から視線を外せるほど余裕はなく、クレイユの顔を伺うことはできない。
「――剣の持ち方は、そうじゃないわ」
ケイの手にクレイユの手が重ねられた。
小柄なケイをクレイユが後ろから抱きかかえるような形で、二人で一振りの魔剣を握りしめる。
赤い幻想の中で、ケイとクレイユは二人で『アマーリア』と相対した。
「動きは私がフォローする。言語展開のタイミングも指示をする。だから、ケイ、お前は飛んで。迷うことなく、あの敵の下へと飛んでみせて」
「わかり、ました」
耳元でささやかれた声に、ケイは決意と共に頷く。
魔剣士としての技量はクレイユに補ってもらう。
だから迷ってはいけない。躊躇ってはいけない。
二人で生き残る。
そのためには――ここで勝ってみせるしかない。
『アマーリア』は茫洋と空に佇んでいた。
力なく首をケイたちに向け、その腕を広げる。幾多の幻想が収束していき、さらに言語が展開される。
「飛んで!」
その声と共にケイは空を赤く染め上げる。
空に広げた加速用の言語を何重にも踏みつけながら、爆発的な推進力を持って『アマーリア』に迫る。
「もっと速く、鋭く――」
膨大な幻想を操ることは今のケイの技量では容易なことではなかった。
手は震え、刃もぶれそうになる。けれどそれを押さえるようにクレイユの手が重ねられていた。
その力強さが、ともすれば恐怖に屈しそうになるケイの心を支えてくれる。
「――飛びなさい!」
ケイは声にならない叫びを上げた。
『ルジエクォード』は赤い幻想が強固に収束し、本来の剣身よりも数倍長い刃を形成していた。その刃は振りかぶる。
生半可な光など、この赤い刃ですべて弾き飛ばしてしまえばいい。
「斬るぞおおおおおおおお」
背丈を超えるほどの大剣と化した『ルジエクォード』を『アマーリア』へと放った。
そして、




